囚われの姫君は本当に無害なのか
〜偽りを空へ、真実を地へ〜






「君の懸念は分かった。だが我々にとっては好都合だ。予定していた時よりそれが訪れる時が早かったというだけのこと。
ああ、君にはまだ言っていなかったな。確かに我々にラクス・クラインは必要だ。彼女の導によって今の我々はある。
民はそう信じている。この先もそうあるべきだと、彼らは信じきっているのだ。だが我々は違う。彼女にこの先は任せられん」

「理由は君も分かっているはずだ。そう彼女はプラントの害ともなる存在。
だからこそ彼女をプラントに留め置いた。彼女の『力』からプラントを守るために。彼女の『力』を奪うために。
それは徐々にだが叶いつつある。エターナルは取り戻し、彼女を支援していたクライン派も残り僅かとなった」

「ならば次は彼女からの自立が必要になります。彼女に残された『力』は、ラクス・クラインを愛する我々プラントの民です。
我々が彼女の武器であり盾である。それを取り除かねばなりません」

「分かるだろう?デュランダル議員。そのために何が必要か。
そう、キラ・ヤマトの件はそれに必要な一部だった。だから我々は受け入れたのだ。
プラントは荒れるだろう。だが大丈夫だ。我々はそれを抑える術をもう持っている。他ならぬ君のおかげで」

「そう、気づいたか。それだよ、デュランダル議員。いいかね、忘れてはならない。君達はいまだ咎人だ。
その罪を贖うための役目をまだ終えてはいないのだよ。君に拒む権利はない。さあ、君は君の役割を果たしたまえ。
ラクス・クラインを君に任せたのは、君が一番彼女に疎まれているからだ。聖女の仮面を剥がし、
憎々しいと言わんばかりの表情を晒すからだ。その変貌を目の当たりにする我々プラントの民は、さあ、何を思うのだろうな?」




* * *




最近のプラントは騒がしい。
ラクスが歩けばぴたりと止む声は、ラクスが通り過ぎれば元通り。
それを目にしたアスランは眉を寄せる。

よくない兆候だ。

プラントが荒れるまで、そう時間はかからないだろう。それを防ぐための手を打てないのが現状だが。
評議会がラクスの護衛にキラを採用した理由を思い出す。
アスランがアレックスと名を変え、ギルバートに仕えていることがその理由だという。

パトリック・ザラの息子。脱走兵。討伐隊に転属させたことがその罪における処罰だったのではないのか。
なのに何故ここにいる。何故名を変えている。ギルバートの護衛などさせている。
それが許されるのならば、これも許されるべきだろう。

「俺がここにいる理由は・・・」

至極簡単だ。
監視するため、それ以外ない。

プラントにおいて罪人であると同時に英雄と呼ばれるアスラン。
それを監視するために本国に置くと発表すれば荒れる。そう判断した評議会が表向きはまだ立て直されていないプラントから
出入国する艦を狙う宇宙海賊を討伐するためにプラントを出たと発表したのだ。
そしてアスランの監禁生活が始まったのだが、復帰したギルバートがクライン派によって狙われた。
よくもラクス様を、という文句つきで。
裏で色々考えていた者には迷惑な話だろう。ギルバートを襲わせた人物のおかげで警戒が強まったのだから。
評議会は考えた。ギルバートを失うわけにはいかない。力あるものを側に。ならば実績のあるアスランを。
アスランならばギルバートと同じ監視対象だ。野放しにするわけでもないし、よからぬ行動を起こしても知ることができる。
もちろん反対の声がなかったわけではないが、結局はギルバートの護衛としてアスランが監禁場所たる邸から出された。

それを説明したところで言い出した男は納得しなかったらしい。
ラクス様のことにしろアスラン・ザラのことにしろ国民を騙している。これを国民が知ったらどう思うのか。
我らはプラントの民を守るべき役割を背負っているのではないのか。その国民を裏切る行為だ云々。

どちらがマシなのだろうか。
国民にラクスを拘束していることを、アスランが本国で監視されていることを知られ荒れるのと、
ラクスにつけた護衛がプラントとは何の縁もゆかりもないうえ、オーブの特使であると知られ荒れるのと。
どちらも避けたいことに違いはないのだが、評議会は後者を取った。後者の方がまだ誤魔化しがきくと考えたのか。
アスランには評議会の考えは分からない。

「ギルも」

最近、様子が可笑しい。アスランに言えない何かを抱えているようだ。
ギルバートとアスランの立場は違う。アスランはギルバートの護衛だ。話せないことがあるのは当然だ。
だからその態度から推測していくしかないし、普段ならば悟らせるような真似をさせないギルバートが悟らせたのだ。
アスランにも関係があることで、あまりよくないものだと暗に知らせている。その時の覚悟も必要だ。
そんなことを思いながらため息を一つつく。

ざわつく空気にアスランはバイザーで隠した目を細める。
すでに不信は育っている。評議会に足を運ぶザフト兵の中に。ラクスが歩く道に往き合う職員の中に。
会議中のギルバートを待ちながら、アスランはどうすることもできない己に歯噛みした。


その時だ。




「アスラン」




バイザーの下、アスランは目を見開いた。

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思惑は違っても、それが自分達の思惑に添うようなら乗っかりましょう、な評議会。


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