囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






父親がいた。まだ若い父親。彼は子供を育てるにはまだ若すぎた。
母親もまた若かった。若い母親は子供を生むと、父親に託して姿を消した。
生まれたばかりの子供と若い父親。それに手を差し伸べたのは子供の祖父。
祖父は子供を自分の子供として届けを出した。子供は父親の弟となった。

いつか、そう、いつか呼ぼうと思っていたのだ。
兄が父親だと知ったその時から、いつか呼ぼうと思っていたのだ。

「お父さん」

隣で一緒にラクス・クラインが乗るシャトルが旅立つのを見ていた男が、小さく呟いた子供を見下ろした。
子供は男の手をぎゅうっと握って、もう一度呟いた。

「お父さん」

兄は子供が真実を知らないと思っていた。それでも父親としてたくさんの愛情を注いでくれた。
そんな兄はそう呼んだなら、どんな顔をしてくれただろうか。喜んでくれただろうか。
どうしてもっと早く呼ばなかったのだろう。せめて兄がエターナルに二度目の乗艦をする前に呼べばよかった。
無事に帰ってくる保証などなかったというのに。

男が子供の手を揺らしたのに、子供が顔を上げた。
帰るかと男が微笑んで、うんと子供が頷いた。
もう一度空を見上げて、もう見えない過去の歌姫に子供は囁いた。

「さようなら、ラクス・クライン」




* * *


「アスラン・ザラはパトリック・ザラの一人息子。戦犯の息子。だが同時に英雄でもある」
「二度の大戦、彼はラクス・クラインの元に集った。けれど彼はザフトにいた。ザフトとして戦い、そうして離反した。
大切なのは初めにザフトにいたということ」
「プラントを守るザフトにいた事実は重要です。彼は離反したけれど、結果的にそれがプラントを守ることとなった。
暴走するプラントのトップを止めることとなり、終戦を導く結果となった」
「彼はプラントを守るために戦う者。そのためならば、どれだけ批判されようとザフトを離れることも厭わない。
国民にそう認識させればいいのだ」
「『もしも我々が道を違えたのなら、どうか正して欲しいと。そう彼にFAITHの証を渡したのです』
デュランダル議員のその言葉こそがアスラン・ザラが反逆者でないとする証となる」

最高評議会議員が笑みを交し合い、話す内容はアスラン・ザラのこと。
つい先程捕らえた男は最後の切り札とばかりにアスラン・ザラのことを口にする。おそらくは法廷でも口にするだろう。
けれど無駄だ。男のそれは切り札とはなりえない。男が思うほどアスラン・ザラは国民に悪感情を持たれてはいないのだから。

「ラクス・クラインとアスラン・ザラの違いはそれだ。彼は先の戦争が始まる前にプラントに戻っていた。
ザフトに戻っていた。プラントを守るために戦っていたのだ」

アスラン・ザラが討伐隊に籍を置きながら、実は本国にいたことも説明はつけられる。
ラクス・クラインはデュランダルを疎んでいた。
デュランダルに敵意も露に睨みつける姿は、もう何人もの人間が目にしている。外でも噂として皆が知るところだ。
そのせいで彼はクライン派に命を狙われていた。プラントのためにと復職を許された彼は、ラクス・クラインが疎むばかりに狙われたのだ。
クライン派のラクス・クラインへの思いの強さは並大抵のものではない。
どこからどうやってデュランダルを狙ってくるかもしれない相手だ。ラクス・クラインのためならば諦めはしないだろう相手だ。
激戦区に送り込まれることの多かった精鋭と名高いクルーゼ隊。そのエースであった男。
かつてプラントを脅かしたストライクを討ち果たした男。伝説のエースとまで呼ばれる男。
故にその男、アスラン・ザラがデュランダルを守るために呼び戻されたのだと説明する。
男が叫ぶ言葉とその説明と、国民が信じるのは一体どちらだろうか。

「ラクス・クラインは自ら首を絞めた。彼女はデュランダルを疎んだ。オーブの特使を側に置いた。
プラントに戻りながらもオーブへ返せと繰り返した」
「そして国民が求める真実を告げるための場に姿を現わさず、オーブへと旅立っていった」
「あまりに頑なな彼女にとうとう我々は折れた。それほどにオーブを求めるのならば、
我々が代わりに彼女の真実を告げよう。彼女が背負う全てを肩代わりしよう」

笑う。笑う。笑う。

「さあ、始めよう。ラクス・クラインの時代は終わった。
彼女は武器を全て失った。彼女は盾を全て失った。もう彼女の言葉がプラントを揺るがすことはない」

大きなスクリーンに少女が青年と男性に手を引かれ、姿を現わした。
ラクス・クラインと同じ姿、同じ声の少女は、すうっと息を吸った。そして口を開いた。




『プラントを旅立たれたラクス様の代わりに、あたし、ミーア・キャンベルが皆様に真実をお伝えいたします』




ようやくプラントは、ラクス・クラインの支配から逃れられるのだ。

next

ラクスは評議会の下じゃなくて上にいたけど、ミーアもアスランもギルも評議会の下にいる。
評議会はミーア達を使って政治ができる。なのでご機嫌。
子供の父親の話は途中から父親である必要がないことに気づいたんですが、気づくのが遅かった(汗)。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送