終焉のとき




「君は君だ!君の命は君のもので、君という存在は君だけだ!ラウ・ル・クルーゼじゃない!!」

叫び、訴える。
デュランダルとの話し合いを望み、やってきたメサイア。
そこにいたのはデュランダルではなく、赤服の少年。自らをラウ・ル・クルーゼと名乗る少年。
確かに似ている。面影があるし、声質も似ている。だが年があまりに違いすぎるし、ラウ・ル・クルーゼはもうこの世にいないのだ。
ならば考えられることは一つ。

あの憎悪の目が教えてくる。ラウ・ル・クルーゼと同じ憎悪の目で、お前のせいでと叫びを聞かせてくる。
あの目で見られることが再びあるなんて、とキラは銃を構えたままギリッと歯を鳴らす。

「確かに僕を、最高のコーディネーターを生み出すために君も、ラウ・ル・クルーゼも生まれたのかもしれない!
でも!命は生まれた瞬間から世界でただ一つの命だ!他の誰でもない!君という命だ!だからその命は君だ!君なんだ!」

少年はくつり、と笑った。
銃を構えたまま首を微かに傾けたのに、肩を流れる金の髪が一房その動きに合わせて滑り落ちた。

「ギルは言った。俺もラウなのだと。それが運命なのだと」
「違う!そんなことない!」
「逃れられないもの、それは自分。そう言ったギルに、あの時は単純に俺とラウは同一なのだと理解した」
「そうじゃない!議長がどう思ってても君は彼じゃない!ラウ・ル・クルーゼじゃないんだ!!」

静かに静かに語られる声に、キラは必死で否定する。
どうしてこんなに必死になっているのだろう。頭の片隅で自問する声が聞こえる。
今するべきことはデュランダルを探し出すことだ。探し出して彼を止めることだ。なのにキラは動けない。
動けば少年の銃弾が跳ぶだろう。だから動けないわけではない。足が地面に縫い付けられたように動かないのだ。

ラウ・ル・クルーゼじゃない。ラウ・ル・クルーゼじゃない。そう繰り返す自分。
それに少年が口元にうっすらと笑みを浮かべた。

「生まれてずっと研究所にいた。ラウが救い出してくれるその時まで、ずっと」
「研究、所?」
「そこで数々の実験が行われた。
お前を生み出すために造られたラウと違って、俺はお前という成功体を生み出せたが故に次もという欲のために造られた。
成功体の行方が知れないがためにいくつもの命を成功体のデータを元に造り出し、そして使えぬものは廃棄された。
ある程度までいったものは成功体のデータと照らし合わせ、そうして失敗箇所を修正していく。そしてまた造り出すの繰り返しが行われた」

キラは目を大きく見開く。唇が震え、声が出ない。顔色が真っ青に染まっていく。
最高のコーディネーターを造り出すために多くの犠牲を築いたと聞いた。
けれどキラが生まれた後もまだ続いていたとは思ってもみなかったのだ。
少年は最高のコーディネーターを造り出すために生み出されたのではない。
次なる最高のコーディネーターを造りだすために生み出されたのだ。一度成功したがために。

「どうして俺がこんな目にと何度思ったか知れない。何度お前を恨んだか知れない。
そしてこんな世界など今すぐ滅びてしまえばいいと何度願ったか知れない」
「ぁ、ぁ・・・っ」

キラのせいではない。ここに仲間達がいたならばそう言っただろう。事実そうだ。キラに責任があるはずがない。
それはキラも分かっているが、それでもキラを襲った衝撃は大きい。
自分を造るために築かれた犠牲の山。自分が造られたがために築かれた犠牲の山。
それが何、と言える者が果たしているのだろうか。




レイは目を細めた。
しっかりとした意志でレイを見据えていたキラの目が、今は虚ろに揺らめいている。
目に見えて震える銃口を、それでもレイに向けたままであることは感心するべきかと思ったが、
すぐに恐らくは自分が銃を構えていることなど忘れているのだろうと判断する。
それでもまだ崩れ落ちずに自分の足で立っていることは驚嘆に値すると思う。馬鹿にするなと言われそうだが。

