フリーダムがセイバーへとサーベルを振り落とした。
その直後にセイバーがバラバラになり、重力に従って落ちていった。
その先はどう考えても海だ。そこに叩きつけられるのは目にも明らか。
コクピットは無傷とはいえ、コクピットだけで何ができるのか。パイロットが生存する確率は低い。
その状況をステラは目を見開いて見ていた。そして理解した瞬間、その顔が恐怖に慄いた。


バッシャアアアアアアンッッッ


そんな音と共に、コクピットがステラの視界から消えた。




「いっ、やああああああああ!!!!!」




そこから先は、覚えていない。




ただ一人、残された君のためならば


ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、という機械音を聞きながら、ステラはゆっくりと瞼を開いた。
見える天井をぼーっと見ながら、今自分は揺りかごの中にいるわけではないのかと思う。
戦闘が終了すればいつも揺りかごの中で眠る。なのに自分はどうして揺りかごの中にいないのだろう。
そう思いながら、無意識に瞼を閉じようとすれば、ステラ?と聞き覚えのある声が聞こえた。視線を向ければそこにいたのは大好きな兄の姿。
ほっとしたように息をついた兄に、ステラは不思議そうに瞬きする。

どうして兄がここにいるのだろう。兄は任務で、今ステラの側にいないはずだ。
兄がガーティールーを出発してからどれくらい経ったろう。兄の任務はまだかかるのだと聞いた。だから今ここにいるはずがないのに。
そう思うステラの目に飛び込んできた色。赤。きょとん、とその色を見つめる。
赤は今兄が纏っている軍服の色だ。だが連合の軍服に赤などない。

赤。赤。赤。あ、か?

そういえば、赤を見た。ずっとずっと赤を見ていた。
そこに兄がいることは分かっていたから、兄の邪魔をしないように視界にだけ止めて。
それはどこでだった?

赤。
赤。
赤。
そう、青を背景にした赤。

赤が青い空を翔けて、海を滑った。
赤が白とサーベルを交し合い、動きを止めた。
赤がその隙を逃がさず繰り出された攻撃にバラバラになって。

赤が、バラバラに・・・なって?

ステラははっと目を見開く。

そう。そうして大きな大きな音をたてて、海へと落ちていったのだ、赤は。
ステラの目の前で空から落ちて海の中へと落ちて、ステラの視界から消えていったのだ、赤は。

ステラは手を伸ばす。必死に必死に手を伸ばす。
自分の中の記憶が確かならば、兄はいないはずなのだ。

『絶対に帰ってくる、約束する。だからステラ、笑って送り出してくれないか?』

兄はそう言っていたけれど、以前同じように海へと堕とされたMSのパイロットは帰ってこなかった。
そう、帰ってはこなかったのだ。海へ叩きつけられた人は。
赤も海に叩きつけられた。赤に乗っていたのは兄だ。なら兄も帰ってこないということになる。
だから手を伸ばす。思い腕を必死に上げて、目の前にいる兄の姿が幻でないという証を得るために。

「・・・に、ちゃ」
「ここにいる、ステラ」

ぎゅっと伸ばした手が、大きな両手に包まれる。その温かさにステラは瞬きする。
確かに感じる兄の手の感触。確かに感じる兄の手の温もり。

「お、にい・・ちゃん?」
「ああ、ステラ」

優しく優しく微笑む兄に、ステラは安堵した。そうして微笑む。


海に叩きつけられた人は帰ってこない。







兄は、帰ってきた。

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