アスランとの恋に未来はない。
それを知らされたカガリは、青褪めた顔のままアスランを見た。

ああ、お前は知ってたのか。

ならばどうして言ってくれなかった?
聞きたかったけれど、聞いてはいけない気がした。きっとカガリの恋する心に優しい答えが聞けるだろうから。優しくて、けれど未来がないことを知った身には残酷な答えが。
思えば小さく浮かぶ笑み。ラクスが顔をしかめた。きっと見ていられないような笑みだったのだろう。

「アスランと二人で話がしたい」

アスランが口を開く前に、フレイが男らしくちゃんと決着つけてきなさいよ、とアスランから離れた。


互いを責め合って、
そうしてあなたは何を得たのでしょう。




アスランとカガリが見える位置でフレイは海へと足をつけて、ぴちゃぴちゃと水遊びを始める。それをじっと見るのはキラだ。何か言いたげで、なのに何も言わない。こちらから話を振らなければ話せないのだろう。分かっていながらフレイは知らぬふりだ。

キラとは会わないと決めた。けれど会ってしまった。
キラ達がこちらに気づく前にアスランが彼らの姿に気づいていた。この場所を離れようと言われたけれど、フレイがこのままでいいと言ったのだ。
今ここでキラを避けても、また次どこかで会うことがあるかもしれない。その時にアスランが側にいるとは限らない。一人でキラと会った時に受けるだろう衝撃を思えば、アスランが側にいる今、会う方がよかった。
そうして実際に会えば、その判断で正解だったと思った。手が震えた。声まで震えそうで、膝がくずれそうで。アスランが支えてくれなければ耐えられなかった。
まあ、最後の方は一方的に責められるアスランと、自分のことは棚に上げてアスランを責めるラクス達にむかっとした方が大きくなっていたのだけれど。
今、こうしてラクスとキラと三人だけになっても震えが再開されないのは、苛立ちが継続されているからだろうか。
アスランが離れるフレイに心配そうな視線を送ってきたけれど、どうやら心配はいらないらしい、とフレイは思う。心が静かだ。

「フレイさん」

ラクスの硬い声。
カガリのこと、キラのこと。ラクスも大変だ、と笑う。二人を守るために彼女は言葉を募らせる。二人が何も言えなくなっても、ラクスに縋るような視線を向けるものだから、ラクスは二人が言えない言葉を口にする。本当に大変だ。

「アスランはカガリさんの恋人です」
「そうね」
「ずっとご存知のうえで、アスランとおつきあいなさってらしたのですか」
振り向けばラクスの真剣な表情のその後ろで、キラもこちらを見ているのが見えた。何かを願うような必死な顔。ラクスの言葉に否定を返してほしいと言わんばかりの。
あれだけ言ったというのに、キラはまだフレイにこだわるのだろうか。
何故だろう。好きなはずなのに、胸に湧いた思いは喜びではなく苛立ちだった。

一体キラはフレイに何を求めているのだろうか。終わらせたのはキラだというのに。
確かに一方的に過ぎた。フレイ一人置いていかれた。けれどそれは自業自得だった。だからそのことに思うことはない。キラが選んだ別れは間違ってはいなかった。そう思うだけだ。
それなのに終わらせたキラが未だフレイにこだわっている。縋るように視線を向けてくる。これは一体どういうことなのだろうか。
後悔していた。心配していた。ラクスとカガリがそう言ったけれど、この視線は本当にそれゆえなのだろうか。これではまるで…。
そこまで考えてその先は打ち消す。考えたくなかった。
だからラクスにあら、と笑って返す。

