囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






「こんにちは、お兄さん」
「君は…」
どうしてここに、とキラが目を丸くする。
キラに飴をくれた子供。一度目はアスランの居場所、二度目は子供の父親のアドレスを潜ませた飴を。
その子供がザフト兵の間から現れた。アスランが手を差し出し、子供が掴んだ。
そしてそのままぴょんっと前に跳んでアスランの隣に並んだ。

「守ってくれてありがとう」

子供がキラをラクスを見て、笑った。
「え?」
キラとラクスが声を揃えた。子供は嬉しそうに声を上げて笑う。
「プラントで歌っていた歌姫。一緒に泣いて笑ってくれた歌姫。
僕達も大好きだったプラントの歌姫を、あなたに塗り替えられたくなかったんだ」
だからありがとう。




「お兄ちゃんが大好きだった歌姫ラクス・クラインを守ってくれて」




「我々は信じたのだ、ラクス・クラインを」
ロバートが笑う。
プラントのために。プラントの未来のために、ラクス・クラインの謳う平和を信じた。
だが彼女は二度裏切った。プラントの民を利用するだけ利用して、終戦を迎えれば彼女は姿を消すのだ。
「平和のため。ラクス・クラインはそう言う。では彼女の言う平和とは何だ?
戦争が終わってもそれはまだ平和ではない。苦しみ嘆く者がいる。
癒しの歌姫とはそういった人々を癒すものではないのか?だが彼女は何をした?
戦場へ現れ、ザフトを撃つ。お前達は間違っていると叫ぶ。それ以外に何を?」
あげくに彼女はオーブでオーブ代表の側に立ち、AAと共にいると言った。
ザフトを撃った艦と一緒にいると。世界が一丸となって追うロゴスの盟主を匿う国を守って。
そしてデュランダルもジブリールも支持しない。そう言って、オーブの名の元に戦った。ザフトと。




「僕はお兄ちゃんが好きだった歌姫が、そんなあなたになるなんて嫌なんだ。
僕達は守る。お兄ちゃんが好きだっだ歌姫を、あなたから。そのためにキラ・ヤマト、あなたに飴をあげたんだよ」
「なに、言って…。ラクスはラクスだ。君が言ってる歌姫はラクスだよ!?
なのにどうしてラクスがラクスを塗り替えるとか、嫌だとかそんなこと言うの」
それに、とキラが目を揺らす。
「君は、僕に言ったじゃない。助けてって。守ってって。なのにどうして、そんな」
「まるでわたくし達を陥れるためだったと言っているように聞こえますわ」
ラクス、とキラがラクスを見る。
ラクスは子供相手にも強い目で、けれどやはりどこか揺れた目で子供を見る。
ぎゅっと子供がアスランの手を強く握った。
「そう。そういってるんだよ、ラクス様」
キラとラクスが目を見開く。

「僕達はあなた達にプラントからいなくなってほしいんだ。そのために、動いてたんだから」




「あなたがしたこと全てを認めようとは私も思わない。ギルバート・デュランダル。
だがあなたがプラントを、世界を思っていたがためだということは分かった。たとえ独り善がりなものだとしてもだ。
逆に彼女は考えろと突き放しただけだ。我々を混乱させるだけさせて、彼女は全てを終わらせた。そうして再び去ろうとした」

我々が愛したラクス・クライン。その彼女がプラントを思っていると、どうしたら受け取れたろう。
あげくにプラントに連れ戻された彼女はオーブに返せと叫ぶと言う。自分は道を示すだけ。もう役割は終わった。だから返せと。
プラントには再び現れ、勝利した彼女を慕い、彼女の歌を請う人々がいると言うのに。
これがラクス・クライン。我々が愛した、息子が愛した。

その彼女を信じたがために、息子は死んだのか!!




