「その道は本当に正しいのかと問いかけ、答えは寄越さない彼らは、アスランが考え、選んだ道を否定するばかりだ。 そして彼らと違えた道を進み続ければ、もう用はないと言わんばかりに切り捨てる。アスランにとっては切り捨てられない大切な者達は、口では大切だと言いながらアスランを切り捨てることに躊躇いはない。それはアスランのトラウマになる。このままではもう二度と自分で道を歩めまい」


Rapunzel who starts accompanying.


ここはどこだろう、とアスランは思う。
アスランをこのプラントに連れてきた男を見上げると目が合った。
「あの、隊長」
先の大戦で死んだはずの男、ラウ・ル・クルーゼは、元部下のアスランに眉を上げた。
「ラウ、だ。アスラン」
「ですが」
今は違うとは言え上司を名前で呼ぶなんて、と戸惑う。
「ここは軍ではない。分かるな?」
軍とは関係ない人間が、軍とは関係ない場所で隊長と呼びかけることは果たして賢明と言えるのか。
そんな無言の言葉にうつむく。

言っていることは分かる。
けれどクルーゼは上司で、しかも尊敬している人で、尚且つ年上だ。せめてさんづけで許してくれないだろうか。
そう思うが、ラウさんって何、と自分で思う。ならクルーゼさんとか。いっそのこと様づけで。その方が自分の中で抵抗はない。
ラウ様、クルーゼ様。
…・いや、ある。どうしよう。

う〜、と知らず唸る。
そこまで葛藤することでもあるまいに、と愉しそうにクルーゼが見下ろす先で、アスランが顔を上げた。
どことなくがっくりした様子だ。

「ラウ」
「何だね?」
遠慮がちなアスランに、けれど満足そうにクルーゼが頷く。
「ここはどこなんでしょうか?」
「どこでも構わんさ」
確かに困るわけではないが、それでも普通は気になるものだ。
少しばかり批難を含んだ視線に、クルーゼはくくっと笑う。
「そうだな。いまだ先の戦争の傷跡が癒えぬ、復興途中のプラントだ。辺境にあるからな、中々思うように進まん」
だから君を連れてきたのだが、と続けると、こて、といった感じでアスランが首を傾けた。
「機械工学は好きだろう」
「はい」
「君のそれは趣味の段階を超えているからな。ここでは非常に大きな戦力となる」
つまり、復興に力を貸せということか。
それは願ってもないことだ。自分の持つ力が役に立つのなら。そしてそれが人の命を奪うでもなく、人の役に立てるのだ。これ以上はない。
だが、と思って目を伏せる。

「…俺は、結局中途半端ですね。軍人にもなれず、政治家にもなれなかった」

誰もが望んだ形で役に立つどころか、逃げ出した。自分で選んだ道すら放棄した。
オーブのために、プラントのためにとザフトに復帰したはずなのに、迷い戸惑って満足に戦うこともできずに。
そうして今、全てを捨ててここにいる。差し伸べられた手を掴んで、他のものを裏切って。

「それを間違いと断じるか、アスラン」

目を開けクルーゼを見上げると、クルーゼは視線を前に向けていた。
習って視線を動かすと、のどかな雰囲気が漂う村が見える。そこを駆け回る子供達と家を建てる音。忙しく働く人々。

「やり遂げたならば確かに素晴らしいだろうさ。だからと言ってやり遂げたもの全てが正しいとも限るまい。君は確かに途中退場したな。決めた覚悟を翻したな。だが、それが最良であるかもしれん」

何かにとって、誰かにとって、自分にとって。そうであることもあるのだ。
だが分からない、と。最良とは思えない、だがもう後戻りもきかない状況だ。どうにもならない、と新緑の瞳が揺れる。
アスランは真面目だ。一度後ろを向けば、とことんそこから抜け出せなくなる類の真面目さだ。
だからクルーゼはそれ以上は言わず、アスランと呼ぶ。

「ここでならゆっくりできるだろう。君も疲れたろう?私も疲れた。全霊を持って全てを憎んだからな、体力も気力も使い果たした。しばらくこういう場所で休むのもよかろう」

そしてクルーゼの視線がアスランに落ちると、アスランも視線を返した。

「君はここでしたいことをしたまえ。ただし私の手を掴んだのだ。ここから出ることは許さん。その範囲でなら好きにしたまえ」

アスランが目を見開く。
好きにしろ、と。自分のしたいことをしろ、と。
大切な存在に否定されたそれを、クルーゼはしろと言う。しても手を離さないと、そう言うのだ。
それにアスランは泣き出しそうに顔を歪め、笑う。

「復興に力を貸せと言ったのに?」
なのに好きなことをしろと?
そう言えばクルーゼも笑う。
「どうせ君のことだ。私が言わずとも進んで手伝うだろう?」
「そう、ですね。はい、きっと」

はい、と言えば、クルーゼが頷く。そして行くぞ、と声をかけて村に向けて歩き出す。
それに過去のように一歩後ろをついて歩いていれば、突然ぐいっと腕を引かれて隣に並ばされる。
きょとんとしてクルーゼを見上げれば、呆れたような視線が降ってきた。

「アスラン」
「はい?」
「君がそうだと私と君の関係は何だと理解されるのだろうな」
「は?」

主の後ろを歩く使用人。主従関係。
夫の後ろを歩く妻。夫婦関係。
さあ、どれがいい?と聞かれ、あ、と気づく

「え、と。隣を歩かせていただいてよろしいでしょうか?」
「それはわざわざ聞くことかね?アスラン」
「す、すみません」

クルーゼの隣を落ち着かない気分を味わいながら歩く。
クルーゼの隣に立ったことはあっても、並んで歩いたことはない。
そもそも自分はクルーゼの部下であったし、クルーゼの護衛であったのだ。隣に並んで歩けるはずがない。
だがクルーゼの言う通り、今の自分はクルーゼの部下ではないし、護衛でもないのだ。
そう思って、慣れるしかないかと小さくため息をついて気づく。

