姿が見えないものを追いかけた結果は


「ムウ、さん?」
ベッドに腰かけて不思議そうに言うミーアに、そう、と頷く。
今ミーアが着ている服はテレビで着ていたような服ではなく、病人が着るような一枚着だ。他になかったからだ。ミーアにオーブの軍服を着せるわけにはいかない。
だから仕方がないのだが、どうしても視線がミーアの胸にいってしまう。これはちょっと失敗だったんじゃ、と思いながらキラは何でもないようにムウ・ラ・フラガっていってね、とムウの説明を続ける。
「僕らの仲間だった人なんだ。エンデュミオンの鷹って呼ばれてて、凄く強い人だったんだよ」
「へえ。その人がこの人なの?」
ミーアが向かいで眠る地球連合軍の男を見る。
ネオだと言っていた。ネオ・ロアノーク大佐。ムウ・ラ・フラガじゃないと。それを聞いていたミーアが首を傾げると、キラが小さく笑う。
「間違いないよ。多分、記憶を操作されてるんだと思う」
「…そんなことできる、の?」
「多分ね」
多分。多分。多分。ミーアが眉を寄せた。
「そうじゃないとムウさんがマリューさんのこと、分からないはずないから」
そうとしか考えられないんだ。
キラの言葉にミーアは、ふうんと相槌を打った。そんなミーアを見下ろして、キラは思い出す。
ミーアをAAに連れてきたのはアスランだった。

『虫のいい願いだと分かっている。だがお前達にしか頼めないんだ。頼む、しばらくの間でいい。ミーアを匿ってくれ』

必死な顔でアスランがそう言って、

『どうして…っ、だって、プラントのためだって、ぎちょ。らくすさま、かえってくるまでって…っ』

ミーアがアスランの胸の中で泣きじゃくっていた。
何が何だか、というキラ達に、アスランがどうしてミーアがラクス・クラインを名乗っていたのかを説明してくれた。
ラクスが不在のプラントが混乱しないために、議長がミーアにラクスの代わりを頼んだのだと。ラクスは今訳あってプラントを離れているけれど、必ず帰ってくる。だからそれまでの短い間、プラントのためにラクス・クラインを名乗ってほしいと。
ミーアはそう言ったから引き受けたのに、と泣いていた。ラクスの名前を利用してラクスを追い落とそうとしていたなんて知らなかったと泣いていた。
そんなミーアをアスランが痛ましそうに見て、ミーアを助けたいのだと言った。だからミーアを無事に避難させられる場所が見つかるまで匿ってほしいと。そう言って頭を下げた。
そんなことしないで。大丈夫。この子は騙されてただけなんだから、僕らが守るよ。そう言った。

それからだ。ミーアはAAにいる。AAで匿われている。
けれどミーアを連れてきたアスランはAAにはいないのだ。思えば、キラは心配に顔を曇らせた。

「そういえば、アスランから連絡あった?」
「ないわ」
「そう…」
まだ帰ってこないのかな、アスラン。
キラが呟く。
ミーアを預けるだけ預けてAAを出て行ったアスランは、恐らくはザフトに戻った。
ミーアを連れて逃げたのにザフトに戻って大丈夫なのか。心配は尽きない。どうしてもっとしっかりと引き止めなかったんだろう。そんな後悔すらする。
「まだやらなきゃいけないことがあるんですって」
「やらなきゃいけないこと?」
「ミーアには教えてくれなかったけど」
それを終わらせないとだめなんだって、と膝を抱えるミーアに、今度はキラがそう、と相槌を打つ。
やらなきゃいけないこと。それは一体なんだろう。ここではできないこと?どうしていつも一人でしてしまおうとするんだろう。それが悔しかった。







狭い部屋の中、ナタルは重い息を吐いた。
ばれたのだろうか、と思った。けれど違った。ばれたのではない。ただタイミングが悪かった。それだけだ。
後もう少しだったというのに。後もう少しで大人の残酷なエゴから解放してやれるところだったのに。なのに自分が足手纏いになった。

「スティング、アウル、ステラ」

慕ってくれた子供達。
今どうしているだろうか。元気にしているだろうか。…生きて、いるだろうか。
それすら分からない現状に、ナタルは強く強く目を瞑った。

自我を持ち始め、洗脳を受け入れにくくなった子供達。それを快く思わない上層部によって、子供達から引き離された。そうして閉じ込められた。つまりは人質。子供達が慕うナタルを人質として、逆らわないようにと圧力をかけているのだ。

子供達の命は上層部が握っているため、下手に抵抗もできない。だからといってこうして閉じ込められている自分に腹も立つ。

ああ、ああ、ああ。私のことはいいから、機会は逃がすな。ようやく訪れた機会。それを決して逃さないでくれ。

祈るように手を組む。その手の上に額を当てて……ドアが開く音にはっと顔を上げる。
そこにいたのは地球連合軍の軍服を身に纏っている青年。青年はドアを閉じると被っていた帽子を脱いだ。

「!お、前は…っ」

知っている。
けれどどうしてここでこの顔を見るのだ。
青年はそんなナタルに笑みを向ける。

「お久しぶりです、ナタル・バジルール中尉」

お迎えにあがりました。







「作戦は成功したようね」
「はい」
メイリンがタリアの言葉に頷く。
「ならシン達を出してちょうだい」
「了解しました」
命令に諾が返ると、タリアがぐっと拳に力を入れた。
ここからだ。ここからが一番の正念場だ。
「…艦長、本当にいいんですか?だって相手はあの」
「アーサー。私達はプラントを守るためにいるのよ。そのために戦っているの。彼らの目的が何であれ、プラントを傷つけるというのなら私達は戦わなければいけないのよ」
そのために軍服を着ているのだ。そのために戦場に出ているのだ。プラントを守るために。プラントにいる大切な人を守るために。
脳裏に浮かんだ息子と昔の恋人の姿に、タリアはそうでしょう?とアーサーを見る。

目的が何であれ。
相手が誰であれ。


例え世界の英雄であろうとも。プラントの歌姫であろうとも。


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