囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






友だと、同志だと思っています。信じてください。

ラクスは本心から言っているのだろうが、アスランには信じられるものではない。
こちらの話は聞かなかったのに?考えてくれなかったくせに?偽りを口にさせられているのではと疑ったくせに?
だからその言葉はアスランを傷つけた。


大好きよ、とミーアが抱きつく。
ギルバートが頭を撫でる。
それに笑って、心で泣いた。









「監視役に伝えるの?無駄じゃない?」
ラクスから通信がきたことを伝えるというアスランに、ミーアは眉を寄せる。
けれどアスランは苦笑して必要だよ、と言う。
「後々問題にされないためにも、無駄と分かっていても報告はしないと」
むう、と頬をふくらませるミーアに、ギルバートが笑った。
「ミーア。彼らはラクス嬢と何らかの関係があるのかもしれない。それ故に今回の件を報告しても評議会には届かないかもしれない。
けれどね、こちらがきちんと報告したという事実は必要だよ」
もしもラクスが連絡を取ってきたと知られた時、評議会に疑われないためにも。
そう言えばミーアは、はあいと返事をした。
それにいい子だね、と頷いて、通信回線を開こうとするアスランを止める。
「いいよ。私がするから君はあっちに行っておいで」
「え?ですが」
「いいから」
ミーア、と呼ぶと、ミーアがはい!とアスランの腕を抱いて、リビングのソファへと向かう。
でも、とまだ言い続けるアスランに、いいの!と返すミーアを見送りながら、ギルバートは笑う。
先程のラクスの言葉はアスランにとっては刃だ。
だから今は癒されておいで、と心で囁いて、ギルバートは通信回線を開いた。


* * *


ラクス様。
男が呼ぶのに振り向いたラクスは微笑んだ。

「アスランは・・変わってしまわれたのですね」
「ラクス様」
あんな酷いことを言う人ではなかった。
キラに言った全てが本心だと思いたくなかった。もしも本心だというのなら信じてほしかった。
ただそれだけだったというのに、アスランはラクス達がアスランを利用しようとしているのだと言わんばかり。

何がアスランを変えたのだろう。
共に戦った時はそんなことを思わなかったけれど、そういえば彼は一度ザフトに戻っているのだ。キラに剣を向けているのだ。
カガリにもオーブへ帰れと言ったという。オーブに帰ればカガリがどういう目にあうのか、少し考えれば分かるというのに。
そしてミーア。彼女がどうしてラクス・クラインを演じていたのかはもう分かっている。
デュランダルの思惑だけでなく、彼女自身のプラントへの思いのためだと分かっている。けれど彼女のためにはよくないことだった。
彼女はラクス・クラインになるためにミーアを捨てた。彼女自身の未来を現在を、そして過去を捨てたのだ。
アスランはそれを容認していた。彼女がラクス・クラインになって間もなかった頃ならば間に合ったかもしれないのに。
そう考えるとラクスが気づかなかっただけで、アスランはとっくに変わってしまっていたのかもしれない。
何がそうさせたのかは分からないけれど。

目を伏せるラクスに、男はぎりっと拳を握り、けれど静かにラクス様ともう一度呼んだ。

「準備は整いました。ラクス様には本意でないと存じておりますが、どうかお逃げ下さい」

ラクスが顔を上げ首を傾けた。そうして男の側に膝をつくと、男の手を取った。

「もう少しお待ちくださいと言ってしまえば、あなたのお心を無駄にしてしまいますわね」
「ラクス様」
では、と目を輝かせる男に、ラクスは頷いた。
「本当は評議会の方々に、わたくしの意思を伝え続けようと思っておりました。彼らの懸念は杞憂であるのだと分かっていただきたかったのです」
目を伏せたラクスに、男ははいと頷く。分かっておりますと頷く。
「わたくしはこのままプラントにいるわけには参りません。
プラントはここに住む方達の国です。彼らが彼らのために考え、そうして育てていく国です。わたくし一人の意思に左右されてはなりません」
ですから、とラクスが男の手を取ったまま立ち上がった。


「わたくしはこの国を去りましょう」


評議会がそれを許してくれないのなら。ラクスの言葉を聞いてくれないのなら。
こちらから姿を消して、そうして彼らに気づいてもらうしかない。

男が立ち上がって、はいと一礼した。














騒がしい。そう思う。
水面下でざわめいていたものが、突然水上に出て騒ぎ始めた。
ざわざわざわと。そして一気に爆発した。
そのまま陸へと上がり、凄まじい勢いで広がり始めた。

噂は千里を駆ける。

まさにその通りに。

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ミーアに甘えられて、そしてギルバートに甘やかされて。
照れながらも笑うアスランの傷は、そうして徐々に癒されていくのですという話(え)。

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