囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






「皆さんもご存知の通り、ヤキン・ドゥーエの戦いの後、訳あってわたくしはプラントを離れ、オーブに身を寄せておりました。
プラントがわたくしを求めていたことを知っておりました。ですが、わたくしはプラントの民自身の足で立ち上がって欲しかったのです。
誰かの言われるままに、誰かに頼って。そうではなく、己自身の意志でプラントを作り上げていってほしかったのです。
それがもう一人の『ラクス・クライン』を作り上げることになったこと、残念に思います。共に反省もしております。
ですが、もう一人の『ラクス・クライン』。彼女には感謝をしているのです。
ギルバート・デュランダルの思惑に、政治に利用されていらしゃったことは確かです。
それでもプラントのためにと思い、わたくしの帰りを待っていてくださったのです。その想いに偽りなど見えません。
そしてわたくしを守るために、持ったことのない銃を手にされました。そんな彼女に、わたくしは罪があるとは決して思えないのです」




プラントに戻るというアスランについてプラントに戻ったミーアは、拘束を解かれたその時、言われたのだ。ラクス様に感謝しろ、と。
あの方がそう言って下さったからこそ、お前の罪は許されたのだ、と。
それについてミーアはそうなの、と思っただけで、特に感銘を受けたわけではなかった。

ミーアはラクス・クラインが幻想に過ぎないことを知ってしまった。
プラントが求めるラクス・クラインが存在しないことを知ってしまった。
そしてラクスがプラントを離れていたのはキラの側にいたかったからだと知ってしまった。
再びラクスが動き出したのは、命を狙われたからだ。ラクスの望まぬ世界を押し付けられようとしたからだ。
だからラクスは戦って、そうして勝利を収めた。
ならばラクスは今度こそプラントで己の信じる世界のために尽力すべきだったのに、後はよろしくとばかりにオーブへ帰ろうとした。
そんなラクスの言葉を聞かされても、ミーアは嬉しいとは思えない。感謝をされても同様だ。
だから表面上だけは笑って、ありがとうございますと、申し訳ありませんでしたとお伝え下さいと頭を下げた。

それからミーアは、共に釈放されたアスランとギルバートと共に一つ屋根の下で生活している。
それはそれぞれに監視をつけるよりも一緒に住まわせ、そこに集中して監視をつけた方がいい、ということかららしい。
外出を許されず家に閉じこもる日々を三人で過ごしてしばらく、ギルバートは議員へと復帰した。
そんなに人材不足なのかしら、とミーアは首を傾げ、アスランは苦笑したものだ。

ギルバートが出勤している間、アスランと二人で家で留守番をして、帰ってくるギルバートを出迎えて。
釈放はされても警戒はされている。なのにこんなに平和でいいのかしらとミーアが思うぐらいには平穏な日々だった。
そしてラクス・クラインがプラントに帰ってきたと、ニュースが流れたその数日後、アスランはアレックスと名乗り
ギルバートの護衛として外に出ることになった。
そのため今、ミーアは一人で留守番だ。一人でギルバートとアスランを見送り、出迎える。
だから今日も一人だった。

「ちょっと!どういうことよ!!」

ミーアは一人でクッションを抱きしめて叫んだ。
監視は何やってるのよ、監視はああ!!と睨みつける先は、玄関を映すカメラの映像だ。
チャイムが鳴って、けれど尋ねてくる人がいるはずがない。
ここは申請を出し、許可が下りて初めて訪れることが出来る家なのだ。まだこの家の住人に自由は与えられていなのだから。
けれど来客がくるなどミーアは聞いていない。だから可笑しいと思い玄関の監視カメラの映像を見てみたら・・・。

