囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






目を見開いたまま動かないラクスとキラから、アスランは手を繋ぐ子供を見下ろす。
評議会からの命令で再び赤服を纏い、一般兵を連れて訪れたこの場所。そこに子供はいた。軍服を着た男を一人連れて。
男がアスラン達の監視役の一人であるのだと、アスランはすでに知っていたし、子供が何者なのかも知っていた。
けれど知ることができた時には全てはもう終息へと向かっていた。

ラクス・クラインの追放。

ラクスの最大の武器であるプラントの民は、もう彼女を守らない。彼女のために戦わない。
ラクスにプラントを見捨てたという認識はないし、ラクスの言う通りラクスに頼り切る状況は今までのプラントと何ら変わりない。
ただそれでも、そうさせたラクス自身が果たすべき責任はあった。
パトリックにしろギルバートにしろ、プラントは彼らの言葉に従って生きてきた。急にその生き方を変えられるはずもない。
そして今のプラントの民は彼女の言葉に従って生きている。彼女がプラントを離れる前よりずっと深く。
それは彼女の行動が起こした必然だ。彼女が終戦に導いた。彼女が間違いを正した。そう認識させたラクスには当然の結果。
ならばこそ彼女が行うべきだったのだ。施政者への依存のみで世界を定めようとしているプラントを、それは誤りなのだと。
彼女が彼女自身の言葉でプラントに少しずつでいい。それを認めさせ、国民の自己を確立させていけばよかった。
そうでないとラクスが姿を消しただけでは、またプラントは繰り返す。同じことを何度も何度も何度でも。

「そろそろ時間です。どうぞご案内いたします」
アスランはそう言って子供の手を引いて脇に避ける。
それに続くように後ろに並んでいた一般兵が左右に分かれた。そして一本の道ができる。
はっとしたようにアスランを見たラクスとキラに、アスランは微笑む。

「望みが叶って嬉しいですか?ラクス。これであなたはプラントから自由になれる。
望みが叶って嬉しいか?キラ。これでお前はラクスとまた静かに楽しく暮らせる」

だが、とアスランが悲しそうに目を伏せた。




「ラクス・クラインの名は堕ちた」




その名の効力は切れたのだと、あなた方は思い知ることになるだろう。









「ミーア」
「ギル」
緊張した様子で体全体に力を込めて座っていたミーアが、同居人の声に顔を上げて息をつく。
ミーアより先に家を出ていたギルバートが微笑んで、そして一通り室内を見渡す。
「アスランはまだ戻っていないのか」
ギルバートが出て行く前に評議会からの要請で、一人家を出て行ったアスランが今どこで何をしているのか。
それを知るが故に、心配そうな顔でこくんとミーアが頷くと、近づいてきたギルバートを見上げた。

「アスランが帰ってきたら思いっきり抱きしめておかえりって言うんです」
「その役目は私にも分けてもらえるのかな?」
「当然です!」

何言ってるんですかと、ミーアが驚いたように目を見開いた。
それに笑って窓の外を見やると、ミーアも振り向いて窓の外を見た。
「これから忙しくなるね、君もアスランも私も」
会見の時間が迫っている。ラクス・クラインの真実を求める国民に、望む真実を与えるために。
そしてラクス・クラインに代わるものを与えるために開かれる会見の時間が。






プラントは変わる。けれど変わらないのだ。何も。

next

『ラクス・クライン』として培ってきたものを持つからこそ、プラントを変えられたかもしれない好機を持っている。
それに気づかず投げ捨てたラクス。
ギルバートはもう評議会の駒だからすでにその好機は手にない。
だからプラントは変わらない、変われない。同じことを延々繰り返す。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送