囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






泣いている。子供が泣いて泣いて泣いて縋りついてくる。
だから約束した。大丈夫、帰ってくる、そうしたら今度こそ一緒にいよう。ずっとずっと一緒にいよう。
小さな体を抱きしめて、強く強く抱きしめて。離れている間もこの腕が覚えていられるように強く。
そっと体を離せば子供が涙溢れる目で見上げて、約束と小指を差し出してきた。
それに微笑んで小指に自分の小指を絡めた。

子供が笑った。

ああ、これだけで大丈夫。頑張れる。この笑顔をもう一度見るためならば、きっと帰ってくるから。
もう一度子供を抱きしめて、額に口づけた。

いってきます。
いってらっしゃい。

子供からの口づけが頬に送られたのを幸運のおまじないとして、プラントを出て戦場へと向かった。














そうして帰ってこなかった人はどれほどいるのだろう。
そうして破られた約束はどれほどあるのだろう。
戻ってきた人と戻らない人の違いはなに。














* * *


『守りたい人達を守るためにも、あの痛みを忘れたくないんだ』

だから子供は歩く。
あなたの言ったことと何も違いはないんだ。そう思って安心した。安心して、だからこうして歩く。
元々立ち止まるつもりはなかったけれど、それでも後押しされた気分で足取りは軽い。

「痛くて痛くてしかたがなくて。でも忘れるなんていやで」

ぴょんっと目の前の段差を跳んでまたぐ。

「守りたいんだ、僕達も。守りたいものがあるんだ。
それはきっとなくしたものが痛くてたまらないから。だから守りたいと思ってるんだ。それでも」

ふと視線が一つに定まって足が止まる。
その視線の先には黒い車が一台。運転手の若い男が見える。深い青の髪をして、顔半分をバイザーで隠している。
後ろは見えないようにしてあるけれど、子供は誰が乗っているのか知っていた。

「・・・守りたいんだ」

ぽつりと呟く。

だからどうか邪魔をしないで。僕達のすることを、どうかどうか邪魔しないでいてほしい。

そんな子供の視線を感じたのか、運転手の男がこちらに顔を向けた。

あなただって同じでしょう?本当は守りたいでしょう?でもあなたはきっと手を貸してはくれないから。

心で語りかけて、子供は視線をそらしてたっと走り出す。




「どうか歌姫を。僕達の歌姫を守って」




キラ・ヤマト。


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短いなと思いつつ、7話です。
これくらいの短さの方がよくないだろうかとふと思いました。
が、実践できるかどうかはまた別の話(泣)。

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