走る。レイと並んで走る。

レイに腕を掴まれて、ステラはどうしたと聞かれて。レイがシンを手伝ってくれるつもりだったのだと知って。ステラがいないのだと、誰かに連れ出されたようなのだと泣きそうに訴えて。
探さないと。助けないととレイの腕を振り払おうとした時、レイが目を見開いて、アスランと呟いた。そしてこっちだ、と格納庫に向けて走りだした。

どうして格納庫だと分かるのか。どうしてアスランの名前が出てくるのか。
走りながらレイを見れば、苦々しい顔。

「先を越されたんだ」
「え、じゃあアスランが?」
「ああ。不味いな」

不味い?
アスランがステラを助ける理由は何だろう。シンと同じなのだろうか。ならば喜びこそすれ、不味いなどとは思わない。けれどレイは眉を寄せている。

「お前も俺も彼女を助けるつもりだった。彼女だけを」
「?そう、だけど。って、他にもいるみたいな言い方だな」
「彼女のような存在は、この艦にはいない。だが」

格納庫が見えてきた。
ドアを開けて見えたものは、


「裏切るおつもりですか、アスラン!!」


厳しく叫ぶレイの声に、ステラを抱き上げた状態でこちらを振り返ったアスランだった。


ただ一人、残された君のために


セイバーに乗り込む直前に聞こえた怒号。
振り向けばレイとシン。レイは銃口をこちらに向け、シンはレイ!?と驚いたようにレイを見ている。
何故二人がここに、と目を見開く。

「何してるんだよ、レイ!俺達はステラを…!」
「ああ。彼女は返す。だがアスランは別だ」
「何言って…!」

ああ、と思う。
彼らは衰弱する一方のステラを助けに医務室に行ったのだろう。けれどそこにステラはいなかった。衛生兵を一人気絶させたから、それも見ただろう。
ステラを誰かが連れ出した。だから慌てて追ってきたのだ。
けれどどうして格納庫だと分かったのか。ステラを連れ出した人間が、彼らのようにステラを助けようとしているかどうかなど分からないのに。
そう思うが、先程のレイの言葉がある。

「ああ、レイ。君は知っているのか」

ステラが何者なのかを。
この艦に乗る誰もが知らないそのことを、レイは知っているのか。ならばレイはギルバートに関わりが深い人物。
だが、ステラを返そうとしたのは何故だろう。ギルバートに関わり深いのなら、ステラがどうしてプラントに上げられるのかも知っているだろうに。

「彼女は俺達が無事に返します。ですからあなたは彼女を置いてこちらにきてください」
「知っているのなら、レイ。俺がそれを承諾するとは思わないだろう?」
「俺達が、いえ、俺が信じられなくても、シンなら信じられるでしょう?シンは必ず彼女を彼女が望む場所に返す」
「君達を信じてないわけじゃない。君達はステラを必ず返してくれるだろう」
「なら!」

シンがレイの隣で戸惑いに目を揺らしている。
シンは知らない。レイが知っているアスランとステラの関係を知らない。それを今、隠す理由はない。アスランは決めているのだから。何を裏切っても、もうステラを離さないのだと。決めて、ネオの要望を飲んだのだから。胸が痛んでも、決めたのだから。

「俺はレイ。二年前に再会した時に決めたんだ」
「二年、前?」
そう繰り返して、レイがはっと目を見開いた。
「ま、さか」
「何…、さっきから何だよ、レイ!」
愕然とした顔のレイに、不安になったのだろう。シンが叫ぶ。
少し騒がしくなってきた。声に気づいて人が集まり始めてきたのだろう。ちらり、と開いたコクピットを見る。
少し乱暴な行為になるかもしれない。ステラを見ると、ステラがへいき、と小さく笑う。それに笑みを返して、またレイとシンに視線を戻した。

「アスラン、あなたという人は!!」
「それくらいに大切なんだ」
「…っ」
レイが息を呑んだ。
目が揺れ、銃口も揺れている。
レイのことを詳しくは知らない。けれど、この反応に戸惑った。
ギルバートと関わりが深いのに、ステラがアスランの何かを知っているのに、なのにステラを助けようとした理由。それもこの反応と繋がっているのだろうか。
「ずっと探してた。俺も父も母も。ずっと後悔していた。どうして手を離してしまったんだろうと」
だからネオからの要望を聞かされたその時、決めたのだ。




「大切な妹だ。何を裏切っても守ると決めた」




シンが大きく目を見開いた。
何をしている!という第三者の声。それにレイとシンが咄嗟に振り返って。その隙にコクピットに乗り込む。
アスラン!と叫ぶ二人の後輩。放たれた銃弾。けれど遅い。コクピットは閉じた。
膝の上にステラを抱いて、セイバーを起動させる。そうして無理やり管制に入り込んでハッチを開ける。間に合わなければ撃つ。
外ではこちらに駆けようとしているレイとシン。そして二人を危ないと止める駆けつけてきた整備士達。
それを視界の隅に、ありがとうと笑う。聞こえていないだろう。けれど笑う。 ステラを助けようとしてくれた二人に、笑う。

「行くぞ、ステラ」

うん、とステラがアスランの胸元を握った。
視線はレイとシンが映った画面。ぼーっとした目で見ているのに笑って。

「シンは知ってるな?もう一人はレイだ」
「レ、イ」
「ああ、そうだ。お前を助けようとしてくれた二人だ」

できることならば覚えていてほしい、と口に出しはしなかったが、ステラが何度も繰り返してシン、レイ、と呟いた。
記憶を消されてもアスランを思い出したように、シンを思い出したように。ああ、ステラはきっとまた思い出すだろう。
それを嬉しく思って、ミネルバから飛び出した。

end

リクエスト「ただ一人残された君のためならば」続編。

以前のリクエストで叶えられなかったミネルバ逃亡が、ようやく為されました!
でもステラがほとんどしゃべってません。というか、これ主役レイとシンだ…。可笑しいな(汗)

リクエスト、ありがとうございました!

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