夢を見た。

小さなステラが誰かに髪を梳かれていて。終わればソファに座ってコーヒーを飲む誰かの膝に抱きつく。大きな手が頭をくしゃくしゃとするから、ステラはきゃあと声を上げて喜んだ。せっかく綺麗に結ったのに、と誰かが苦笑して。大きな手がぽんぽん、と頭を叩いた。
忙しいその誰か達は久しぶりにずっと家にいて。だからはしゃいでいた。だから髪型が崩れても気にしなかった。構ってもらえるのが嬉しかった。
そこにただいま帰りました、という声が聞こえた。振り向けば大好きな兄。おかえりなさいと抱きついた。兄もステラを抱きしめて。もうおでかけしないでね?と兄に言えば、ステラのお婿さんは大変ねと誰かが笑った。誰かがぼそっと何かを言って、誰かがあら、ステラを一生お嫁にいかせないつもりかしら?と意地悪な顔をした。いかなくていいです、と兄が言って、誰かが頷いた。
全く、と誰かが苦笑して。ステラはきょとんとして首を傾けた。

誰かと誰か。
知らない、誰か。
でも懐かしい、誰か。

目を開ければ夢の兄より大人になった兄がいた。
目尻を拭った兄は、辛い夢を見たのか?と兄こそが辛そうな顔をしていた。

「ゆ、め。だれ?」

分からない。
子供のステラと子供の兄。そして大人が二人。
兄が泣きそうに顔を歪めて、ステラの額にこつ、と額を当てた。頬を包む手が温かい。指が頬を撫でた。

「そうか。あの人達の夢を見たのか」
「し、てる?」
「ああ。ステラもきっとその内思い出すよ」
「ほん、と?」
「ああ。ステラは俺を思い出してくれたから、あの人達のこともきっと思い出すよ」
こくん、と頷く。
そうすると兄が笑った。笑って、帰ろうか、と言った。
「ネオ?」
「ああ」
「スティングも、アウルも、いる?」
「ああ」
「おにい、ちゃん、も」
「ああ。一緒に帰ろう。ネオとスティングとアウルが待ってる」

うん、と笑った。


ただ一人、残された君のために


「ステラ!?」

ステラがプラントに送られると知った。
話していたタリアも軍医も理由を知らされていないようだったが、ステラを解剖するのではないかと言っていた。もう助かる術はない、ナチュラルに体をいじられたコーディネーター。それを調べるのではないかと。
助けてくれるのだと思っていた。だってステラは被害者だ。
死ぬのを怖がっていたステラがMSに乗って戦っていた。コーディネーターだったステラ。体をいじられていたステラ。そのせいで衰弱していくステラ。どうすればステラを助けられるのか、それが分からないのだと言っていたけれど、手は尽くすと言ってくれたのに!!
敵軍にいたから?だからステラを殺すのか。見捨てるのか。生きてるのに!生きようと必死なのに!!
タリアも軍医もステラを助ける気がないというのなら、自分が助けるしかない。もう自分しかステラを助けられる人間はいない。
そう思って医務室にやってきたというのに。

「ステラ!!」

いないのだ。ベッドの中はもぬけの空。床に倒れているのは衛生兵だ。
どういうことだ、と混乱する。もしかしてもう連れて行かれてしまったのか。そんなはずはない。だってまだ迎えはきていないし、それなら衛生兵が倒れている理由がない。ということは誰かが連れて行ったのだ。何のために?
さーっと血の気が引いた。
ステラは地球連合軍に所属している。ザフトから奪取したMS三機のうちの一機、ガイアに乗っていた。ミネルバと戦ってきた。シンのようにステラを被害者だと思わない誰かが連れて行ったのだとしたら?そう思えば居ても立ってもいられなくなって、急いで医務室を出る。
探さないと。見つけないと。助けないと!!
ステラは動けないのだ。暴力を振るわれても抵抗できない。

「…っくしょう!!」

もっと早く助ければよかった。
後悔を、した。




シンが夜中にこっそりと部屋を出て行った。何やら覚悟を決めたように張り詰めた空気を纏って。
それを寝たふりで見送ったレイは、シンが何をしようとしているのか、それに気づいて後を追った。
出て行く前に止めなければいけなかった。なのに止めずに見送った自分に眉を寄せる。
シンはこれからプラントに上げられるステラを助けようとしている。地球連合軍にステラを返そうとしている。
けれどそれはレイが敬愛するギルバートにとっては不都合なことだ。
シンは知らないことだが、ステラはアスランの妹だ。ずっと行方不明だった実妹。未だ不安定なアスランをこちらに繋ぎ止めておくための人質には最適な人物。
だからシンを止める必要があった。ステラを返されては困るのだ。分かっている、のに。

被ったのだ。
体をいじられたステラに被ったのだ。クローンである自分の姿が。
泣いても叫んでも何も変わらない中、全てを諦めていた自分。研究員の思うがままに実験に付き合わされた自分。クローンであるがために寿命が近づいてきている自分。

生きたいのに。
もっともっと生きて、ギルバートの役に立ちたいのに。
死にたくなんて、ないのに。

シンがステラと初めて会った時、ステラは叫んだのだという。死ぬのは嫌だと。
他人に好き勝手にいじられた体。その命さえ他人の手の中にある中、それでもステラは叫んだ。足掻いた。生きたいと、ひたすらに。

ステラの衰弱を回復させるための術がこの狭い軍艦の中では分からないという。プラントに上がればもしかしたらそれを止められるのかもしれない。
ギルバートはステラを殺しはしない。アスランに対する人質とすることが目的であって、ステラを殺すことはその目的に敵わないからだ。分かっている。けれど。

「生きたいのなら、生かせてやりたいんです」

ステラが望む場所で。
レイが望む場所で生きているように、ステラにも。

「ごめんなさい、ギル」

痛む胸。
ギリギリと拳を握って、爪が食い込んでも尚握って。
それでも。

シンを手伝うために足を進めて、何故か追いかけているはずのシンとすれ違った。

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