「え、ちょっと待って、ラクス」

評議会からのスケジュールをこなし、ようやくの帰宅。
最近、護衛達の警戒が今まで以上に強く、ラクスが歌を歌う以外に人前に姿を見せることを厭われた。
何か可笑しい、と思ったが、外からの情報を手に入れるにも護衛達の誰かが必ずついてくるため得られない。
こうなったらハッキングで、と思うが、キラが触れることを許された端末は当然のことながら評議会の制限付きで。
それをばれることなく突破して戻ってくるぐらいわけない。けれどアスランに言われた言葉が頭を廻る。

『俺は今評議会の監視下にあるんだ。勝手なことはできない』

アスランとキラが話すだけで評議会は警戒するのだという。だからアスランはキラと話すことを頑なに断った。
勝手なことはできない。
アスランはそう言って、キラにも自分達が警戒されているということを踏まえて行動しろと言った。
納得できなかった。けれど納得はできなくても覚えておけと言ったアスラン。
その言葉の通り、どうしてだか不意に頭を過ぎる。今でも納得できないけれど、それでも時々引っかかる。
だからキラはハッキングに踏み込めなかった。ばれない自信はある。けど、と迷っている内に、ラクスから聞かされた話。

「今、何て言ったの？」
「オーブに戻りましょう、キラ」
真剣な顔のラクスに対し、キラは目を大きく見開いた。
オーブに戻る？評議会が許したとは思えないのに、ラクスはもう用意も整っていますと続ける。
「ラクス、どういうことなの。評議会は関係ない、よね？」
こくん、とラクスが頷く。そして眉を寄せる。
「ここでどれほど叫んでも評議会は聞いてはくださいません。ですからわたくしは行動で示そうと思います」
プラントを出てオーブへ戻る。それがラクスの言う行動。
それはラクスをプラントに留め置こうとしている評議会の思惑とは真逆の行動。
評議会に、言葉では分かろうとしない彼らに、ラクスは自分の思いを伝えようと。そういうことか。
「このままでは以前の二の舞となります。パトリック・ザラ元議長、ギルバート・デュランダル前議長。
プラントは彼らを指導者と仰ぎ、彼らを疑わず、彼らを讃えました。
結果諫める者もおらず、彼らは己の信じる道を一心に走り続けました。それが破滅の道と知らずに」
プラントはそれに気づかず、故にラクスに彼らへ向けた思いそのままを向ける。それはキラも分かっている。
けれど、とキラが頷かずにいると、ラクスはキラ？と訝しげな顔をした。
どうして同意してくれないのだろう、そう思っているのだろう。いつもキラは頷いてくれるのにと。

「ラクスの言ってることは分かるよ。だからラクスがプラントにいることによって、またプラントが意志を持たなくなるんじゃってこと。
それは分かるけど、でも、ラクス。評議会は君がラクス・クラインだから離さないわけじゃないって知ってるよね？」
アスランが言うには、ラクスの持つ様々な『力』。それが恐ろしいから、個人の『力』をプラントの『力』として安心を得ようとしている。
だからラクスが黙ってプラントを出て、そうしてオーブに戻っても問題はなくならないのではないだろうか。
むしろオーブすら巻き込んで続いていくのではないだろうか。
キラが苦い顔でそう言えば、ラクスはああ、という顔をして頷く。

「それでしたら、亡命という手を取ることにいたしました」

「え・・・」
亡命。アスランが二年前に取った手だ。
アレックス・ディノ、そう名を変えたアスランは、人前でアレックスとしか名乗れなかった。
キラにしてみればアスランはアスランで、自分達がアスランと呼ぶのだから問題はないと思っていた。
ただアスランを知らない人にとっては、アレックスなだけ。そんな風に思っていたし、今でも思っている。
それを今度はラクスが。

「ラクスはそれでいいの？名前、変えなきゃいけないんだよ？」
「はい。アスランもマリューさんもしていらっしゃったことですわ」
だから大丈夫、と微笑むラクスに、キラもようやく頷いた。

亡命すればプラントも手出しはできない。それはアスランが証明として存在する。
そう思うからこそキラは頷いた。だからこそキラは微笑んだ。

「一緒に、帰ろう」
「はい！」

それは捨てること、奪われることと同義語だと気づかぬまま。











「そろそろか」
「ええ。もういい頃合でしょう」
「では？｣
「そうだな。そろそろ退場願おうか。そしてご登場願おうか」
「もう、十分ですものね」

薄暗い部屋の中、声が響く。
笑う。嘲笑う。そして、囁く。




さようなら。

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アスランは本当は亡命したくなかったと思います。でもしないといけない事情があった。
オーブに亡命したアスランは、キラ達には笑って、でも本当はすごく悲しくて苦しくて辛かったんじゃないかと。
ところで、ラクスはどうなってたんでしょう？あの頃。
行方不明ってことになってたのか、実は亡命してて出てなかっただけで名前変えてたとか。前者な気がします。