フォード・グランフェド。
それが子供の兄の名で、ロバート・グランフェドの息子の名だった。
フォードはプラントのためにクライン派になった。ラクスがプラントを守ってくれると信じてエターナルに乗った。
そうして戦争が終わって。プラントを去ったラクスを見送った後、軍を去った。
フォードは訪れた平和を父と弟と一緒に生きていた。再びクライン派から召集がかかるまで。
平和な世の中だというのに、ラクスが望む者だけでいい。エターナルに向かって準備をしてほしいと願っていると。
今の平和は危うい。再び戦乱の世となる可能性が高い。それを鎮めるためにも準備をしなくてはいけない。
そう連絡がきたのがフォード達の平和が崩れた時だった。




「おかしいよね。戦争になるかもって思ってるのに、戦争の準備するんだよ?
それくらいならラクス様がプラントに帰ってきて、昔みたいに歌ってくれればいいでしょう?
たくさんあるよね?ラクス様ならできること。戦争にならないように動くこと。僕らにはできないこと。
だからお兄ちゃんも悩んでた。このままラクス様を信じてていいのか。本当にラクス様がプラントを守ってくれるのか」
「わたくしは!わたくしはそうならないよう、願っておりました。わたくしの懸念であることを願っておりました。
ですから無用となるはずの準備だったのです」
けれど戦争は起こった。だから出撃するしかなかった。そう訴えるラクスに、キラも頷く。
「本当だよ。ラクスはずっと僕達と一緒にいた。平和が続くといい、ずっとこのままで。そう願ってた」
ラクスの影響力を考えればプラントには戻れなかった。プラントに戻れば、プラントはラクスに頼るから。
それでは駄目だ。ラクスに頼るのではなく、プラントが自分の力で立ち上がらなくては。平和を作り上げなくては。
そう思ったからこそ、ラクスは沈黙を保った。
「それが分かってたから、君のお兄さんもエターナルに乗ったんでしょう?」

「違うよ」

え、とキラとラクスが声を揃えた。
子供は違うと繰り返す。そして二人を悲しそうに見た。

「お兄ちゃんはラクス様のために乗ったんじゃない。僕とお父さんのために乗ったんだ。
たくさん考えてた。ラクス様が信じられなくなってた。でもラクス様は強いから。
プラントはまだラクス様を信じてる人がたくさんいて、ラクス様を助ける人もいたから。
もし戦争になって誰についたら一番守れるかって。そう考えたんだって、お兄ちゃんの友達が言ってた」

だからお兄ちゃんはエターナルに乗った。僕達を守るためにはラクス様につくのが一番安全だって、そう考えて。
そんな言葉に、キラとラクスが驚愕に目を見開いた。




「復讐を、考えたわけではない。ただ…耐えられなかっただけだ」
過去、息子が信じ愛した歌姫。自分達も愛した歌姫。けれど気がついた。
自分達が憎めないのは過去の歌姫だ。プラントにいた歌姫だ。真実プラントのための歌姫。
耐えられない。辛い。憎い。そう感じるのは、現在のラクス・クライン。彼女が歌姫としてプラントにいるそのこと。
「だから、評議会に話を持ちかけたのですか?」
「評議会がラクス・クラインからプラントを引き離したがっているのは分かった。
だがそれは難しい。だからラクス・クラインを駒として手元に置いていたのだろう?」
そしていつかラクス・クラインに取って代わるために、虎視眈々とその機会を狙っていた。そのための駒も手元に置いて。

「ラクス・クラインの代わりにプラントで歌っていたあの少女。
プラントのために笑い、憤ったもう一人のラクス・クライン。けれどあの少女一人では弱い。
ゆえにラクス・クラインの婚約者であり、ザフトで英雄と呼ばれるアスラン・ザラで二人。
けれど二人は諸刃だ。受け入れる者と受け入れない者に分かれる。そのためにあなただ。ギルバート・デュランダル」

プラント最高評議会議長を名乗り、一時とはいえ世界の意志を一つにまとめ上げたその手腕。
そしていまだ彼を支持する者がプラントに少なからずいる。更に言えば地球にもいるのだ。
地球には彼に攻撃された国もあるが、彼に救われた国もある。それは決して少なくはない。
その彼らの支持を持つギルバートが二人の保護者となり、後ろ盾となる。




「プラントはラクス・クラインに匹敵する駒を手にした。後は彼女が堕ちていけばいい」




だから評議会はロバートの案に乗ったのだ。

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ギルも諸刃だとは思いますが、上手く受け流していくことができ、
いつか少しでも転化させていくことができる人じゃないかと思います。
アスミアにはできないことですが、ギルにはできるんじゃないかなあ。…夢見てるかもですが。

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