「反対意見聞いて、まず考えようと思うそれが大切だよな。考えて考えて、それでも自分の考えを貫くのもいいし、
少し軌道修正するのもいい。いっそのことやめたっていいと俺は思うんだよ」

ラスティが呟くのに、ディアッカが振り向く。
比較的穏やかに会話しているアスランとイザークを眺めながら、ぽつりと。

顔を合わせるたびに喧嘩するアスランとイザークは、口喧嘩になるとお互いの意見をばっさりと切り捨てる。
ああだこうだと相容れない意見を言いあって、片方が悔しそうに負けを認める。そうでない時は誰かが止めに入らないと終わらない。
けれど時には自分の意見と相手の意見から新たに生まれる考えを見つけ出す。
そうして二人は喧嘩しながら、どんどん成長していくのだ。反対意見とは場合によっては成長促進剤。

そう思わせる二人とは違って、ラクス達にはそれがなかった。自分達の意志をどこまでも貫こうとした。
それが正しい、それ以外はないと言っているかのように。
だからアスランの意見にそれで本当にいいのかと問う。ラスティの意見にそういう話じゃないと怒る。
そこに相手の意見について考える、という行為は見えない。

「ちょっとでもよかったんじゃないかな。アスランは全部じゃなくてもいいから考えてほしかった。
何でアスランがザフトに戻ったのか。何でアスランが反論するのか。考えて、それでも貫くならさ、そう言ってほしかったんだよ」

アスランも頑固だ。視野が狭い時もある。でも反対意見はちゃんと聞く。そして悩んで迷って。
ラクス達が選んだ道にどうしてと叫ぶことはあっても、苦しむことはあっても、それでもそれがラクス達が選んだ道と納得することができる。
本当はそうしたかったのだろうと思うのだ。そうさせてほしかったのだろうと思うのだ。

現実はアスランを納得させるだけの意見を聞かせてはくれなかった。
納得させようという意志ではなく、お前は間違ってると言わんばかりの頭からの否定ばかり与えられた。
そして最後は裏切り者と言わんばかりの目で、自分は被害者だと言わんばかりの目でアスランを映していた。

ラクス達にはラクス達の想い、目的がある。それを貫こうという意志がある。
けれど彼女達はあまりにそれに捕らわれすぎてはいないだろうか。捕らわれすぎるあまり、他を排除する。
他を間違いと断じて、己の正当性を声高々に告げる。それはデュランダルと何が違う。

「もう二度と、会わせたくないんだけどなあ」

叶わぬ願いを呟いたラスティにディアッカは内心同意しながらも、お前ついてれば大丈夫じゃん?と返した。




衝撃は深く傷をつけ、想いは深く堕ちていった。




『ラスティっていえば、人懐っこくていっつも笑ってる皆のムードメーカー。人付き合いにしろ何にしろ適度にこなす。
でも大切なものを傷つけるものは許さない。そんな激しさも持ってるだろ?そういうのが怒らせると一番怖いタイプじゃないかと思うわけだ』

そんなことをミゲルが言っていた。それをふと思い出して、ここにくることを大反対したラスティを思う。
どうしても行くって言うんなら一人はだめだ。俺も行く!そう言うラスティに、なら途中までと返した。
意味ないだろ!なら絶対だめだ!そう言われても、なら一人で行くと本当に一人で行こうとしたら、この頑固者!と怒られた。

「でもラスティ。お前がいてくれると甘えるから」

彼らに憎まれるだろう。それに傷つけられるだろう。けれどそれはもう表面に傷をつけるものに過ぎない。
彼らの言葉がアスランを深く深く傷つけることはもうない。だから安心してくれ、と言ったならまた怒るだろうけれど。


一人で決着をつけなくてはいけない。彼らに完全なる決別を。


シュンッと最後のドアが開いた。カツンと足音。振り返るのはキラとラクスとカガリ。
見開かれる目。喜色を見せるのはキラとカガリ。敵意も露に睨みつけるのはラクス。
それに優しく微笑んで見せた。




「捕らえたAAクルーの中に、カガリ・ユラ・アスハと名乗る人物がいるとオーブに連絡をしたところ、
アスハ代表は結婚式の最中に攫われてから行方知れずとのことです。
AAと共に二度の戦闘介入においても代表を名乗っていた者がいたが、オーブの預かり知らぬところ。
その者はアスハ代表ではないと、オーブ代表の婚約者たるユウナ・ロマ・セイランオーブ代表代理から返答を頂いております」

