幸福なる世界のために




突然現われた死んだはずの友人は、驚くデュランダルを意にも返さず、どうやって知り得たのか、ディスティニープランに意を唱えてきた。
本人は、何年友人をしていると思っていると返してきたが納得いかない。ならばこちらもクルーゼの考えていることが分かって然るべきだ。
いや、それはともかくとして、クルーゼは再会の衝撃も覚めぬ内にこう言った。

『お前の計画が実行に移されれば、私は死を偽装してまで手に入れた恋人を失うことになるのだが?』

恋人。
友人たるデュランダルも、弟同然のレイも知らない存在。それがアスラン・ザラだという。
確かに彼はクルーゼのお気に入りだった。それが彼個人に対してにしろ、父親絡みであるにしろそれは確かだと知っていた。
だが、まさか恋人にするほどだとは思っていなかった。そもそもクルーゼに恋人という概念があったこと自体が信じられない。
けれどクルーゼは恋人だとはっきりと言ったし、恋人と引き離されるいつかを望まず、共に在るために死を偽装したのだと言う。
だからその計画は断念しろ。それでも進めるというのなら、どんな手を使ってでも断念させてみせよう。
そう言って口の端を上げたクルーゼは相変わらずだった。

「何年もの間、温めてきたものを簡単に言ってくれるな」

はあ、とため息をつく。
折れたのはデュランダルだ。クルーゼのことだ。おそらくはデュランダルの計画を断念させるための手は持っており、
頷かねばすぐにそれが作動するぐらいの準備はしているだろう。
相手はこちらの情報を知っており、こちらは知らなかった。その差は非常に大きい。
そうである以上、こちらは退くしかない。今はクルーゼの隙を窺って決行する日を待つことにしよう。
そんな日は永遠にこないだろうと思いながらも、形だけでもそう思わなければ諦められないほど計画に費やしてきた時間も思いも軽くはない。

「だが、恋人・・・か」

あのクルーゼが。己を呪い人類を呪い世界を呪い最高のコーディネーターを呪い、そうして生きて死ぬ。
それこそが己の人生とまで思いつめていた友人が、いまや人生の春とも言わんばかりの様子だ。
目に見えて浮かれているわけではないが、やはり受ける印象が以前より多少明るい。
それを喜ばしいと感じる限り、もう計画は実行には移せないだろうが、これも心の奥に押し込んだ。

「あと、そうだな。二三年ほど経てば祝福しよう」

それまでは、いつ足元を掬おうかと狙うふりをさせてほしい。
そう思って、笑った。


* * *


戸惑った。
死んだと思っていた男が生きていた。生きてレイの名を呼んで、レイの頭を撫でた。
驚いて声も出さずに泣き出したレイを抱きしめた体は、とても温かかった。

生きている。

そう実感して、縋りついて泣いた。

それからがまた驚きだった。
男、ラウはギルバートの計画を知っており、それを断念しろと迫った。
全ては恋人との未来のために。

どうしたらいいだろうと思った。
ギルバートの助けになりたい。残り少ない命をギルバートの望みのために使いたい。
けれどラウの幸せを奪いたいわけではない。幸せになって欲しい。
ラウの命こそレイより残り少ないけれど、それでも生きるために幸せになるためにと願うラウの望みを叶えてあげたい。
どちらも大切な人だから。だからどちらの望みも叶えたくて、どちらの望みも断ち切りたくなくて。

そうしてギルバートが頷いた。

『レイ、素直に喜んでもいいんだよ』
ギルバートが言った。
『私は今は素直に喜んであげる気にはならないからね。君だけは喜んであげなさい。君はクルーゼの大切な弟なのだから』
君も嬉しいのだろう?私のことは気にしなくていい。
そう言うギルバートが、本当はラウの幸せを喜びたいのだと分かったから。
だからラウの服を握って、ギルバートの分の祝福も一緒に乗せて笑った。


『おめでとうございます、ラウ』


ラウが嬉しそうに微笑んだ。


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隊長はレイに対してだけは物腰柔らかだと思ってます。
ところで隊長の寿命のことをすっかり忘れてたことに、この話で思い出しました。
老化はなかったことにしようとあえて見ない振りしてたんですが、寿命・・・、どうしよう(汗)。

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