レイは徐々に崩れ行く天井を目だけで確認すると、そろそろこの部屋も持たないだろうと安堵する。
時間稼ぎはそろそろ終わってもいいだろう。ギルバートはアスランに連れて逃げてもらった。
二人共がレイが残ることに難色を示したが、ただキラに直接言いたいのだと。
積もり積もった恨み事を直接ぶつけたいのだと。だから必ず戻ると約束した。

守るつもりのなかった約束を。

「お前は俺をラウじゃないと繰り返す。だが俺はラウだ。
それは俺達のようにお前を憎み世界を憎んだ失敗作たるもの全てにいえることだ」

キラが揺れる視線でレイを捉えた。レイはその視線を受けて、再びキラを睨みつける。ありったけの憎しみを込めて。
キラがびくっと肩を震わせた。

「俺達は同じ憎しみを共有している。それと同じだけ望んだ。光ある世界を。
俺はそのために戦う。ギルが示してくれる新たな世界。それは俺達のような命を生み出さないだろう。
だから誰かを造り出すために造り出された命。誰かを造り出すためだけに生かされている命。そんな世界を滅ぼして 新たな世界を俺は望む」

キラの目に生気が戻り始めてきたのにレイは気づくが、それに不都合はない。もう戻れないのだ。レイだけではなくキラも。
キラの後ろにある部屋の入り口はもう崩れた。瓦礫の隙間から外に出られたとしても、MS戦にしか慣れていないキラに、
不安定な足場と落ちてくる天井の中、無事脱出できるとは思えない。

「だがその新たな世界に俺もお前も必要ない。
欲により生み出され、生み出される前も生み出された後も数多くの犠牲を出し続けるお前という存在は罪だろう?
そしてこの先消えぬだろうお前への憎悪、世界への憎悪を抱える俺もまた新たな世界に相応しくはない」
「そんなこと!僕らに罪があるっていうのなら!そうだというのなら、僕らは尚更生きなきゃいけない!」
ようやく我を取り戻したキラは、しっかりとレイを視界に映して、そうして力強く叫ぶ。
「僕のせいでたくさんの犠牲が出たっていうんなら、僕はその命のためにも生き続けなきゃいけない!
君だって!あの人に救い出されたんだっていうんなら!なら生きなきゃいけない!だって生まれてきたんだ!僕も君も!
そしてその命を惜しんでくれる人がいる、愛してくれる人がいる!その人達のためにも生きなきゃいけないんだ!」

多くの犠牲の上で生まれたキラは、だからこそ死ぬわけにはいかないと叫ぶ。
出生の業を知ってなお愛してくれる人のためにも生き続けるのだと叫ぶ。
それはレイも同じだと叫ぶ。
それにレイは軽く目を見開く。

ラウがレイと笑って、広い明るい世界へと連れ出してくれた。
ギルバートがレイと笑って、頭を撫でてくれた。
シンとルナマリアがレイと笑って、抱きついてついてきてくれた。
メイリンとヨウランとヴィーノがレイと笑って、手を振ってきてくれた
そしてアスランがレイと笑って、おいでと手を差し伸べてくれた。

思い出す。そうして顔が歪むのを自分で感じた。
レイが死んだらどうするだろう。怒るだろうか、泣くだろうか。彼らから笑顔を奪うことになるのだろうか。
死んだっていい。どうせもうすぐ死ぬのだから、今ここで死ぬことに恐怖もためらいもない。
けれど交わした約束は。必ず戻ると交わした約束は、彼らを傷つけるだろう。


「僕は生きる!生きて帰る!ラクスのところに、カガリのところに。仲間のところに!!」


絶対に!とキラの指が引き金に力を入れたのを見た。




「やめろ!キラ!!」




聞こえるはずのない声を聞いたと思った瞬間、体に痛みが走り、後ろに倒れこむ自分を感じた。




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本編でもやったからいいよね、と生きろと言いながらレイを撃ちました。キラ様。
ちょっと気になった箇所があったんですが、本編でもいろんな方向に話飛ぶから、
ちょっとぐらいそういうの入れてもいいよね、キラ様の台詞、と思ってみたり(汗)。
そして、下書き段階ではレイはキラに言い負かされてました。おおう、と衝撃が走りました(泣)。
VSをやるならディスティニープランには触れちゃいけないとその時学びました。

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