一瞬の交差




「お前達が選んだ道はもう引き返せはしない。故に交わることもない。論じるだけ無駄だよ」


突然聞こえた声に、二人は弾かれたように顔を上げる。
視線の先には白衣の少女。闇の中にくっきりと浮かび上がるその姿に、ルルーシュがC.C.と呟いた。
C.C.はその声に答えず、ルルーシュに近づいてその顔を睨むように見上げる。

「しっかりしろ。お前にはお前の選んだ道があるだろう。他の道などもう選べないことぐらいとうに知っているだろうが。
もう一方の道を選んだ男に呑まれて自滅するのか。ナナリーも守れずに」
「・・・っ!」
唇を噛み、しかしC.C.を睨みつける目の強さに、C.C.はふっと笑う。
「そうだ。お前はもう進むしかない。しっかりとその道を見据えていろ」
そう言うと今度はアスランを振り向く。
そして戸惑ったようにC.C.を見るアスランに近づくと、三歩ほど前で立ち止まり、右手を差し出す。




「力が欲しいか」




「・・・・・何?」

突然の言葉にアスランは眉を寄せる。
ルルーシュがおい、と声をかけるが、C.C.はお前は黙っていろと返す。
何を考えている、と息をつくルルーシュは、けれど何か考えがあるのだろうC.C.に、止めることは無駄だと黙る。

「守りたいのだろう?そのための力をやろう」
「君、が?俺に力を?」
そう、とC.C.が頷く。
「条件は私の願いを一つ、叶えること」
だが、と笑う。

「王の力はお前を孤独にする」

アスランに漂う孤独の気配よりなお深い孤独。けれど力は手に入る。アスランの望みを叶えるための力は。
どうだ?と問いかけるC.C.をアスランは怪訝そうに見る。そしてその後ろのルルーシュを見る。
ルルーシュは何も言わない。そして目を伏せているため、その表情も読み取れない。

「あいつは手を伸ばし、力を得た。そして孤独をも得た。
大切な幼馴染、大切な兄妹を敵として。誰にも正体も目的も明かさず、けれど組織を作り、まとめてきた。
自らの手を汚し、多くを失い、心さえ失うことを望み。そうまでして守りたい唯一のために、あれは戦っている」

アスランがC.C.に視線を戻す。
どういうつもりで手を差し出しているのか。どういうつもりで取引を持ちかけているのか。
それを欠片でも見つけようと目を細めるが、それを面白そうに見る目が笑むのが分かっただけで、それ以上は読み取れない。
そんなアスランにC.C.は笑んだままお前も、と首を傾ける。

「何かを背負っているな。詳しくは分からないが、多くの業が渦巻いている。多くの嘆きが取り巻いている。
お前はそれらを背負い、それでもまだ多くを守りたいという」

道は幾重にも存在する。
ルルーシュのように一つ以外を切り捨てる道も、アスランのように何も捨てない道もその内の一つだ。
どの道が正しくどの道が愚かか。そんなことを論じるのは無駄。そちらのほうがよほど愚か。
だから否定はしない。だからそのための手を貸そうか。

「お前が手を伸ばしさえすれば、お前の望む力はお前のものだ」




どうする?









「振られたな」
くっとルルーシュが笑う。
C.C.も笑う。
「まあ、そういう道もあるだろうよ」

孤独は恐ろしい。けれど守れる力が手に入るのならば喜んで受けよう。
それでも、とアスランは言った。

「力で守れるものではない、か」

ルルーシュがもう誰もいない虚空を見つめ、呟いた。

言葉をつくして、思いを込めて。そうして届くまで叫び続けて。
そうでないと守れないものばかりなのだと、アスランは小さく微笑んでそう言った。

「羨ましいのか?」
「あの男がか?」
C.C.が頷くのに、C.C.を見下ろして笑う。
「もしお前と出会ったあの時に戻ったとしても、俺はお前の手を取るさ」
「取らなければ殺されたからな」
その言葉に意外そうにルルーシュが目を見開いた。
確かにあの時のルルーシュは命の危機が迫っていた。ギアスの力を手に入れなければ死んでいた。
だがそれをC.C.が言うとは思わなかった。
ルルーシュを見上げるC.C.に、ルルーシュは再び笑う。


「お前と出会ったのが何の危険もない日常の中だったのだとしても同じだ」


じっとルルーシュを見たまま黙っていたC.C.が、そうかと視線を外すと、ルルーシュはそうだと頷く。
そしてアスランが消えた虚空へと視線を戻す。

アスランは守れるのだろうか。守りたいもの全てを。
ルルーシュが無理だと断じたものを。アスラン自身も無理だと分かっていたものを。
諦めたくない。そう言って、アスランは一つを守ることより全てを守ることを選んだ。ルルーシュが選ばなかった道を歩んで行った。
その道を歩みたいとは思わないし、思うには犠牲を出しすぎた。けれど、アスランの道行きを思う。

