幸福なる世界のために




パスワードを入力する。最後の一桁を残して指を止め、目を伏せて深呼吸一つ。
そうして指に力を入れ、ぴ、と音がして、シュンッと目の前で音がする。
一瞬後、カツンと音をたて部屋へと入ると、アスランは呆然とした顔でこちらを見ている面々に微笑む。


「久しぶり、だな」


「アスラン!?」


キラが声を上げたのに、固まっていた面々が騒ぎ出す。
ざわざわとした中、キラがふらふらっと前に出る。
「ほ、んとうにアスランなの?だって君、見つからなくて。ジャスティスで自爆したって」
確かめようとアスランの元へと駆け寄ろうとしたキラは、けれどラクスに腕を取られて立ち止まる。
キラがラクスを振り向けば、険しい顔でラクスがアスランを見ていた。

「どうしてここにいらっしゃるのですか。わたくし達は今日、デュランダル議長との会談のため、ここにいるのです。
なのにどうしてアスラン、あなたがここにいらっしゃるのです」

その言葉にキラがはっとする。そしてアスランを見る。その縋るような目にアスランは苦笑する。

「議長は会わせたい方がいらっしゃるとおっしゃいました。その方を連れてくると出て行かれました。
プラントでわたくしの名を騙っていらっしゃる方を連れてこられるのかと思っておりました。
ですがおかしくはありませんか?何故議長が直々にその方を迎えに行かれるのでしょう。
そして議長がいらっしゃらない今、どうしてあなたが姿を見せられたのです。
あなたは再びザフトに戻っていらっしゃるのですか。議長の助けとなっていらっしゃるのですか」

ラクスの射るような視線に、斬りつける声にキラがますます不安そうな顔になる。
ラクスの言葉は、どんなものであれキラに影響を与えるらしい。ラクスが不信を口にすればキラも不安になるようだ。
前の大戦の頃は、ラクスがキラを慰めていた。逆もまたあったが、キラはラクスの言葉に癒されていた。
そしてラクスの言葉に力を貰っていた。
それはキラにとっていいことだと思っていたが、これはどうなのだろうか。
ラクスの言葉に考えるのではなく、その言葉がキラの中に浸透していくようで、キラはアスランに不信の目を向け始めた。
しばらく会わないうちに、厄介な関係になっているのだなとアスランは思うが、この場合の不信は間違いではない。

「どれから答えましょうか」
「全てです」
「ですから答えるには順序がいるでしょう?答えやすいように一つずつ提示願えますか?」
ねえ?と首を傾けると、背に流れていた髪がさらさらっと落ちた。
それにキラ達の視線が流れ、驚いたように目を瞠った。
「か、み」
キラの声に、ああと頷く。
「伸ばしたんだ。結構長くなっただろ?」
右手の甲に髪を掬って上げる。この方が女性らしく見えやすいんじゃないかと思ったのだ。
長年男として過ごしてきたため、女性らしくがどういうことなのかが分からなかった。
だからまずは見た目に女性的要素を加えたかった。髪が長いから女性的要素なのかと聞かれれば困るが。
アスランの母親の髪は短かったが、女性以外の何者にも見えなかった。要はアスラン自身の気分の問題だ。
で、次は?と聞けば、カガリがお前と口を開いた。
「死んでなかったなら、どうして連絡してこなかったんだ?」
「そ、そうだよ!僕達みんな心配して・・・!」
「だって報せたらあんなことした意味がないだろう?」
さらりと言う。
キラ達がえ?と眉を寄せた。
「どういう意味ですか、アスラン」
「そのままです。俺がジャスティスを自爆させた理由の一つ、AAに協力した理由の一つ。
だから俺はあなた達に会うつもりはありませんでした。ずっと会わずにいられると信じていました」

そうでなければどうしてあんなに穏やかに暮らしていられただろう。本来の性別に戻って恋人と静かに幸せに。
男と信じている相手に会うことなく。恋人を敵と認識している相手に会うことなく。
ただただ互いのことだけを見て、互いのことだけを思って。

「何言ってるの、アスラン。何で僕達に会うつもりがなかったの。それがどうして一緒に戦った理由になるの!?」
「そうだ!お前、私達と一緒に戦ったのは、あのままじゃだめだって思ったからだろ!?」
「それも一つの理由だな」
「何言って・・・!」
「お前達と一緒に戦った理由は一つじゃない。他にも理由がある。そういうことだ」
キラとカガリがちゃんと言えと言うのに、ラクスがもしかしてと呟いた。
「アスラン。あなたがわたくし達に協力してくださったのは、ご自分の死を偽装されるためですか」
なっ、と声が上がる。

ピンクの妖精と呼ばれたラクスは、ふわふわのお姫様だと思われがちだが、聡い。
キラとカガリのように感情が先に立つ性格ではない。手に入れた情報をまず考え、答えを導き出す。
その思考は多方向ではなく一方向に伸びがちではあるが、今回は見事に正解を言い当てた。

「さすがですね、ラクス。その通りです」
にっこりと笑って頷けば、ラクスが睨みつけてくる。
「では、その理由をお聞かせいただけますか」
「ええ、そのつもりです」
ご安心をと言えば、ふざけないでくださいと返される。
どうやらラクスの怒りに触れたらしい。当然だが。
キラとカガリは声を失って、ただアスランを見ている。その顔は泣き出しそうに歪んでいるのだから、ラクスの怒りはより深まる。

「そうですね、まずはこれから説明しましょうか」

アスランはコートのボタンを外し、暫し躊躇した後そのまま脱ぎ捨てる。
バサッと重い音がすると同時に、部屋中から息を呑む音が聞こえた。視線が痛いほどに集中する。
コートの下から現われたのはザフトの一般兵の制服。常に赤をまとっていたアスランに緑。
けれどそれに驚いたわけではなかった。

「ア、アスラン?ちょっと待って、それってその・・」
「女物じゃないか!!」
キラが恐る恐るアスランを指差すと、カガリが叫んだ。
言わないでよ!とキラが泣きそうな顔でカガリに言えば、カガリが何で怒るんだ!と返した。
そんな双子のやりとりの中、ラクスは驚いた目を今度は細める。
キラとカガリは女装なのかそうなのかと心の中で叫んでいるようだが、ラクスは気づいた。
「落ち着いて下さい、キラ、カガリさん」
「でもラクス!」
「アスランをよくご覧になってください」
「え?」
ラクスの静かな言葉に、双子が顔を見合わせ、アスランをもう一度見る。
深い青の髪が腰まで伸びていて、白い面は最後に会った時より大人びている。すらっとした体躯、長く伸びた足。
そこで双子はあれ?と首を傾げて、視線をもう一度上げた。そして。


「胸――――――!!!???」


叫んだ。

next

ようやくアスラン告白話です。
双子がギャグっぽい分、ラクスが冷静です。
というか、私の書くvsラクスは大体こんな感じな気がします。双子を守って戦いますみたいな(何だそれは)。
そして思ったより長くなってしまったので一旦切ります。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送