囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






ラクスはキラと共に目立たぬ服装で走る。
キラの手に引かれながら、目の前の男達の後をついて向かう先はシャトル。それに乗ってオーブへ渡る。
その用意をしてくれた男はシャトルで待っている。彼には感謝してもしきれない。

ラクスはキラを見上げる。緊張しているキラは表情が硬い。
当然だ。ここで見つければもうオーブに帰れない。今まで以上の厳しい監視の元に置かれるだろう。
ラクスはぎゅっとキラの手を強く握る。それにキラがはっとしてラクスを見下ろしてくる。
大丈夫、と微笑んでみせると、キラも微笑んだ。

「絶対、オーブに帰ろう。二人で」
「はい」

カガリが待っている。マリューもフラガもミリアリアも、皆待っている。
プラントの国民には申し訳ないと思う。けれどラクスがいては誰もが自分で歩けない。
パトリックやデュランダルの時のように、疑問も持たずにただ言われるがまま歩き続ける。
そんなことにならないように、今プラントで誰よりも強い影響力を持つラクスはここを去る必要がある。
だからどうかラクスがここから去る意味に気づいてほしいと、そう思う。

「あと少しだ」

先導する男の言葉に、ラクスとキラは頷く。
あと少し。あと少しで・・・。

なのに。




「お疲れさまです、ラクス」




見慣れた赤が、幾人もの緑を従えて微笑んだ。




* * *




「どういうことだ!」
男が叫んだ。
男は評議会からの要請で反逆者という名目でザフトに捕らわれた。
その男に最高評議会議員の一人が口元に笑みを浮かべた。
「どういう?それはこちらの台詞だ。あなたはラクス・クラインが我らの監視下にあることを知っているはずだ。
だというのにどういうことなのだろうな?あなたは傭兵を雇い、シャトルを用意し、オーブに繋ぎを取った」
男はぎくっと肩を震わせたが、すぐに何のことだと議員を睨みつけた。
「そんな話は知らない!確かに私はラクス様が心安らかになられるようにと手を尽くしている!
だがプラントの意思に反して、ラクス様をプラントからお出ししようなど。そのようなこと、してはいない!」
証拠もなしによくも、と言えば、議員は証拠!と声を上げた。
「証拠もなしにザフトを動かすと思うのか」
そして議員は後ろに控えた秘書から何枚かの書類を受け取ると、男に見えるように掲げてみせた。
それを見た男は目を大きく見開く。
「あなたの邸にオーブ官邸からの通信履歴がデータとして残されている。そしてその内容はこちらの紙にしっかりと」
男が信じられないとばかりに唇を震わせる。
「あなたが雇われた傭兵との契約書もこちらに。シャトルの件に関しても、しっかりと証言者がいる」
証言者、と男が呟く。議員がええ、と笑う。


「ロバート・グランフェド」


「ふざけるな!!」
男が声を荒らげた。
今議員が上げた名に、男は聞き覚えがあった。ありすぎるほどにあった。
そしてそれが事実ならば、議員が手にしている書類がどうしてここにあるのかも納得できる。
けれど違う。何故ならその名はラクスを心棒している者の名で。その名はラクスを救うために尽力してくれた名で。
だからそんなはずはないのだ、と男は首を振る。

「よくもそんな偽りを!彼が私を陥れる理由などない!ラクス様をそこまで貶めたいのか!貴様らは!」
男は議員に掴みかかろうとして、両脇にいたザフト兵に押さえ込まれる。
「ラクス様はプラントのためを思えばこそ、戦場に出られたのだ!
だというのに貴様らはラクス様を危険だなどと言ってラクス様を監禁した!
その裏でザラの息子の罪を許し、表を歩かせ!デュランダルなぞの護衛などさせ・・」
そこで男がはっとする。
「そう。ザラの息子だ。戦犯たるパトリック・ザラの息子!プラントを戦禍に塗れさせた男の息子!!」
男は勝ち誇ったように笑う。
「国民はまだ忘れてなどいない。パトリック・ザラによってもたらされた恐怖を!
奴は狂っていた!そうして国民を巻き込んで戦渦を拡大させた!そのことを国民は忘れてなどいない!」
議員はそれで?と返す。その顔はいまだ余裕が見える。
「アスラン・ザラはその息子だ!英雄だと?ラクス様がいらっしゃらなくては奴はただの罪人だ!
ラクス様がいらっしゃったからこそ、奴は英雄と呼ばれた!ラクス様がプラントを救ったその時に共にいたからこそ!」
「ならば彼は英雄と呼ばれるに値するだろう。ラクス・クラインと共にプラントを救ったのだからな?」
はっと男は笑う。
「だが国民はその一方で不安を感じている!シーゲル様を殺し、ラクス様すら殺そうとした戦犯の息子!
そしてあの男がラクス様に放った暴言!」
ラクスは殺されても当然なのだと。ラクスが監禁されている現状は、正しいものなのだと。
それを全てぶちまけてやれば。

「プラントの国民は、アスラン・ザラを許しはしない!そしてそのアスラン・ザラを討伐隊勤務と偽り、
本国でデュランダルなぞの護衛をさせている貴様らも、国民は決して許しはしない!」

プラントの国民はラクスの何よりの味方なのだから。

けれど議員は、男の高らかな笑いを馬鹿にしたように嘲笑ったのに、男がなにを、と議員を睨む。
だが議員は書類を秘書に渡すと、ザフト兵に連れて行くように指示する。それに男が抵抗する。

「貴様!法廷で何を言われてもその余裕、崩れぬとでも言うつもりか!」




「崩れぬさ」




こちらにはそれだけのカードがある。

そう言って議員は笑った。


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ラクス様至上の男の言葉は現実とどこまで一致するのでしょう?と思いつつ。
もうすぐ終わりです。

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