「ああいう男も、なかなか好みだ」

C.C.の言葉にルルーシュが振り向けば、C.C.もアスランが消えた虚空を見つめていた。
「それはあの男が気の毒だな」
くくっと笑って、ルルーシュがアスランとは逆方向に歩き出す。
それに並んだC.C.に、そういえばと口を開く。

「最後に何を話していた?」
「うん?」
「あの男と何か話していただろう?」
「ああ」

契約を断られた後、C.C.はアスランの腕を引っ張り、その耳元で何事かを囁いていた。
アスランが目を見開いてC.C.をみ、それにまた何かを囁いて。
しばらく二人、ルルーシュには聞こえなかった会話の内容は何だったのか。
ルルーシュが見下ろしてくるのに、C.C.は目を合わせる。









「契約だ。お前がその道に迷い、揺れたその時、私達を思い出すだろう。ならば呼べ、私を」

「何を・・・。契約はしないと」
「ああ。だが私は存外お前が気に入った。その道の先がどうなるのか、非常に興味がある」
迷惑だといわんばかりにアスランの眉が寄った。だがC.C.はくっと笑う。
「だが私は最後まであいつの側にいると決めている。お前についていくわけにはいかない。だから呼べ。
その時私はあいつを連れて今一度お前の前に現われよう」
それに何の意味がと言わんばかりのアスランに、ぐいっと顔を近づける。
唇が触れそうで触れない近さに、アスランが下ろうとするが許さない。

「あれの力は絶対遵守の力。あれが命じれば何が何でもそれを実行しようとする意思が働く」
アスランが目を見開く。
「何と命じて欲しい?大切なもの全てを守れ?それとも諦めろ?」
「・・・どちらにしろ残酷な命令だな」
「だがこれは好意だよ、アスラン・ザラ」

酷く険しいと分かっていて、それでもこの道をと定めているお前が迷い揺れる。
それはどれほどの痛みをもたらしているのだろう。どれほどの辛苦を絶望を味わっているのだろう。
それからの解放となるのだから、立派な好意だろう?

そんなC.C.に、そうだなとアスランも頷く。
だが、と今度はアスランが目を細めて笑う。

「彼のためでもある」

C.C.が目を軽く見開く。

「彼が選んだ道もまた険しい。選んだ道を挫折した男は、彼の未来の一つだ。
それを見せることで、彼の意思をより強める。決してこうはならない。自分はやり遂げてみせる。そう思わせる」

そうじゃないか?との確信された問いに答えず、C.C.は笑む。
そしてアスランの首に腕を回し、体勢を保つために腰に回された腕に体を預けてその頬に口づけた。

「これは契約。この闇から抜け出た時、お前もあれもここで交わしたやりとりは忘れるだろう。
だが、先程も言った通りお前が迷い揺れた時、私達を思い出すだろう。その時は私を呼べ。そして選べ」

その対価は言わずともいいようだしな、と笑って、固まったアスランから離れ、目を丸くしているルルーシュの元へと戻った。









けれどそれを語ることなくC.C.は笑う。

「秘密というものは女をよりいっそう魅力的に見せるというからな」
だから秘密だ、と言うのに、ルルーシュは呆れたような目を向ける。
「秘密だらけの女はよりいっそう怪しさが増すだけだがな」
「何だ、ルルーシュ。やきもちか」
「誰がだ」

そうして言い合いながら、二人もまた闇の中へと姿を消していった。

end

リクエスト「ギアスin種で、ルルアスルル」と「種+C.C.で、アスランと契約を結ぶCC。CアスC」でした。
リクエスト内容を曲解したような話ですみません。これが限界でした(汗)。

ルルーシュとアスランの共通点は、と思った時、守るために自分の心から血を流してるところかなと思いました。
そして守ると決めているのに実はちょっとつついたら崩れそうな覚悟で。引き返せなくなってからしっかりとした覚悟が決まる。
そういうところが似てないだろうかと思ったんですが・・・どうでしょう?

C.C.は、実は契約を断られるだろうなと思ってました。
ただルルーシュにしっかりしろと言ったのと同じように、アスランにも言葉じゃない方法で覚悟を促しただけです。
そして別に受け入れても構わなかったりもします。どっちにしろ覚悟が決まるということなので。
C.C.にとって、アスランはもう一人のルルーシュのように見えた。だから放っておけなかった。
ということなんですが・・・作中に入れろよ、私(汗)。

リクエスト、ありがとうございました!

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