囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






進行方向に立ちふさがった優しく微笑む翡翠の目に、ラクスとキラは目を見開いた。
どうして、どうして彼がここに。

「お見送りに、と思いまして」
「なにを」
先日の通信を思い出せば、ありえない言葉。
それに赤服を纏い、緑を纏うザフト兵を従えるアスランは個人ではない。ザフト兵としてラクスの前にいる。
なのにその言葉を真実と、誰が信じようか。
「残念なことに私は共に行けませんが、彼らが責任を持ってオーブへお連れいたします」
アスランが後ろのザフト兵に目をやる。誰一人口を開かない。
それにアスランの言葉が真実だと分かり、ラクスとキラは当惑する。二人を囲む男達も、予想外の事態に顔を見合わせる。

男達の仕事は、ラクスをシャトルに乗せオーブへと無事連れて行くこと。
シャトルに乗るまでの護衛は契約の内だが、宇宙に出さえすればキラが一人でも追っ手を抑えることができる。
だからラクスをオーブに届けることを最優先に。そう依頼されていた。
そのためザフトが追ってくるのならば戦うしかない。そうして隙をみて逃げて宇宙に出るしかない。
なのに、追っ手のはずのザフトがラクスをオーブへ連れて行くと言う。
聞いていた話と違うのではないか。そう思いながら、けれど仕事だ。一度請け負った仕事を放棄すれば、これから先の信用問題に関わる。
だがアスランはそんな男達に視線をやると、申し訳ないがと声をかける。

「そちらの契約を変更させていただきたい」
「変更?」
先導していた男が問う。声は厳しい。
「あなた方との契約は彼女達をオーブに送り届けるまで。だが、それをここまでとしてもらいたい」
「依頼主はあんたじゃない」
何故それを知っているのか、それの意味するところは一つだ。男は顔をしかめながら言えば、そう、とアスランが頷く。
「依頼主はすでにザフトが捕らえた」
「な!」
キラが目を見開く。ラクスは口を両手で覆う。
何てこと。
男達はやはりと思う。それでも、依頼は生きていると言うのに、アスランは小さく笑う。
「依頼主が変更になっただけのことだ。その手続きも行おう」
そしてラクスとキラに視線を移す。

「プラントは今、ラクス・クラインとその護衛キラ・ヤマト。そしてオーブとの関係の真実を求めている。
ご存知か?ラクス・クライン、キラ・ヤマト」
真実、とキラが呆然としたまま呟く。
「噂がある。プラントの歌姫であるはずのラクス・クラインが、オーブ代表が認めた恋人を傍らに、オーブへ帰せと叫んでいるのだと」
その真実。
それに立ち直ったラクスが睨みつける。
「真実です。あなたもよくご存知でしょう」
それも理由あってのことだ。なのに評議会は認めない。聞こうともしない。だからこういう手段を取ったのだ。
アスランはそうですね、と頷く。
「その会見が今日あります」
「え?」
聞いていない。そんなラクスに、あなたは必要ありませんからとアスランが笑う。
「な!関係あるよ!ラクスが出なくて誰が出るの!どうせ評議会が自分達の都合のいいように説明するだけじゃない!」
キラが憤る。けれど二人を先導してきた男が仲間と一通り視線を交し合った後、依頼変更を受け入れようと両手を挙げた。
「そんな!」
キラが叫び、ラクスが目を見開く。
どうして急に、そんな二人に、男は息を吐く。
「確かに仕事に対する信用は大事だがな、今回に限って言えば別だ」

この依頼を引き受ける前に、男達は依頼を一度断っていた。一国から重要人物であるラクスを攫うのだ。
断ったことを誰も責められまい。だが依頼主は男達の身の安全は保障すると言った。
オーブが秘密裏に、そしてプラントの国民が男達を守るのだと。それは確実で、違えようもないことだと。
けれどプラントが会見を開く。噂は事実だとラクス本人が認めたそれを誰が語るのだろう。
ラクス・クライン本人は必要ではないと言う。それはプラントにとってもう彼女が不要ということ。
そして彼女に代わる何かがあるのだろう。そうでなければラクスをオーブへなどやらない。
暴動すら引き起こしかねない真実。それを抑える何かをプラントは持っている。
だからここで逆らうということは、プラントの思惑を邪魔するということ。下手をすればこちらが消されかねない。

「だから悪いがここで引かせてもらう」

プラントがラクス・クラインをオーブへと送り届ける。

それはプラントが歌姫と慕った彼女をオーブへと差し出すということ。
我らに彼女はもう必要ではありません。だから彼女の望み通り、オーブの望み通り差し上げよう。我らの歌姫であった人を。

