キラに堕とされて、海に叩きつけられた衝撃で気を失って。目が覚めれば思いもがけない話を聞かされた。
セイバーが堕ちてすぐ、海上戦を不得意とするガイアが出てきたのだという話を。

ガイアはそのままフリーダムに特攻し、武器を落とされて海へと落ちた。そしてそのまま浮上することはなかった。
だが、海へと落ちたアスランを探しに潜っていた海の底で、セイバーのコクピットを抱き込んでいるガイアを発見し、共に回収。
アスランと同様気絶していたガイアのパイロットはまだ年若い少女で、酷く憔悴した様子であった。

そう聞かされ、アスランは動揺した。
ミネルバの誰にも分からないガイアの出撃の理由。それがアスランは分かった。
セイバーが堕とされたからだ。セイバーがバラバラに刻まれ、海に堕とされ錯乱したのだ。そして無理やり出撃してきたのだ。

愚かな、とは己への言葉。
自分が堕とされれば、少女がどうなるのかぐらい分かっていたくせに。
死ぬつもりはなかった。けれどあの状況でどう生きて帰るつもりだったのか。
まだ残っていた幼馴染への情に動かされ、攻撃の手を緩めたことを後悔した。




ただ一人、残された君のためならば


アスラン・ザラには妹が一人いた。名をステラ。正真正銘血の繋がった実の妹だ。
その妹と離れたきっかけは、パトリックがブルーコスモスに狙われたことだった。
妻子が危険にさらされることを恐れたパトリックが、妻子を月へと移住させようとしたのだが、その途中、警戒していたブルーコスモスのテロに遭った。
そのテロは未然に防ぐことができたし、素性は伏せていたから狙いはコーディネーターであってアスラン達ではなかったのだが、その時の騒ぎではぐれたステラ。レノアと二人探して探して、けれど見つからず。
結局逃げたブルーコスモスが金の髪の少女を抱いていたという情報を得て、母は倒れ、父は憤り、アスランは呆然とした。
それから父はステラを探し続けた。ステラの生死は分からないが、それでも生きていると信じて家族三人ステラの帰りを待ち続けた。
そうしてステラの無事が分かったのは両親がこの世を去り、アスランがプラントを追放された後だった。

再会は偶然だった。
オーブですれ違った少女。その少女が妹だと理解するより先に、その腕を掴んで引き止めた。
きょとんとした顔の少女が誰?と首を傾げ、その前を歩いていた二人の少年が敵意を露にステラをアスランから引き離した。
そのまま連れて行かれようとしていたステラの名を叫べば、ステラが振り向いて足を止めた。そしてアスランを見つめ、徐々に目が大きく見開かれ、顔が歪んだと思ったその瞬間、

『おにいちゃん!』

そう呼んで少年達の制止も聞かずにアスランに駆け寄って抱きついて泣いて。おにいちゃん、おにいちゃんと繰り返して。
その体を抱きしめて、ステラ、ステラと繰り返した。無事でよかった。生きててよかった。涙が止まらないアスランとステラに、二人の少年がきょとんとしていた。

その後すぐだ。ネオと名乗る男が現われたのは。
ネオはアスランとステラの様子に驚き、兄妹だと知ると複雑そうな顔をした。
ネオが一般人でないことは分かっていた。落ち着けばステラもそうであるのだと分かった。それはネオも同じで、アスランが戦いに慣れているのだと見抜いて、厄介だと頭を抱えた。
ステラがコーディネーターだとネオは知っているようで、ならば兄であるアスランも同じかと。それでいて戦いに慣れているのならザフト。
けれど同時に好都合かとネオはアスランに一つの話を持ちかけた。
それがアスランが連合に属することに決めた理由だ。

ブルーコスモスに攫われた妹。ずっとずっと探していた妹。両親亡き今、残された唯一の肉親。
そのステラと離れたくない。もう二度と奪われたくない。ステラも一度離れたアスランと引き離されるのを嫌がった。無理やり引き離せば泣き叫んで手がつけられなくなった。揺りかごですらステラのアスランの記憶を再び消し去ることができなかった。
アスランにべったりと抱きついて、引き離されるのを恐れるステラに笑っていて欲しい。
その思いから、ネオの話を呑んだ。

『俺はいつか必ずこの子達を軍から解放してみせる。それの手助けをしてくれないか』

そのために、仲間を裏切ることになってしまう。それを覚悟した。
大切な大切な妹のために。


* * *


「あんた、何でいっつもここにいるんだよ」
シンが敵意も露に睨みつけてくるのに、アスランは苦笑した。
「気になってな。お前こそ、よく通うな」
「俺は!…ステラのこと、知ってるから」

ステラとシンが出会ったのは知っている。海に落ちたステラを助けたのがシンで、それを迎えにいったのがアスランだからだ。
その時ステラが嬉しそうにアスランに笑ったのをシンは知らないし、ステラを迎えにきたスティングとアウルがぎょっとしたのも知らない。
知っていればアスランがステラの病室にいることに、もっと突っ込んで聞いてきたかもしれない。
そう思いながらアスランは、アスランから視線を外してステラの顔を覗きこむシンを見る。

ステラを本当に大切に思っている。それが分かる。
けれどステラをいつまでもミネルバに置いておくわけにはいかない。
シンはもうステラがコーディネーターだということを、軍医から聞いて知っているだろう。
だがそのステラを上が裏切り者だと捉えているのではなく、連合による犠牲者だと捉えてはいるのが何故かは知らないだろう。

『彼女は、君の妹だね?アスラン』

ギルバートが気づいたからだ。
パトリックの命を守るために、周りが娘が攫われたことを公表させなかったせいで誰も知らない行方不明の妹。
どうして気づいたのかは知らないが、これでアスランに対する人質ができたとギルバートは思っているだろう。
実際、人質になるのだ。連合がステラをアスランに対する人質としているように。
だから犠牲者。ブルーコスモスに攫われ、体をいじられ、連合の駒とされている少女。
その内アスランの妹であることが公表されるだろう。そして悲劇の兄妹のシナリオを書き上げるだろう。
ザフトにおける伝説のエース、アスラン・ザラの悲劇。そして感動の兄妹の再会。
人々の同情を一心に受けるだろうアスランは、プラントのこれ以上ない広告塔になる。そして連合の非道さを見せつけるものとなる。

「…そうなる前に」

ステラを連れてガーティールーに戻らなければ。プラントがアスランとステラを彼らの政治に取り込まない内に。
任務もすでに終わったようなもので、後は帰還命令を待つだけとなっていた。ならばもういいだろう。
ステラの自由を手に入れるために連合にいるのだ。ここでステラの自由への道を奪われるわけにはいかない。

「何か言いました?」
「いいや?」

訝しそうに見てくるシンに、アスランは微笑んだ。そしてステラを見る。
実行は明日。
うっすらと目を開けたステラに、唇の動きだけでそう伝えると、こくんと小さく頷いた。

一緒に帰ろう。ネオが待っている。スティングもアウルも待っている。
彼らと一緒に自由を勝ち取るために、ガーティールーに帰ろう。


ステラが嬉しそうに目を細めた。

end

リクエスト「アスランが連合のスパイでステラがミネルバに捕まり二人で逃げ出す」 でした。
…逃げ出す前です。すいません!
そしてステラをコーディネーターにしてしまいました(汗)。どこまでもすいません!

リクエストありがとうございました!

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