信じていた。どれほど離れていても、心は同じなのだと。
納得はできなくても、それでもその心は同じで。それを相手も信じてくれているのだと疑っていなかった。
大切に思う人達が大切に思っていてくれていると疑っていなかった。
それは愚かなことだったのだろうか。

友人は言う。
そんなことはない、と。
俺はお前のこと大切だし、お前も俺を大切に思ってくれてるって思ってる。それを愚かだって言うか?
言わない。そう返せば、だろー?と笑顔が返る。
お前のも愚かなことじゃないし、間違ったことでもないんだ。
俺は信じた奴に切り捨てられたことないから、ふざけんなって思うかもしれないけどさ。
お前がそれを愚かだと思って、お前を大切に思ってる他の奴らを疑うようになるのは悲しいし悔しい。
疑われる俺達も、疑うお前もさ。だから信じて。信じたっていい。俺も信じてるんだからさ。
こつん、と額に額があてられて。信じて、と切実な声。
それに泣きたくなって、ごめん。ありがとう。そう言って目を閉じた。

俺はきっと大丈夫。何があっても大丈夫。そう、笑えた。




衝撃は深く傷をつけ、想いは深く堕ちていった。




「あなた方は何をもって裏切りとするのです?あなた方を肯定しないから裏切りと?
事実を申し上げただけでも、それがあなた方の望まぬ結果だから裏切りと?愚かですね」

何事も肯定してくれる者でなければ仲間ではない。
何事も望んだ結果を与えてくれるものでなければ仲間ではない。どこの子供の我儘なのでしょうね?
そう微笑んで見せれば、ラクスの怒気が増した。

「誰がそのようなことを言っているのですか!わたくし達はあなたを信じていたのです。仲間と信じていたのです。
それを裏切るような真似をされたのはどなたですか?キラをカガリさんを傷つけたのはどなたですか?
わたくしはそれを申し上げているのです」
「自業自得だと申し上げたかと思いますが?」
そう聞こえなかったのですね、とまた嘲笑。

「カガリさんは周りが全て敵ばかりであったというのに、それでも代表として頑張ってこられました。
同盟のことは少し見えなくなっていただけ。今のカガリさんはそれを後悔なさってます。
だからこそ再び争いへと繰り出す世界を止めようと、わたくし達と共に戦っていらっしゃるのです」

それが分かりませんか、とラクス。
けれど足元のカガリは顔を上げず、片手で顔を覆ったままうつむいている。

「キラは今でも争いを厭っていらっしゃいます。争いのない世界。それは誰もが望む世界です。
ですがデュランダル議長の示す世界は、人間から自由と尊厳を奪う世界。人から可能性を奪う世界。
それを許してはいけないと、苦しみながらも戦ってくださっているのです」

力がなく、戦う術を持たないがために、ただ従うしかない人々に代わって。
目先の甘い言葉に浸って、その先の苦しみに気づかない人々に代わって。
動きたくとも動くきっかけを持たず、ただ唇を噛んでいる人々に代わって。
声を上げよう。それは間違いだと。世界に伝えよう。運命が人の道を決めるのではない。人が人の道を決めるのだと。
そうすればその声を受け取った人々が共に声を上げてくれるだろう。
そうすればその声に目を覚ましてくれる人々が現れるだろう。そのためにキラもカガリもラクスも戦っているのだ。
けれどアスランは愚かですね、と今度は吐き捨てるように言った。

「そこに武力を加えるのは当然と、そう思っていらっしゃるのですね」
「思いだけでも力だけでもだめなのです」
「力を使い、逆らえばどうなるかをみせつけたうえで思いを説く。素晴らしい言葉ですね」
「どうしてそう偏った見方をされるのですか。それほどにわたくし達を悪と断じたいのですか」

そうして悪を定め、己の善を世界に示そうというのか。
ラクス達を生贄に、世界の中心として己の思うがままに世界を動かそうというのか。
変わってしまったアスランを悲しく思い、そしてそういう手段を用いることを良しとすることに嫌悪する。
そんなラクスに、アスランは愚かだと三度言った。

