「きたまえ、アスラン・ザラ」

差し伸べられた手に、泣きたくなったのはどうしてだろう。


Rapunzel who starts accompanying.


「おかしいと思わない?」
膝を抱えてシンのベッドに座るルナマリアに、レイのベッドに寝そべって雑誌を読んでいたシンが顔を上げる。
自分の机の上のパソコンで何やら作業をしていたレイも振り返ると、ルナマリアがほら、と言う。
「アスランよ」
途端にシンがムスッとし、レイが眉をひそめた。
ルナマリアはそんな友人達の反応を無視して、おかしいじゃないと繰り返す。
「オペレーション・ラグナロクが終わって、いつの間にかアスランいなくなったじゃない。艦長は別の任務だって言ってたけど、急すぎるわ。それにジブリール逃がしてるのよ?今探してるけど、すごく中途半端に行っちゃったじゃない」

挨拶もできないほどの急ぎの任務。この状況でそれはおかしくないだろうか。
しかもアスランは授与されたばかりのレジェンドを置いていった。たった一度の戦闘に使われただけで、後はレイに引き継がれた。
おかしい。そんな状況はおかしすぎる。
なのにレイは無反応。シンはふんっと鼻を鳴らした。

「あんな奴、別にどうだっていいだろ」
いなくなってせいせいした、と手を振るシンを、ルナマリアは睨みつける。
「人が真剣に話してるんだから、真剣に聞きなさいよ」
シンが再びムスッとした顔で口を開くが、それより先にレイがルナマリア、と呼んだ。
「知ってどうする」
「え?」
シンとルナマリアがレイを見上げる。
レイはいつもの無表情で、しかしシン達には分かる微妙は機嫌の悪さでルナマリアを見ていた。

「俺達は軍人だ。上が言うことを疑ってどうする。艦長がそう言うのならそれが俺達の真実だ。 それ以上のことは俺達が知らなくていいことだ」

それはそうだけど、とルナマリアがうつむく。そしてぎゅっと膝を抱える腕に力を入れる。
レイの言うことは分かる。けれど、短い間とはいえアスランは上司だった。仲間だった。 こんな唐突な別れをすぐに納得することはできない。
それに。

「違うのよ、疑ってるわけじゃないの。でもね、アスラン凄かったじゃない。今回の作戦、今までが嘘みたいに凄かったでしょ?フリーダムのこととか吹っ切ったのかしらってくらい。でも知ってるじゃない、私達。そんなに簡単に吹っ切れるはずないって。できるならとっくにしてるはずじゃない。できないからアスラン、ずっとあんな…」

フリーダムが堕ちてから、それまで以上に沈み込んでいたアスランを思い出す。
自分はフリーダムに堕とされたというのに、フリーダムを撃ったシンにくってかかったアスラン。
ザフトとしてそれが間違いであるわけではないと知っていたろうに、シンを責めた。
そんなアスランがこんな短期間でフリーダムを吹っ切れるはずがないのに、オペレーション・ラグナロクで凄まじい活躍を見せた。
作戦に参加した誰よりも、アスランは強かった。
作戦が終了してレジェンドから出てきたアスランは、張り詰めた糸が切れたというより緩んだような顔をしていた。
そして一夜明けた時には、もうアスランはいなかったのだ。

「そんな状況で別の任務につきました、はいそうですか、で終わらせられる?」

無理よ、とルナマリアが言うのにシンがうつむく。
シンとて気にならないわけではない。ただ、アスランの行動というのはシンにとっては理解不能で。
めちゃくちゃだ、と以前アスラン本人に言ったことがあるのだが、今も変わらずそう思っている。
何を考えているのか、何をやっているのか、どれ一つシンにはさっぱり分からない。
考えても分からないからもやもやするし、イライラする。だからもう考えない。そう思っていただけだ。
なのにルナマリアが言うから、考えないようにしていたものに目を向けてしまった。

シンは起き上がり、戸惑ったようにレイを見る。
レイが何か知っているのではないか、と思ってのことではない。困った時のレイ頼み。それが身に染みついているため、つい癖でレイを見てしまうだけのことだ。
そんなシンの視線を感じながら、レイは黙り込む。

思い出すのはオペレーション・ラグナロクが開始されるより前。そう、アスランがまだ姿を消す前のことだ。
レイは知っていた。アスランがどうして姿を消したのか。本当に任務だったのか。その場にいたのだから知らないはずがない。

アスランはもうMSには乗らない。軍には戻らない。
今は任務とでも偽って誤魔化す。そうしていずれはアスランの軍籍を消す。そういうことになっている。
何故?それはアスランを連れて行った人物による要求だからだ。
どの道アスランを殺すつもりだったのなら、ここで連れて行っても構うまいと。
だが脱走兵だなんだのは面倒だから、その内戦死したことにでもしておけと。

レイもギルバートも異を唱えることはできなかった。
アスランという不安要素がいなくなることに変わりはないのだし、連れて行くという人物に任せておけば、
この先のアスランの介入もないだろうからだ。
だが、それをシンとルナマリアに言うわけにはいかなかった。これは他の誰にも洩らせることではない。
アスランを殺そうと算段をつけていたことも。アスランが軍を出て行ったことも。アスランを連れて行った人物のことも。何一つ、言えることではなかった。

「言えることは、考えても仕方がないということだけだ」
「でも、レイ!」
身を乗り出すルナマリアに、レイはなら、と返す。
「お前には分かるというのか?俺達三人で考えれば、その疑問が解けると?」
「そういうことじゃなくって!」
「そういうことだ。考えても分からないことを考える。そして出た答えが真実答えなのか? 今俺達がするべきことは体を休めることだ。次、いつ出撃の命が下るのか分からないのだからな」
う、とルナマリアが呻く。
「…わかったわよ」
不服そうにだがルナマリアが退いたのに頷いてシンを見れば、シンはほっとしたように息をついていた。
レイはそれを確認すると、再びパソコンに向き合い、作業の続きを始めた。

どうして。
それはレイがずっと問いかけている問いだった。
ルナマリアのどうして、とは向かう先は違ったけれど、どうして、とずっと問いかけていた。




どうしてアスランをそれほど気にかけるのですか、ラウ。




笑ってレイの頭を撫でて去っていった男に問いかけた。


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すいません、続きます。
しかもクルアス二人そろって出てきてません(汗)。
次は出てきます。次はちゃんとクルアスです!

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