誰もが正しくて。誰もが間違っていて。正解なんてどこにもなくて。だから自分が正しいのだ、なんて本当は誰も言えなくて。ただ自分の思いのまま突き進むだけで。突き進む、だけで。

カツン、と足音が止まる。
それに続いて足を止めたナタルはどうした、と眉を寄せた。

「よろしいのですか」
「何がだ」
「この先にはあなたもよくご存知の方々がいらっしゃいます」
元上司が。元部下が。親しんだ人達がこの先にはいる。そこに向けて歩いているということはどういうことか、分かっているでしょうと新緑の目が語る。
それをしっかと見返して、ナタルは当然だと言い切る。
「私はもうAAのクルーではない。そして彼らはもう私の上司でも部下でもない」
お前の方こそいいのか、と返せば苦笑が返る。
「もう、決めました」
「そうか」
ならば行こう、と先を促す。
この先にいるのはナタルの元上司と元部下。そして現上司と現部下。
そして目の前を歩く彼にとっては、幼馴染と元恋人と元婚約者。そして現恋人。

二人にとっては過去にすると決めた人達。

AAとミネルバを繋ぐ通路から出れば、光が溢れて。




「ナタル?」
治療された肩を押さえたマリューは、死んだはずの友人を目にして擦れた声でその名を呼んだ。
生きていた。けれど湧き上がる想いはムウの時とは違って歓喜だけではなかった。もちろん歓喜もあった。あったけれど負の感情もまた存在した。ナタルがムウを殺した相手だからだ。そしてマリューが殺した相手だからだ。
けれどナタルは気にした様子もなく、お久しぶりです、ラミアス艦長とマリューを呼んだ。
「生きていたのね」
「はい。かろうじて」
その言葉は決してマリューを責めてはいない。だというのにマリューは目を伏せた。かろうじて。そうしたのはマリューだ。ムウを殺された怒りのままに命令を下してナタルがいるドミニオンを撃った。

「あなたが気にすることはありません」
私がそれを望んだのですから。
え?と顔を上げるマリューにナタルは望んだのだ。あの時、確かに。

『撃てえ!マリュー・ラミアス!!』

そう叫んだのだ。だから恨んではいない。
ただ、それを望んだのはあの時のマリューだったからだ。今のマリューには望まない。望もうとは思わない。
ナタルはマリューから視線を外して、上司であるネオと、ネオの腕に抱きついているステラ、そして側に立っているスティングとアウルに微笑む。ステラ達が顔を歪めた。

「ただいま戻りました」

ご心配をおかけして、そう続ける前にステラがネオから離れて走り出した。それにつられてスティングとアウルも走り出す。
ステラが走って、走って、そしてナタルに飛びつく。

「ナタル!!」

きゃ、とナタルから声が洩れる。抱きとめる準備はできていたが、まさか飛びついてくるとは思っていなかった。そのせいで倒れそうになって、後ろにいたアスランに支えられる。
すまない、そう言えばいいえ、と微笑が返る。
「ナタル、ナタル、ナタル!!」
「ナタル!」
「姐さん!」
泣いて縋りつくステラの後ろで止まったスティングとアウルが笑った。
「心配をかけたな」
「ジブリールの奴に何もされてないか?」
「あの裂け眉、絶対ぶっとばしてやる!」
「ステラもする!」
自分の手のひらに拳を叩きつけたアウルにスティングが頷き、泣きながらステラも頷いたのにナタルは苦笑する。
ああ、やっと戻ってこれた。ここに戻ってきたかった。
ぎゅうっとステラを抱きしめると、おーいと上司の声。四人揃って振り返ると、ネオが俺は?と情けない顔をして側に立っていた。

「大佐」
「ネオ」
「何言ってんだ?ネオ」
「おっさん、ボケた?」
「……俺も入れてほしいです」

肩を落としたネオに、思わず噴出したのはアスランだ。それに恨みがましい目を向けるネオは、ザラ、と低く唸る。
「し、失礼しまし、たあっ!?」
咳払いひとつしてネオに謝るアスランが、途中で消えた。
「ザラ!」
思わず声を上げたのはナタルだ。ナタルが倒れるのを支えたアスランが、今度は支える人もなく床に倒れた。上に乗っているのはピンクの髪の少女。
「〜〜〜っ」
声も出ないアスランに、哀れみの目を向けたのは子供達だ。
「ゴンっていったぜ?」
「ああ、凄い音がしたな」
「…いたそう」
けれどアスランの上に乗っている少女は酷いわアスラン!とぎゅうぎゅうとアスランを抱きしめた。
「あたしもアスランと感動の再会したいのに、アスラン全然きてくれないんだもの!」
「ミ、ミーア…」
「会いたかったわ、アスラン」
アスランは?と拗ねた顔で言われたアスランは、痛みに耐えながら、俺も会いたかったよ、ミーアと返す。途端にミーアの機嫌が上昇して、大好きアスラン!とまた抱きついた。ゴンッとまた音がした。

「いいよな〜、ザラ。ナイスバディの女の子に抱きつかれて。ナタルもミーアちゃん見習って…」
「セクハラ発言はおやめください、大佐」
「ネオ、ひどい」
「さいて〜」
「ステラの教育に悪いだろ」
「……お前達、俺に冷たくないか?」
がくり、とネオが肩を落とす。そこに、声。


「もうよろしいですか」


冷えた声の主を見れば、その目は憤りを乗せていた。
それに怯えるものはいない。唯一怯えそうなミーアはアスランが頭を抱いているため顔を上げられずにいる。

「ご説明いただけますか、アスラン」

キラとカガリの不安そうな視線がラクスの後ろから突き刺さった。


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