「それほどまでに己を正義と信じていらっしゃるのなら、最後までそれを貫かれるといい。
あなたがされたことで出た犠牲。あなたが放棄されたことで出た疑心。
あなた自身、どれほどの怨嗟を身に纏っていらっしゃるのか、知る日は近い」

エターナル強奪。フリーダム強奪。ガイア強奪。Gのセカンドシリーズの秘密開発。
ディオキアへの攻撃、大西洋連邦の同盟国オーブ代表の騙りの承認。ザフトへの甚大な被害。
全ては平和のために。いつまでもそれを叫び続ければいい。
そうして返るものが肯定でなければ、再び叫べばいい。どうして分からないのかと。

射殺さんばかりに睨みつけてくるラクス。うつむいて震えるばかりのカガリ。睨みつけながらも怯えたように目を揺らすキラ。
それを順々に眺めて、アスランは言った。




「あなた方に頂いた絶望を、いずれお返しする日がくるでしょう」




その日をお待ちください。


* * *


「何をしている、貴様」
「よ、イザーク」

窓にもたれて外を見ているラスティに、偶然通りかかったイザークが眉を寄せる。
どことなく元気がない様子に気味が悪いと思って、ああ、と思いつく。
「あの馬鹿はこの先か」
「そ。最後の引導渡しにさ〜」
「貴様を置いてか」
「許してくんなかったんだよ」
ここから先は絶対ついてくるなと言われたと肩を落とす。
無理やりにでもついていこうとすれば、ラスティを伸してでも止めるだろう。
「だから貴様はあいつを甘やかしすぎだと言うんだ」
ラスティなら最後にはちゃんと許してくれることが分かっているから、だから無理を通そうとするのだ。
そう言われて、ラスティはあはは〜と笑う。
「でもアスラン、あいつらのことまだどっか大切に思ってんだよ。だからこれで完全に断ち切るつもりなんだって…分かるからさ」
それは人の手を借りてではなく、自分でしなければ意味はない。
そうでなければまた彼らを大切なカテゴリーに入れたままにしてしまうだろう。自分への逃げ道は絶つ。
そう思っているのだと分かるから。

「本当はさ、いいよって言ってやればいいんだと思う。大切に思ってていいよって。
アスランがあいつら大切に思ってるからって、俺はアスランのこと嫌ったりしないからいいよって」
そうしたらアスランも断ち切ろうと思わなかったかもしれない。わざわざ傷つきに行かなかったかもしれない。
それを言ってやれなかったのは、結局のところラスティが許せなかったからだ。
アスランを傷つける彼らを。この先もアスランが彼らを大切に思うことによって傷つく可能性を。
アスランがそれでよくても、ラスティが許せなかったからだ。


「それでも選んだのはアスランだ。アスランが自分の意志で断ち切ると決めた。
それは貴様が何を言おうが言うまいが変わらん事実だろうが。だというのにそれを自分のエゴだと責めることこそエゴだ。自惚れるな」


ばっさりと切って捨てるその言葉が、優しさであり慰めであり叱咤であることに気づくものは少ない。
その少ない内に入るラスティは瞬きし、そして小さく笑う。
「イザーク」
「大体、俺は断ち切るのが遅すぎると言ってやりたいぐらいだ。ぐだぐだと悩んで、あげく堕とされただと?
油断しすぎだと言うんだ、あの馬鹿が!」
「…俺の感動返せよ〜」
がっくりと項垂れたラスティは、けれど心が晴れたおかげで、次に浮かべた笑顔に影はなかった。

end

リクエスト「運命設定・ラスティ生存でブラックザラ隊がザフトの盟主としてAA組をメッタ切り」と
「運命設定・ラスティ生存ラスアスでキララクカガ&オーブAAを滅多切りザフトを思いっきり贔屓」でした。

ザフトの盟主設定忘れてるのに今気づきました(汗)。
滅多切りはどうでしょう?最近にしては滅多切りした気になってるんですが。
ラスティには滅多切りとかさせたくないなあと思ったので軽めにして、アスランにざっくりやってもらいました。

リクエスト、ありがとうございました!

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