「馬鹿な!私がカガリ・ユラ・アスハであることはお前だって知っているだろう!なのにそんな嘘を信じるのか!」
カガリがアスランを睨みつけ、キラがそうだよと頷いた。
「セイランさんは連合と同盟を結ぶようにカガリを追いつめた人だよ?そんな人の言うこと、何でプラントは信じるの」
プラントはセイランと組んで何かを企んでいるのかと疑心の目。それに感情のない目を返して、何故と首を傾ける。
「代表の行方が知れないオーブを代わりに治めていらっしゃる代理がおっしゃられることです。
それに偽りをと疑いを返せと?ただでさえこの情勢、オーブとの軋轢は深まるばかりかと思われますが」
あちらが知らぬというのならば、こちらはそれに従うまで。
疑ってオーブの不興を買えば、いまや敵国となったオーブがプラントに何を仕掛けてくるかもしれない。
「オーブはそんなことはしない!」
「その根拠は?」
「アスラン!」
双子が叫ぶ中、ラクスだけは気づいた。プラントの意図に。
代表代理の言葉はオーブの言葉。オーブがカガリのことなど知らぬというのだ。ユウナは気づいていないのだろうか。これは大変なことだ。


「これからのカガリさんの扱いについて、オーブの関与はないという言質を取った。そういうことですね?」


え?と双子がラクスを振り返り、アスランを見る。アスランはそう聞こえましたか?と返すが否定しない。
カガリをどう扱おうとプラントの勝手。つまりカガリをプラントの政治の道具にすることもできるのだ。
この先オーブとの間に国交回復があったとして、その時にカガリのことはプラントにはマイナスにはならない。
それどころかカガリを使って、プラントにとって有利にことを進められるかもしれない。
オーブがカガリを見捨てた形となったとはいえ、カガリが真実オーブ代表であるのはプラントのみならず、
知らぬと回答したオーブも知っている。それゆえに完全に知らぬふりなどできないだろう。
オーブにとってプラントが持つカガリという爆弾は、下手をすれば国の存続を左右するのだから。

「卑劣な真似を…。それが国の代表のなさることなのですか!」

例えばオーブは秘密裏に核動力のフリーダムと戦艦AAを保持していた。
例えばオーブが保持していたフリーダムとAAがザフトと連合軍に大きな被害を出した。
後者に対してはザフトはともかく、連合軍に対してはオーブが大西洋連邦と同盟を結んでいる以上裏切り行為だ。
それを為したのはよりにもよってオーブの国家元首。偽者の仕業と叫ぼうと、それは紛れもない事実だ。
ゆえに表向きは偽者と納得しよう。その振りをしよう。オーブという国の面目のためにも。
けれど裏ではそれを脅迫材料に使う。

カガリとキラが顔色を変えた。真っ青になった二人は、縋るようにアスランを見る。
けれどアスランはそう考えることもできますね、と肯定もしないが否定もしない。むしろ肯定しているようにしか聞こえない。
それに真っ青になっていたカガリが、一瞬で怒りによって真っ赤になる。
「アスラン、お前!」
そう叫んでアスランの胸倉を掴もうとするが、すっと避けられ逆に腕を捻り上げられる。
つっと呻き声を上げたカガリに、キラがカガリ!と叫んでアスランからカガリを取り戻そうと動く。
ラクスは息を呑んで、あなたという方は…!と射るようにかつての婚約者を睨みつける。
それにふっと笑って、カガリの腕を押すようにして離す。その先にはキラ。
「カガリ!大丈夫?」
キラの腕の中で痛むのか、捻り上げられた腕に手を当てるカガリにキラは心配そうに声をかける。
そして信じられないという表情でアスランを見る。

「何で、アスラン。カガリは一緒に戦った仲間じゃない!仲良くしてたじゃない!なのに何でこんな酷いこと…!」
どうしてアスラン。その言葉につまらなそうにアスランはふうんと返す。
「俺は今、そのかつての仲間に胸倉を掴まれそうになったんだけどな?キラ」
「そんなのアスランが悪いんじゃないか!カガリがオーブを大切に思ってるの知ってて!
オーブは悪くないって知ってて、あんなこと!!」
酷いよ。僕の知ってるアスランはそんなことしなかった。できる人じゃなかった。
そんな非難の言葉に、ラクスも厳しい表情で頷く。
「わたくし達の知っているアスランはとても優しい方でした。それゆえに悩み、苦しむ方でした。
決してオーブを仲間を傷つけるような真似を良しとする方ではありませんでした」
なのに、そう続けて、苦しそうに顔を歪めた。




