幸福なる世界のために




「なら、どうしてフレイを殺したんだ」


静かな静かな声が響いた。
キラ、とラクスが心配そうに呼べば、ラクスの腕の中で、ラクスの肩に顔をうずめたままキラがどうしてと繰り返した。

「僕に憎悪をぶつけたかったっていうんなら、何で関係ないフレイを殺したんだ」
クルーゼに抱きついたまま振り向いたアスランを、クルーゼが抱き込む。
そしてフレイ?と首を傾げるのに、キラが顔を上げて声を荒げた。
「あなたが殺した!ドミニオンから放たれたシャトルを撃った!フレイを殺した!!」
「キラ!」
ラクスが身を乗り出したキラを宥めるように抱きしめる。
「ああ、あれに乗っていたのか。だがそれが何だという?私はザフト、彼女は連合。撃たぬ理由の方がない」
「ザフトも裏切っていたくせに!!」
「それでも私はザフトに所属し、ザフトの軍服をまとい、ザフトのMSを操った。ザフトの名の元に」
「そうしてあなたは何でも道具のように利用して!アスランも利用して!」

優しい優しいアスラン。それは軍人になっても変わらなかった。それを知っている。
戦って戦って、そうして自分が傷ついても、守りたいものを守れればそれでいいと考えるような人。
子供の頃と違うのはその自己犠牲の精神で、けれど変わらないのはその優しさ。
それは偽りないものだと、真実のものだと分かっている。
世界をクルーゼの憎悪の犠牲へと差し出そうとしたというけれど、止める約束もしたという。
それはクルーゼのためだというけれど、キラはそれだけだとは思わない。
世界を守るために、そこに住む人達を守るために。そんな思いだってあったのだ、きっと。
そんな優しいアスランが恋人と呼ぶ男は、アスランから全てを奪った。
名前を、故郷を、過去を、全て捨てさせたのだ。自分の憎悪のために。

「あなたがアスランに全てを捨てさせた!アスラン・ザラは死んだ!
ちゃんと生きてるのに、あなたがアスランを殺した!アスランから全部全部奪って!連れてって!
そんなのアスランを愛してるわけじゃない!アスランの優しさを利用して、自分の傷を癒そうとしてるだけじゃないか!」

射殺さんばかりのキラに、くっくっくとクルーゼが笑い、アスランを抱きしめる腕を解く。
アスランはクルーゼを見上げ、自分も腕を解くが、その場は動かない。

「君達はそれは愛じゃない、それは恋じゃないというほどの何を知っている?
愛とは恋とはこうあるべきだという君達の理想は君達だけのものだ。私がアスランを愛しているそのことを否定される謂れなどないな」
それに、とアスランを見下ろし、その頬を指の背で撫でる。アスランが気持ち良さそうに目を細めた。
「君の言い方だとアスランは優しいから世界を滅ぼそうとする私を黙認したと取れるが?」
「違う!アスランがそんなことするはずない!あなたが、あなたがアスランを利用して・・・!」

アスランはクルーゼの生い立ち、その過程を聞かされて無関心でいられる人間ではない。
その優しさはクルーゼに付け入る隙を与える。そこからアスランを絡め取るなどクルーゼにはお手の物だろう。
たとえ性別を偽っていたという罪悪感があるのだとしても、自分の意志ひとつでキラ達から離れるはずがない。
世界を犠牲になんて言うはずがない。

フレイを殺され、アスランまで奪っていこうとする。
どこまでもどこまでもキラから大切なものを奪っていく男。それほどまでに憎まれているのだと分かる。
けれど、と思う。
フレイは守れなかった。アスランはまだ目の前にいる。守れる位置にいる。
もう二度と、大切なものを守れなかったと泣きたくない。


だから、これ以上あなたの思い通りにはさせない。


そう、言い放ったキラに言葉を返したのは。




「それは私を馬鹿にしていると思わないか?キラ」




「え?」
視線をクルーゼから落とすと、アスランがため息をついて髪を後ろに払っていた。
「言っただろう?恋をしたと。想うだけの恋のつもりだったのに、相手が近づいてきたから戸惑ったって」
「聞いた、けど。でもアスラン!それをこの人の利用されて・・・!」
「されてない。いくら私でも長い間一緒に暮らしてれば、本当に愛されてるか利用されているだけかくらい分かる」
でも、もう一度そう言おうとしたキラは、アスランから向けられた視線に怯む。
真剣な目で、キラともう一度呼ばれた。

「人は変わる。様々な要因によって、取り入れる情報によって変わる。いつまでも同じままではいられない。
そうだろう?」

お前だって変わった。それと同じことだよ、と言うアスランに、だからといって納得できるはずがない。
クルーゼが世界を滅ぼそうとしているのを知っていて黙っていた。その理由がクルーゼの苦しみを楽にしたいから。
アスランがそんなことを言うなんて考えたくないのだ。
クルーゼが、キラを憎み呪い続けたクルーゼを、アスランが認めたうえで愛しているなんて、信じたくないのだ。

「愛してないなら、いくら尊敬する隊長でも止めようと必死になったよ」

その苦しみを聞いても、その憎悪を見ても、それであなたが救われるんですか、と否定した。
恋は盲目。それでもいい。
それで側にいてくれるなら。微笑んで触れてくれるなら。穏やかに暮らせるほどに、その憎悪が薄まってくれるなら。

ふわっと微笑んだアスランに、キラは泣いてしまいたくなった。

アスランはキラ達ではなく、クルーゼを選んだ。
それが本当のことだと認めたくないのに、アスランは微笑みながらクルーゼの側にいる。
クルーゼの腕がまた伸びて、アスランを抱き寄せても抵抗一つなく、その体に腕を回した。
深い青の髪を梳く手に、気持ち良さそうに目を閉じて、目の前の胸に頬をすり寄せた。
認めたくないのに。

本当に、大切なものをどこまでも奪っていく男だ。

男への憎しみはいっそう深まり、そして失ったものの大きさに涙した。
だからラクスが頬を撫でて、頭を抱き寄せてくれたのに任せてその華奢な肩に顔を埋めた。

ラクスはいつも一番にキラの状態に気づいてくれる。そうしてぬくもりを与えてくれる。
それが癒しとなって、それが救いとなって。そうして安堵する。
ヤキン・ドゥーエの戦いの後、アスランと暮らしていたというクルーゼも、アスランといてそんな思いに駆られるのだろうか。
先程からしきりにアスランに触れるのは、不安だからだろうか。

不安?あの男が、何に。アスランがクルーゼから離れてこちらへと戻ること?まさか、ありえない。
アスランはきっぱりと言った。きれいにきれいに拒絶した。それなのに不安になるはずがない。
ならいつもああやって過ごしてるのだろうか。いつもいつもああやって触れ合って。
ああ、もう。そんなことどうでもいい。あの男はアスランを手に入れた。アスランを奪っていった。
そんな男のことなんてもう考えたくない。アスランに愛されてる男なんて。


知りたくもなかった。

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信じたくないから必死に否定して、そうして返して帰ってきてと叫んだのに、現実は思い通りにいかなかった話。
そして、どうしても話しながらいちゃつくクルアス。今までここまで無駄にいちゃついたカップル書いたことあったけか(悩)。

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