「もうその話は終わったと思うけど?」
だからカガリがアスランと話しているのだ。
あれだけ口を出しておいて何だが、別れる別れないは結局本人同士でしか決められないのだ。
フレイが言ったことはカガリが気づこうともしなかったことで。それを材料にこれからどうするかはカガリの問題だ。気づいていながらずるずると今日まできたアスランの問題でもあるけれど。
だからラクスにはもう口出しする権利はない。
「カガリさんがどれほどアスランのことを好いていらっしゃるのか、わたくしは知っております」
「だから?」
「婚約解消の件について、フレイさんのおっしゃる通りなのでしょう。ですが人は分かり合える生き物です。いつか必ず・・・」
「オーブかアスランか。あのお姫様に残るのはそのどっちかなのよ」
どちらも手に入る、なんてことはないのだ。アスランとカガリの立場で両方は許されない。
それがどうして分からないのだろうか。カガリはもう分かっているというのに。
「カガリさんはオーブを愛していらっしゃいます。そのことはオーブの国民もよくよくご存知のはずです」
だから?だから話せば分かってもらえる?だからカガリはオーブもアスランも手に入れることができる?
本気で言ってるのかしら、とフレイが眉を寄せた時、キラが口を開いた。
「そ、うだよ、フレイ。カガリがどれだけオーブを愛してるか、アスランを好きか、説明すればきっと分かってもらえるよ。そりゃ時間はかかるだろうけど」
フレイとキラに足りなかったのは会話だ。片や憎悪、片や依存。体だけ重ねて、言葉を重ねなかった。その結果、キラが僕らは間違えた。そう言って終わりを告げることになった。
だからだろか。話せば分かってもらえる。キラがそう思うのは。それはそうできなかったキラの後悔からきた言葉なのだろうか。
そうだとしても、それができる問題とできない問題もあるのだ。


「なら、あんた達の関係をプラントに公表してみなさいよ」


え?とキラとラクスが無防備な顔をした。
「プラントって婚姻制度?あるんですってね。あんたとアスランはその制度で決められた婚約者って聞いたわ」
「え、え。ですがそれはすでに解消されております」
「でもそれって最後のどたばたしてる頃の話でしょう?そんな状況でプラントの未来って呼ばれてたっていうあんた達のそんな話、国民にできるわけないじゃない。多分国民はまだ知らないんじゃないかしら」
「…確かにその可能性はありますわ」
ですが、と眉を寄せるラクスは、それがどうしてキラとの関係を公表することになるのだ、という顔でフレイを見る。
どうして?簡単だ。
「今のあんた達とアスラン達の状況同じじゃない。話せば国民は受け入れてくれるんでしょ?ならプラントもあんた達の関係受け入れてくれるってことよね?」
そっちが実践してみせてくれたら私も納得するわ。私が間違ってたって謝ってあげるわよ。
そう言えば、わたくしは謝っていただきたいわけではありません、と返る。
「なら何の話よ。私がカガリ・ユラ・アスハを責めたのが気に入らないんでしょ?アスランと別れろって言ったのが気に入らないんでしょ?」
だから後は当人達だけで話し合い、という段階で話をぶり返してきたのではないのか。それ以外に終わった話をする理由があるというのか。

フレイはだんだんと不機嫌になっていく自分に気づく。
基本的にフレイは気が長い方ではない。父親に溺愛されて育ったからだろうか、戦前はわがままで思い通りにならない展開に癇癪を起こしていた。
戦争が終わってからは色々あったからだろう。色々知ったからだろう。癇癪を起こすことはなくなったのだが、気の短さにあまり代わりはなかったらしい。
寄せては返す波を足首に感じながらラクスを睨みつける。

「カガリ・ユラ・アスハがアスラン好きなのは分かってるわよ。アスランだって好きだったの知ってるわよ。だからあの馬鹿、別れられなかったんじゃない」
カガリに婚約者がいると知って。そうして恋心で隠れて見えなかった自分とカガリの立場を自覚して。このままでは二人に幸福な未来など訪れないと気づいて。なのにカガリを恋人と呼ぶままでいた。
「私がそれを知らないと思ったから知らせようとしたのかしら。どれだけ好きなのか知ったらあんた達の意見に同意するとでも思ったのかしら。馬鹿ね。そんなことあるわけないじゃない」
憤りのまま笑う。
キラがびくっと震えた。
「話せば分かってもらえる?ええ、そうね。話さないと分からないもの。でもね、誰だって分かってくれるわけじゃないわ。だって同じじゃないもの。考えてることも体験してきたことも皆、同じじゃないのよ。話し合っても理解できないことだってたくさんあるわ」
アスランとカガリのことはそのうちの一つだ。
後に知られれば悲恋として語られはするだろう。けれどそれは叶わなかった恋だからだ。身分違いの恋。一国の代表であるがために諦めた恋。
そうであれば国民は同情する。そして恋を諦めてまでもオーブを想ってくれた代表を今まで以上に慕うだろう。
「分かるかしら?カガリ・ユラ・アスハは代表なのよ。国民にとっては一人の女以前に代表なのよ。そうである以上、アスランとの恋は歓迎されないわ」
無理に理解を求めれば代表としての信頼は地の底だ。
だから言っているのだ。二つに一つ。アスランかオーブだと。

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