「何があなたを変えたのですか、アスラン」




返る答えは、くすくすくすと笑い出したその姿。
今の話の何がそんなにも笑いを誘ったというのだろうか。笑うような話題ではなかった。問いかけではなかった。
ラクスがきつくアスランを睨みつける。馬鹿にされた、そう思ったのだ。
「何が可笑しいのですか」
「し、失礼」
ごほんっと咳をして、アスランは前髪をかきあげた。
「何が、ですか」
そしてまた、くすりと笑う。
「何が。簡単なことですよ、ラクス」
そしてその目に浮かんだ憎しみにも似た光に貫かれ、三人はびくっと体を震わせた。
「私は私なりに考え、決めたのです。私はプラントを守りたいのだと。だからザフトに復帰したのだと。
その思いを否定したのはあなた方だ。その思いを間違いと断じたのはあなた方だ」
「違う!僕達は否定してなんかない!間違いだなんて言わない!」
キラが首を振って訴えるが、アスランはへえ?と嘲笑を浮かべる。
「俺がプラントを守りたいからザフトに戻ったと言った時、お前は言わなかったか?
本当にその道が正しいの。利用されてないと言えるの。ちゃんと考えて、と」
「それは否定したんじゃない!アスランにちゃんと考えてほしくて…!」
「じゃあカガリが泣いているからと俺を堕としたのは?邪魔をするなら撃つを言ったのは?」

お前は俺の言うことを考えてくれていなかったじゃないか。
カガリが泣いてるから。無力に泣いているから。それを責めるなら、全てをカガリのせいにするなら撃つと。
そう言ってお前は俺を殺しただろう?その言葉に殺してなんかいない!と震える声で叫ぶキラ。
けれど確かに死んだのだ。あの時、キラ達を大切に思っていたアスランは死んだのだ。
今ここにいるアスランは、部下達に救い出され目を開けた瞬間、新たに生まれた。
大切なもの、守りたいものからキラ達を排除したアスラン・ザラに。

「ああ、そうだ。そのことだが、キラ」
アスランは忘れていた自分を呆れたように笑った。


「カガリのせいだよ?全部。
カガリが同盟を結んだからオーブに出兵要請がきたんだ。なのにカガリは自分で同盟を結んでおきながら、オーブから姿を消した。
中立を破られたオーブ国民の不安も、未来への不安も緩和させるのはカガリの義務だったのに。
なのに突然現れて理念にそぐわない戦いをやめろと叫ぶ。カガリがオーブにいたら、オーブは出兵の代わりに
他の支援で抑えることができたかもしれないのに。オーブ軍は戦わなくてもすんだ道があったかもしれないのに。
なのにさも彼らが理念を破ったかのように叫ぶ。全部カガリがしたことの結果なのに。カガリが選んだ決めたことの結果だったのに。
守りたいのならオーブにいるべきだった。オーブで戦うべきだった。国家元首として自分が決めた結果を背負うべきだった」


カガリが泣いているから何。オーブではたくさんの国民が泣いている。
カガリが無力だから何。その無力にたくさんのオーブの国民が不安を抱いている。
それが分からないのなら、もう国家元首の椅子になど座るべきではない。
オーブを大切に思っているのなら、もう国家元首を名乗るべきではない。
カガリでなくとも、オーブには変わりにその椅子に座る人間がいるのだから。
カガリでなくてはいけない理由など、どこにもないのだから。

「…っ!」
カガリが顔を歪めた。目に涙が溜まっているのは何が原因だろうか。屈辱か怒りか悔恨か。
キラが酷いと自分こそ泣きそうな顔で呟いた。
「お前達の方が酷い。あのままオーブ軍が退いていたら、オーブは大西洋連邦に何をされたか分からないんだぞ」
「え?」
「もしかしたら連合軍に撃たれたかもしれない。大西洋連邦から裏切りを盾に無理難題を押しつけられたかもしれない。
どっちにしろオーブはお前のせいで同盟国ではなく、属国となったかもしれないんだ」
何から何まで酷いことをするな、お前はとアスランが言えば、カガリが震え、崩れ落ちた。
キラがカガリ!と叫んで抱きしめた。そしてアスラン!と今までで一番強く睨みつけてきた。

「カガリはオーブの理念を守ろうと、オーブの人達を守ろうと頑張ってきたんだ!
なのに君はそうして全部カガリの責任にして!どうしてそんな酷いこと言うの!」

酷い酷い酷い。そればかり繰り返すキラの前、ラクスが足を進める。そして聞こえる冷たい声。

「結局あなたはザフトのアスラン・ザラだということですのね?
個人としてのあなたをわたくし達は信じておりました。それを裏切って、あなたは結局ザフトとしてのあなたを選ばれたのですね」

その言葉にアスランは、愚かですねと嘲笑った。

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…可笑しい、終わらない(汗)。のでもう一話続きます。

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