囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






軽い衝撃に驚いて視線を落とせば、子供が尻もちをついていた。
キラは慌てて手を差し伸べ、ごめんね大丈夫?と声をかけた。
子供はだいじょうぶ、と笑って、ごめんなさいとキラに飴を差し出した。
キラが首を傾げている間に子供は走っていってしまった。

そんなことがあったのは、キラがアスランにラクスは返さないと言われてから一週間が経とうとした頃。
貰った飴をポケットに入れたままであったのを思い出したのは、その二日後。

カサッとポケットから紙を取り出す。
白い紙に書かれたものは『Athrun Zala』とあり、下に住所が書かれていた。
意味を理解するのはすぐだったが、信用するのは酷く時間を要した。当然だ。
アスランの行方が知れなくなってから、幾度も幾度も調べたのだ。ハッキングも繰り返した。
けれど公にされている以外の情報は全く出てこなかったのだ。
プラントでアスランと再会して、それからもアスランと話をと思い願っても許されず。
ならばと居場所を探ろうとしても、やはり欠片の情報も手に入れられなくて。
それがこんな方法で手に入るものだろうか。
悩んで決心して、けれど会えなくて。そこにアスランいるのかも分からないままで。

キラはちらっと隣を見る。
同じベンチに座っているのは、飴をくれた子供。嬉しそうにジュースを飲んでいる。
キラが外を散歩がてらにぶらぶらと歩いているところに声をかけられたのだ。
子供には聞きたいことがあった。
あの情報はどこから誰が何のためにもたらしたものなのか。
子供は何もしらないのかもしれない。ただ道でこれを渡して欲しいと頼まれただけなのかもしれないのだから。
けれど子供は再びキラに接触してきた。だからそうでない可能性は高い。

「君がくれたあの飴だけど・・・」
「うん。おいしかった?」
「あ、うん。ありがとう」
よかったと子供が笑った。そしてポケットからもう一つ飴を取り出し、はいあげるとキラに手渡す。
今度はぶどう味なんだよと笑う子供に、キラは戸惑いながらありがとうと返す。
この飴にも何か情報が書いた紙が入っているのだろうか。それともただの飴なんだろうか。
それをここで確かめた方が子供にも聞きやすいだろうか、と飴を見下ろしていると、子供があのね、と言った。
「あれもこれも父さんからもらったんだ」
「え?」
キラが首を傾げれば、子供も首を傾げる。
そして両手に持ったジュースをベンチに置くと、キラの膝に両手を乗せ、顔を近づけてくる。
「お兄さんはね、大切な人を守るために戦ってるんだよね。父さんもなんだ」
いきなりの言葉にキラは返す言葉に困るが、子供は気にした様子もなく悲しそうに目を伏せる。
「みんなみんな大切な人を守るために戦って。そして今があるんだよね。でもなくしたものもあるよね。
お兄さんはそれをどうでもいいって思う?なくしちゃったものは、もう忘れなさいって思う?」

キラの膝に置かれた小さな手が震えている。
それにキラはこの子供が何か大切なものを失くしたのだと気づく。おそらくは先の戦争で。
それをどうしてキラに言うのかは分からない。そもそも子供が何者で、何をしにきたのかも分からないのだから。
けれど、とキラは子供の頭を優しく撫でる。

「僕はどうでもいいなんて思わないし、忘れたほうがいいなんて言わないよ」

子供が顔を上げるのに、優しく優しく微笑む。

「僕はずっと覚えてる。守れなかった人達のこと。失くした人達のこと。辛いし苦しいし、忘れた方が楽なのかもしれない。
でも僕は覚えてる。覚えていたい。一緒に過ごした時間も、楽しかったことも辛かったことも全部」

真剣な顔でキラを見上げてくる子供は何を思っているのだろうか。
キラが子供ぐらいの年の頃、まだ世界は優しかった。アスランもまだ側にいて、一緒に笑っていた。
失くすものがあるなんて思ったこともなくて、大切なものはずっと側にあるのだと信じていた。
けれど子供はもう知っているのだ。大切なものを失くすその事を。戦争がそれを子供に教えたのだ。
そんなことはもうあってはいけない。そう思う。そうあるようにしなければいけない。オーブが、カガリがそれを導くだろう。
キラとラクスはマルキオ邸に戻って、ささやかな暮らしを続けるつもりだったけれど、それでも微力ながら手伝うと約束した。
戦争の醜さ、不条理さを知るからこそ、中立を保ち続けた国から世界へと呼びかけ続けようと。
そのためにもラクスを取り戻さなくてはいけない。

「そして今守りたい人達を守るためにも、あの痛みを忘れたくないんだ。だから君に忘れろなんて言わない。
君が忘れたくないと思うんなら忘れなくていいよ。忘れたいと思うんなら忘れてもいい。
君の大切な人はきっと許してくれると思うから」

ね、と言えば、子供がうつむく。そして次に顔を上げた時には満面の笑みを浮かべていた。









「僕の父さんはね、大切な人を守りたいんだって。でもね、父さんだけじゃ無理なんだって。
だからね、お兄さんに助けてほしいんだ」

子供が足をぶらぶらさせながら言った。
訝しげに眉を寄せたキラを子供は笑って見上げる。
「お兄さんの大切な人。守りたい?父さんが手を貸しますって。だから手を貸してくださいって」
「え」
キラが目を見開く。どういうこと、と席を立つと、子供が飴と言う。
「連絡して。父さんがまってるから。どっちでもいいって。お兄さんの手は貸してほしいけど、
無理になんて言わないから、ゆっくり考えてって」
ぴょんっと子供がベンチを降りる。
キラは子供を見下ろしたまま、君は誰と呟く。
「君は誰で、君のお父さんは誰なの?どうして僕にそんなこと・・・」
「守りたいんだ。それだけなんだ。僕も父さんも」
子供が射抜くような目でキラを見る。それに息を呑んだ瞬間、子供はまた笑顔になる。
そしてキラの腕を引いて背を曲げさせると、子供は囁くように言った。




「歌姫のために力を貸してください。ラクス・クラインの守護神」




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話が進まない・・・。
でもとりあえずそろそろ話が動き出します。

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