二つの異なる世界の二人の少年達は全く違っていて、けれどとてもよく似ていた。

大切なものただ一つを守ろうとする少年。名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
大切なもの全てを守ろうとする少年。名をアスラン・ザラ。

力を欲し、守りたい者のために己の心を犠牲にして。
なのに犠牲は少年達だけに止まらず、周りにすら及ぶ。
そのことに悲鳴を上げて、心から血を流して。けれど歩み続けて。
だが迷い無く、強い覚悟で。そう見せていた少年達は、その実違った。

迷いを無くしたつもりで、いつだって迷い続けていた。
覚悟を決めたつもりで、いつだってその覚悟は脆かった。
引き返せない後悔をしてようやく無くなる迷い。
逃げ道を無くしてようやく決まる覚悟。

そんな少年達の姿は愚かで。酷く酷く愚かで。

そして哀しかった。




一瞬の交差




本来ならば異なる時空を生きる二人の少年が邂逅を果たしたのは、如何なる御業によるものか。
どこまで続くのかしれない闇の中、立つ位置さえ確かなのかしれない場所で、少年達は向かい合っていた。
相手が何者か互いに知るつもりもなく、けれど相手が己と同じでけれど対極に位置する存在なのだと知っていた。
普段ならばそのことに疑問を覚えるはずの二人は、何故だろうか。その時、一欠けらの疑問すら持たなかった。

「俺はナナリーを守ると、ナナリーに優しい世界を創ると決めた。
そのためにどれほどの犠牲が必要になろうと、俺はその道を進み続ける」

ルルーシュがアスランを睨みつけるように言葉を放つと、それを受けたアスランが、だがと返す。

「そうして他を切り捨てて本当にいいのか?俺は守りたい。大切なもの全てを守りたい」
「本当にできると思うのか!それを!」

ルルーシュが手を広げると、纏っているマントがバサッと広がった。

「大切なもの全てを守れる者などいない!世界に意志が複数に絡み合っている限り、全てを守ることなどできはしない!」
「だが!守れる道があるかもしれないじゃないか!」
「どこに!?たとえできる道があるのだとしても、それを為せると思うのか!
体は一つだ。できることなど限られている。この手で守れる範囲の狭さをお前も知っているだろう?!」

それは、とアスランが苦しそうに眉を寄せる。

「様々な意志が様々な思惑を生む。誰かが歓喜する一方で誰かが嘆く。それが当然の摂理だ。どの道を選んでも笑顔も悲しみも同じく生まれる」
「そうと分かっていても、諦めきれないんだ!大切なんだ!キラがカガリがラクスが!守りたいんだ!シンもレイもルナマリアもメイリンも!ミーアも!」

泣き出しそうな顔で、悲鳴のように言葉を放つアスランに、ルルーシュも同じ様な表情で、声で叫ぶ。

「全てなど言っていれば全てを失う!全てを守る道を模索している間に、一体どれほど大切なものを失う!」

守れるのなら守りたかった。けれど決めたのだ。ナナリーが静かに穏やかに暮らせる優しい世界を創ると。
そのために障害となるのは親兄弟で。
ユーフェミアにも笑っていて欲しかった。コーネリアにも笑っていて欲しかった。クロヴィスにも笑っていて欲しかった。
けれど彼らを討たねばならなかった。目的を果たすためには彼らは邪魔だった。
そのせいで生まれた犠牲で泣く人がいて。失った人がいて。それはルルーシュの身近な人であったりもした。
けれどそれら全てを思うのならば失う。絶対唯一の妹を。

「ナナリーだけは失えない!失うわけにはいかない!ならば他は捨てる!ナナリーを守るための障害となるのなら!」

分かっている。アスランが震える声で呟く。
ルルーシュが言うことは、言われるまでもなく分かっている。

「撃たねば撃たれる。そう言われたことだってある。割り切れって。そうしないと死ぬだけだって言われたことだってある。
それを身に染みて分からされたことだってあるさ。俺が撃たなかったせいで失ったものがある。俺が割り切らなかったせいで失ったものもある。
だから分かってるんだ。どちらも、なんて思ってれば同じことになるかもしれないことぐらい!」

アスランが首を振った。
なら!とルルーシュが叫ぶが、分かってる!とアスランがまた叫んだ。

「シン達にとってキラ達は敵だ。戦場で出会えば撃つだろう。キラ達はシン達を敵とは定めていないが、それでも状況によっては撃つだろう。
いくら殺さずを貫いていようと戦場だ。その後で何があっても可笑しくはない。
それでも俺はどっちも選べなかった。だから議長に不要とされた。その結果、メイリンまで巻き込んだ!」

シンに撃たせてしまった。
傷つきやすくて、全身で傷つけるものを威嚇して。理不尽に大切なものを失ったからもう失いたくないと叫んで。 守るために戦って。
なのに守りたいものをまた失って、傷ついて。そうして傷から血を流しながら、それでも守りたいんだと戦って。
そんな少年に撃たせてしまった。自分を、メイリンを。それがまたシンを傷つけたろう。血を流させたろう。

メイリンはアスランを信じてくれて、助けてくれて。そうして差し伸べた手を迷いなく掴んでくれたけれど。
裏切らせてしまった。大切なものを守りたいと入隊したザフトを。笑いあい励ましあった仲間を。仲の良い姉を。

置いてきてしまったミーア。一人、雨の中に置き去りにしてきてしまった少女。
少女にとって危険な場所だと分かっていたのに。無理やりにでも連れて行けばよかったのに。
なのに差し出した手を引っ込めて、置いてきてしまった。

「全部守りたいと思って、なのにたくさん傷つけて。結局、誰も守れなくて。それでも・・・っ、守りたい、んだ」

分かってる。できるはずがない。
俺の手は小さくて。両手を合わせても守りたいもの全部守るには小さくて。零れ落ちていくものを拾うこともできないほどに、小さくて。
ただ一つと定められればと、どれほど思ったろう。なのに、それでも諦めたくない。今からでも守れると信じてる。
・・・・・信じたいんだ。

その言葉にルルーシュが顔を歪める。

無理だ。
全てなど守れるはずがない。そして、心が耐え切れるはずがない。
ただ一つと定めていても、切り捨てたはずの一つを失うたびに心が裂かれたように痛み、崩れ落ちそうになるのだから。









けれどその気持ちも理解できるのだと、心が泣いた。




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