「どういう関係になるんだ?」

あれ、と首を傾げる。
これからこの村に住むのだという。それは一緒の家にということなのか、別々の家にということなのかは知らないが、 共に村にやってきた二人の関係を周りが気にしないはずがない。
親子にしては年が近すぎる。兄弟にしては似ていない。
もし聞かれたらどう答えたらいいんだろうか。素直に元上司と元部下ですと答えればいいのか。
だが、普通元上司と元部下が一緒に移住してくるだろうか。いや、完全にないとはいえない…と思う。
が、どんな仕事をと聞かれたら素直に軍人と答えていいのか、どうなんだ。

「いっそ恋人とでも言って回るか」
「はあ!?」
「悩まずにすんでよかったな、アスラン」
「ちょっ、え!?隊長!?」
「ラウだ」
「ラウ!」

足を速めてさっさと村へと入っていくクルーゼを、アスランが慌てて追いかける。
本気なのか冗談なのか、その見分けがつかないのがクルーゼだ。

「本気で言ってらっしゃるのですか!?冗談なんですか!?どっちですか、ラウ!」

本気なら止めねば、と必死な顔のアスランに、さてなと返すクルーゼ。
コーディネーターの中でも容姿がずば抜けている二人は、ただそこに在るだけでも目立つというのに、そんな様子で村の中を歩くものだから視線が集中しても仕方がない。
移住一日目から、彼ら二人は村中の噂の的となったのだった。


* * *


窓から外を眺めながら、ギルバートは目の前のソファに座っていた友を思い出す。




アスランの処遇をレイと決定しようとした矢先に、死んだはずの友、クルーゼが突然現われた。
後ろにギルバートが意図したように写真を持って、戸惑うように視線を揺らしているミーアを連れて。

「ここでアスランを捕らえ、殺そうなどと考えるなよ?デュランダル」
確実にアスランは逃げるだろう、とクルーゼは言う。
「あれは監視されている」
「監視?」
誰にと問えば、クルーゼはギルバートに向けてではない嘲笑を浮かべた。


「ラクス・クラインだ」


思いもがけない名に、三人が目を見開く。
クルーゼはその反応に満足そうに頷くと、ソファにもたれる。

「あれは常に監視されているのだよ。だからこそあれが逃げようと行動したのなら、確実に助け手はくる」
先の大戦の折もそうだった、と言うクルーゼにギルバートは眉をしかめる。
「ならばそれは監視ではないだろう」
「いいや、監視だ。デュランダル」

ラクス・クラインはアスランの元婚約者だ。元がついていることを国民は知らないが、議員の中では周知の事実だ。
それでも二人の仲の良さはプラント中が知っているし、ラクス・クラインが常に持ち歩いている球体が、
アスランが造り贈ったものだというのも有名な話だ。
なのに監視?
ギルバートのみならず、レイも困惑したように顔を歪めているし、ミーアに至っては目を見開いたままだ。

「ラクス・クラインはアスラン・ザラという駒が、完全に己の敵となりえぬことを知っている。だが、完全な味方になりえぬことも知っている」

アスランの婚約者であった少女は、常にアスランを信じ、そして疑っているのだと。
それ故にアスランは監視される。その行動を常に把握するために。その都度、アスランへの対応を変えるために。

「アスランが逃げればラクス・クラインは手を伸ばす」

そして甘く、厳しい言葉で丸め込むのだ。
ラクス・クラインでなくともいい。
アスランが大切にしている者、キラ・ヤマトでもカガリ・ユラ・アスハでもいい。
アスランの居場所はここにしかないのだと。一緒に戦おうと。

「だからデュランダル。アスランに手を出すなよ」
アスランという敵を増やしたくなければ、とのクルーゼに、ギルバートは息を吐く。
「それで、君はどうしろというんだろうね。いや、どうしたいんだい?クルーゼ」
生きていたのならもっと早く伝えられたろう。何もこんな、大きな作戦の間際にくることはなかった。

「何をしにきたんだい?」




「アスランを貰い受けにきただけさ、デュランダル」




これ以上、壊されてはたまらない。
そう言ってクルーゼは笑った。




ギルバートは思い出したその記憶に苦笑する。
クルーゼはあの後本当にアスランを連れて出て行った。
オペレーション・ラグナロクに参戦させたのは、せめてどこかで区切りをつけさせないと動かないだろうとクルーゼが言ったからだ。
何をどう言ったのかは知らないが、アスランは素晴らしい働きをしてくれた。手放すには惜しい。けれど手元に置くには危険すぎる。何とも厄介な人物だ。

「今頃どこにいるのだろうね」

戦場を離れて彼らはどこへ行ったのだろうか、と思い、クルーゼとアスランが並んだ姿を思い出す。


そんなにも気に入っていたとは知らなかったよ、と複雑な顔で笑った。


end

クルアス「クルーゼ生存」でした。
そうして二人は幸せにくらしましたとさ、めでたしめでたし、と付け加えたくなりました(笑)。
そして微妙な気持ちで残されたのは議長とミネルバ組です。AA組は何も知らないままです。

ところでタイトルは「連れ出されたラプンツェル」なんですが、すっかり忘れてました(汗)。
一応高い塔の上に閉じ込められたラプンツェルを、どうにも身動きできなくなったアスランに。
塔へやってきた王子様を、そこから連れ出した隊長に。ラプンツェルの王子様は塔から連れ出せませんでしたが。
そんな意味だったんですが、後編書いてる時はすっかり忘れてました…。

リクエストありがとうございました!

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