それはラクス・クラインの追放。そしてオーブへの借り。
男はそれを悟って、ラクス達から離れた。


* * *


ロバート・グランフェドは向かいに座るギルバートへ笑う。

「そろそろだな」

ラクス・クラインに対する不信が広がり、国民から真実をと声が上がった。
隔離しているラクスには届いてはいない声。けれどラクスを守ろうと必死の男には届いていた声。
男は焦った。ラクスをプラントから解放するためにと奔走していた男は、このままではラクスは絶対の味方である国民を失う。
同時に思っていた。
けれどラクスをプラントから逃がし、その上で罪を償う意味を込めた討伐隊勤務のはずのアスランが、実は本国にいたことを。
同じく裁かれたデュランダルの護衛をしていること。そしてラクスへの暴言を全て暴露すれば、国民は離れてはいかないと。
そのために男はラクスをプラントから解放する計画を早めた。

評議会がそれを待っていたとも知らずに。

「これから会見が開かれる。国民は知りたいことを知るだろう。それは同時に新しい時代の幕開けとなるな」
ロバートは嬉しそうにそう言うと、ギルバートにそれでと視線を向ける。
「その立役者の一人となる君が、何故ここにいるのだろうな?」
ギルバートはそうですね、と笑う。
「評議会に聞きたいことがありまして。その回答がここにあるということでしたので、少し時間を頂きました」
「聞きたいこととは?」

「ラクス・クラインのプラントでの地位の失墜。追放。それはあなた方の企み事でしょうか?と」

くっとロバートが笑った。
「なるほど?あなたはどこでそれに気づいた?」
「もしやと思ったのは、キラ・ヤマトがラクス・クラインの護衛についた時です」

キラがアスランを尋ねてきた時、監視役はその事実はないと言った。
クライン派のいない監視役の中、誰がその時の監視を行っていたのか。
ギルバートは監視される側であるが故に知ることができなかった。
もしかしたらその監視していた者がキラと通じていたのではと思いはしても、その人物が特定できない。
だから次はキラに接触した人物を洗うことにした。ギルバートが知ることのできる範囲で、だが。
けれどクライン派はいないうえ、キラは評議会から真っ直ぐにホテルに帰るだけで誰かに接触する様子もなかった。。
そうしている内にキラがラクスの護衛として側に置かれるようになった。
キラを護衛にと押したのはラクスの狂信的な心棒者。ラクスの心の安寧のために。
それは理解できた。だが理解できなかったのはその後だ。
キラはラクスにとって危険だ。オーブの特使であったキラが、どうしてプラントの歌姫の護衛にと疑心を生む。
それを押してまで男は護衛にと望んだ。
男の目的はラクスの望みを叶えることだろう。ラクスの望みはオーブに帰ること。
確かにこの方法ならばラクスはプラントを出ることができるだろう。だが。

「それはラクス・クラインの名を貶めることです。プラントの国民がラクス・クラインに敵意を向けることです。
そんなことを狂信的な彼女の心棒者たる彼が許すでしょうか。そう思った時、第三者の存在があるのではと思ったのです」
ロバートはほう、と頷く。
「評議会はラクス・クラインの側にキラ・ヤマトを置くリスクを承知していました。下手をすればラクス・クラインを失うことも」
そしてそれが好都合なのだと笑った。
だからその後のラクスとキラに関する噂も評議会の手によるものなのだろうかと思っていた。
だが。

「子供を一人、アスランが見ました」

子供?とロバートが首を傾げた。
「何があったわけでもありませんが、直感というのでしょうか。アスランは一瞬目が合った子供を酷く気にしていました」
そして家に帰るなり、あ、とギルバートを見上げた。報告に子供がいませんでしたか、と。
何のこと、と思って、キラに接触した子供のことだと気づいた。
キラに関する報告で子供がキラと接触したのは三度。
一度はキラとぶつかって転んだ子供。二度は迷子で泣いている子供。三度は公園のベンチでキラと話していた子供。
ただの勘だ。けれどその勘も時には重要なことを知らせるものでもあるのだ。
クルーゼ隊の隊長はまさにそれを体現したような人で。直感で戦争する男と評された男を隊長に持っていたアスランは、
だからここまで気になるそれを無視できないのだと言った。

ギルバートは苦笑した。
「彼があまりに気にするので洗い直すことにしたのですが、一度接触しただけの子供を探し出すにも一苦労です」
どう手をつけたものかなと思っていると、身近な相手の身内を洗って欲しいと言う。
子供はじっとアスランを見ていた。切なそうな目で。邪魔しないで、そう語りかけているような目で。
だから子供はアスランを知っていた可能性が高いだろうと。
子供は自分の意思で動いているのか、誰かの意思で動いているのか。
どちらにしろ邪魔をされると困る相手だというのならば、クライン派か。それともキラに悪意を持つものか。
だから身近なもの達を、と。

「子供一人にそこまで考えが及ぶものなのかね?」
ロバートが呆れたように、感心したように息を吐くのに、ギルバートも頷く。
「ですが調べてみれば一致したのです。監視役の友人はクライン派。その友人の弟がアスランが見た子供でした。
グランフェド殿、あなたのご子息でした」

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無理やりすぎやしないかという突っ込みはスルーでお願いします(汗)。

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