囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






「ラクスはエターナルとフリーダムを秘密所持し、尚且つ新しいMSを製造していた。
それが可能で、それを使うことにためらいがない。だから狙われた」

これ以上ない理由。
けれどキラは反論する。

「僕らはただ静かに暮らしてた!なのにそっちが手を出してきたんじゃないか!!」
「一度ラクスには前科がある。静かに暮らしていたからといって安心できるか?」
平和の歌を歌っていたラクスが当時連合兵だったキラを匿っていたうえ、プラントからエターナルと新型MSを奪った。
そのことから何かあるのでは、と疑ったのだとしても仕方がない。
「そんなの、そっちの勝手じゃないか!そっちが勝手に不安になって、勝手に疑ってるだけじゃないか!」
「結局持ってたじゃないか」
「結果論だ!持ってなかったら?そしたらラクスを殺した後、後悔するの!?」
「まさか。持ってなくても一緒だ」
「な・・・!?」
キラが目を見開くのに、アスランは構わず続ける。

「言ったろう?ラクスには前科がある。そして『ラクス・クライン』にはそれだけの価値がある。
その名と姿はとんでもない爆弾なんだよ、キラ」

それはラクスの蒔いた種だ。
『ラクス・クライン』を作り上げたのは確かにプラント市民だが、それに任せていたのは他でもないラクスだ。
だからその名が強大な『力』となったのだ。
なのにラクスはその名を背負ったまま、そしてエターナルを持ったままプラントを去った。
静かに暮らしたいというのならば、エターナルもフリーダムもプラントに返すべきだった。
歌姫ラクス・クラインを引退する、と宣言すべきだった。
今後、政治にも戦争にも関わらないと、そう伝えるべきだった。
それを怠ったラクスの当然の結果だった。
けれどキラは机を叩いて立ち上がる。

「ラクスはラクスだ!ラクスを思い違いして、ラクスを自分達の都合のいいように考えてるだけじゃないか!」
「ラクスは『ラクス・クライン』である以上、一市民じゃない。それだけの実績がある。それだけのものをラクスは築いてきたんだ」
だからラクスの言葉はプラントに響くのだ。今までのラクスを知る人々に、だからその言葉は届くのだ。

「名誉も力も名も、何一つ捨てずに一人の少女になれるはずがないだろう?
『ラクス・クライン』の名と兵器。それを持ったまま姿を消しておいて何もしません、なんて安心できるか?
できるはずないだろう?当然だ。なら、そうして消えたラクスの何を信じたらいいんだ?どうすれば信じられるんだ?」

言葉を信じられないというのなら、形で示すのが当たり前。
それを為そうともしないラクスに、鎖をつけて何が悪い。
そうでしか安心できないのだから。そうでないと不安で仕方ないのだから。


プラントにそう思わせたラクスに、どうして罪がないといえるのだろうか。


キラの顔が歪んだ。泣き出しそうな顔でアスランを見る。

「何でっ、何で君は!他でもない君が、何でそんなこと言うの!?ラクスのこと、君だって知ってるだろ!?」
「だから言っている」

無駄だと知っていた。
何を言っても聞いてはくれないと知っていた。それでも考えて欲しかったのだ。
ラクスを取り戻す方法はある。
ラクスが全てを、持ちうる全てを捨てることだと。かつてのアスランのように、全て。
それがラクスを取り戻す方法だと、アスランはそう口にしたというのに。
なのにキラはそれに思い至らない。

『力』を振りかざして。
『力』がなければ何も叫べなくて。
だから『力』を手放さない。
そのくせ、他者には『力』を放棄させようとする。

アスランはもういいと思う。
もっとはっきり言えばいいのかもしれない。けれど、もういいと思うのだ。

プラントに戻り、裁かれ、赦された。
赦されたことはアスランにとっては苦痛でしかなかったけれど、それを罰として抱いていこうと決めた。
キラ達に連絡を取らなかったのは、キラ達は赦すから、喜ぶからだ。
よかったね、と。皆、ちゃんとアスランのことわかってたんだよ、と。
そんなことはない、とアスランが思っていても、キラ達はそれを否定するからだ。
それではアスランの罰が罰と成り得ない。だから連絡を取らなかった。

だが今は違うのだ。
ラクスがプラントへの帰還要請を断ったと聞いた。
連れ戻されてなお、ラクスは自分の役目は終わったのだと、オーブへ返してくれと言っているのだと聞いた。
AAからはラクスとエターナルの返還要求が届き、オーブからも問い合わせがあったのだと聞いた。

戦争が起これば現われ己の意志を通すのに、戦争が終われば後は好きにしろと言わんばかりに去って行く。
前回は疑問に思わなかった。けれど、今回は違う。どうして、と思った。
この状態のプラントを置いていくのか、と。

『ラクス・クライン』として問題提起を投げかけたあなたが、投げかけるだけ投げかけて再び姿を消そうというのか。
『ラクス・クライン』が不在のために『ラクス・クライン』が作られたことを知っているでしょう?
それが何故なのか、それを考えはしなかったのですか?
再び姿を現し、こうして戦争に勝利した。
その結果、プラントが『ラクス・クライン』にますます依存するだろうことは分かりきったことでしょう?
混迷した世界を救う我らが歌姫。我らが導。そう呼ばれている今は、あなたが招いたことなのですよ?
なのに、どうして自分は必要でないなどと言えるのですか?

そう思った。

そうして再びキラの前に立ち、微かな期待も打ち砕かれた。
だからもういい、と思うのだ。

アスランは立ち上がり、スクリーングラスをかける。

「ラクスを返せとお前は言う。だが『ラクス・クライン』は元々プラントのものだ。あるべき場所に帰っただけのこと」
「アスラン!!」
「おひきとりを」
「アスラン!!」

ぐっと胸元を掴み上げてくるキラに、スクリーングラスの下から冷たい視線を送る。

「オーブの特使たるあなたのこの行動を、こちらはどう受け取ればよろしいでしょうか」
「ごまかさないで!!」
「外交問題になることをお望みか、オーブ特使どの」
「!!」

力が緩んだキラの呆然とした顔に冷たく笑うと、一歩下る。

「ご自分の立場をお忘れになられませんよう」
「ア・・ス、ラン」
「お気をつけてお帰り下さい」






そうしてアスランは一礼した。

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ミーアは次に出てくる予定です。次はアスミア。
予定です(おい)。

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