「なんでキラさんがいるのよ」
そう、そこにはキラ・ヤマトが立っていた。
「どうやって調べたのよ。ここ機密扱いじゃなかった?」
キラは一向に出てくる様子のない住人に眉をしかめ、どうしようかと考えているようだ。
「アスランに会いにきたのかしら。確かにいつもならもう帰ってきてる時間だけど」
それすら調べてきたのだというのなら、評議会のセキュリティは大丈夫なのだろうか。
「でもでも、今までばれなかったのよね?何で急に・・・」
キラが監視カメラに気づいたのか、こちらを見た。そしてなにやら口を動かしているが、聞こえない。
アスランなら口の動きで言っていることが分かるのだろうが、ミーアにはさっぱりだ。
そしてキラはしばらく待って、そしてため息をつくと踵を返した。
それに我知らず入っていた力が抜け、ほうっとミーアはため息をつく。そしてクッションに顔を埋める。

「あすらぁん、早く帰ってきてぇ」

監視がね、職務怠慢なの、とクッションごと床に寝転んだ。


* * *


「まだプラントにいるんですか、あいつ」
帰り道、車を運転しながら軽く眉をしかめたアスランに後部席のギルバートが苦笑した。
ラクスに会わせてほしいとオーブの特使としてキラがきてもう二週間だ。目的を果たすまで帰らないつもりなのだろうか。
「プラントにおけるオーブの印象が悪くなるばかりだというのだけれどね」
その言葉に頷く。
引き際が大切だ、と誰か教えてやらなかったのかと。
どうしても諦めきれないのならば、一度オーブに帰って対策でも練り直してくればいい。
馬鹿の一つ覚えのようにラクスに会わせろ、ラクスを返せと言っていても何も変わりはしない。
変わるのはオーブという国に対しての認識だけだ。それも悪い方に。
あれだけ言ったのに。
キラと対面した時のことを思い出し、アスランが表情に影を落とす。
それに気づいているのかどうか、流れる景色を眺めながらギルバートがアスラン、と呼んだ。

「少し不穏な動きがある」
「不穏?」
バックミラー越しにギルバートを見ると、ギルバートもアスランを見た。
「ラクス・クラインを絶対としているクライン派がまだいることは知っているね?」
「はい。以前に比べれば大分減ったとはいえ、まだ油断はできないと」
「そう。何かを企んでいるようでね」
アスランの顔が歪む。ラクスを心棒するクライン派が企むことなど決まっている。
「ラクスを取り戻すためですか」
「もしくは、ラクス嬢の願いを叶えるため」
「・・・キラとの接触は」
「今の所はないとのことだよ」
ラクスの願いも決まっている。キラのところに帰りたい。オーブで穏やかな生活に戻りたい。
それを叶えようというのならば、クライン派はオーブやキラと接触を取ろうとするだろう。都合の良いことにキラは今プラントにいる。
クライン派が協力を申し出れば、キラはそれに感謝するだろう。その手を取るだろう。彼らの願いは同じなのだから。

「私が言うのもなんだけれどね、彼らの盲目さには呆れを通り越して感嘆してしまいそうだよ」

ラクス様のために。
それは彼らの謳い文句だ。
ラクスのために、ラクスが思うことを叶え、ラクスが笑っていればそれでいい。そのためならば何でもする。
そう思っているクライン派は特に軍人に多い。
しかし人は見返りを求めるものだ。ましてやラクスの心棒者の中には政治家もいる。
彼らは己の求める世界をラクスが作ってくれると信じるからこそ、ラクス様のためにと謳うのではないのか。
己の利益を上げてくれるからこそ、謳うのではないのか。
ならば彼らとキラは真実相容れるものではないと思うのだ。そこには齟齬が存在する。
けれど齟齬が明確になって現われるまでは、こちらにとって厄介な相手となる。
アスランは小さく息をつく。ギルバートは苦笑して、見えてきた我が家に視線を移す。

「どうやって決着をつけたものかな」

いまだ自由を制限されているギルバートに出来ることはそうない。それはアスランも同様で。
だからそうですね、としか返せなかった。

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すいません。終わりが見えてこないので、のんびりと待ってやってください(汗)。

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