幸福なる世界のために




ユニウス・セブンが落とされた。
アスランの母親の眠るプラントが、アスランの父親の名の元に集った者達によって。
ようやく手に入れた穏やかな生活の上に落とされた。

「父上、母上」

事実を知ったアスランが、己の罪であるかのように嘆いた。
そして落ち着くと、今度は違うと呟いた。

「父上は決してあんなことは許されない。母上の眠るプラントを武器になどなさらない!」

そう思いたいだけなのかもしれない。事実そうなのかもしれない。
けれどアスランは立ち直った。連合のプラントへの対応に、核攻撃に拳を握りながら、けれど何も言わずに日常を過ごした。




オーブ代表が攫われ、AAが連合とザフトの戦闘に度々介入するようになるまでは。









ディアッカは目の前の美女を不躾に見る。
長く伸びた髪をポニーテールにし、暇そうにその尻尾を指でくるくると巻いてはほどいてを繰り返している美女。
服装は男性のものなのであるし、男だと主張されれば納得できはする容貌だ。
事実ディアッカは男だと思っていた。アカデミーで出会ってからずっと。

「なあ、アスラン。それラスティも知ってたりするわけ?」
「うん?何がだ?ディアッカ」
美女、アスランが首を傾げたのにあわせて、尻尾が揺れる。
「ラスティってアカデミーからずっとお前と同室だったじゃん。だからもしかして知ってたのかなってさ。
お前が女だったって」
それにああ、とアスランが頷く。
「知ってたよ。さすがに男と同室になるのはまずいだろ?ばれるかもしれないし。父上もそれは大層気にしてらして」

いや、そればれることより他の心配したんじゃねえ?とディアッカは思う。
確かにばれるのは問題だ。プラント中が男だと思っていた相手が実は女でした。スキャンダルだ。
しかし、それ以前にどうして自分の貞操の心配をしないのだろうか。
男と同室。まずは自分が女だとばれた時の身の危険を感じなくてどうする。お前の父親はきっとそれに気づいてたはずだぞ。
と半ば呆れたふうにディアッカはそれで?と促す。

「ラスティもアカデミーに入ることを知って、マクスウェル議員にだけは事情を説明して俺のことを頼まれたんだ。
アカデミーの方は父上が何とかラスティと同室にって話をしてくれて」

ああ、マクスウェル議員なら安心だもんな。あの人、お前の父親の心棒者だし。
秘密は絶対守るだろうし、お役に立てるなんてとか言って狂喜してそうだし。
と、そんなことを思うディアッカに気づきもせず、アスランはラスティには面倒かけたけど、と笑う。
それに、よくこいつ女って分かってて手出したりしなかったよなあいつ、と思う。

当時のアスランは可愛かった。男だと思っていたけれど、外見だけは可愛いと思っていた。
男なのがもったいない。女ならあの性格も幾分目を瞑れるのに、と。
悪感情を抱いていたディアッカでさえそう思っていたのだ。初めからアスランが女だと知っていたラスティが、
貞操に対する危機感の薄い無防備な美少女と同室でいながら手を出さなかったことに驚く。
そもそもラスティの目にも態度にもアスランに対する情欲だの恋情だのを見た覚えがない。
普通に仲のいい男友達にするような態度だった。多分本当に友達以上に思っていなかったのだろう。
ある意味凄いと感心する。
まあ、そのおかげでクルーゼはまっさらな恋人を手に入れられたわけだが。

「いや、でも隊長そんなこと気にしなさそうだよな」
「は?」
「いやいや何でもない気にすんなって」

クルーゼ。そうクルーゼだ。アスランが実は女だったという衝撃の事実に加えて、クルーゼと恋人同士だという事実。
そして二年前の二人の死は、二人が駆け落ちするための偽装だったという事実。
知った時はもう頭がパンク状態で現実逃避をしたものだ。
イザークは怒鳴りたくて、でも相手が尊敬する隊長だから何も言えずに口をぱくぱくさせていた。
あれほど驚いたのは初めてで、この先きっとないだろうなと思う。

「ところでさ、アスラン」
「何だ?」
「ずっと気になってることがあるんだけど」
ああ、と不思議そうな顔をするアスランに近づく。




「お前、胸ない?」




「・・・・・は?」
「胸なくないか?」
無造作に手を伸ばして、ぺたっとアスランの胸を触ったディアッカは、瞬間脇腹に蹴りを入れられ吹っ飛んだ。
よける間もなかった。さすが首席、さすがエース、と床にうずくまるディアッカをアスランは冷たく見下ろす。
「プロテクタつけてるんだから当然だろう」
「さいですか・・・」
痛い。思いっきり蹴った、こいつ。何かじわじわ痛みが・・・。
自業自得だ。呻き始めたディアッカに、アスランはやりすぎたとも思わない。
アスランはディアッカを無視することにしたらしく、ふいっと視線を外した。
その時、シュンッとドアが開く音がした。視線を向けるとイザークとクルーゼが入ってきたところだった。
二人は室内の様子に動きを止めると、クルーゼは興味深そうにアスランとディアッカを眺め、
イザークは顔をしかめてディアッカに近づいて蹴った。

「うをっ」
「何を遊んでいる、ディアッカ!」
「お、おま、そこアスランにやられたとこ・・・!」
「ああ?」
悶え苦しむディアッカと、だからどうしたと言わんばかりのイザークを横目に、アスランがクルーゼの元へと歩み寄る。
「どうなりましたか?」
「ああ。同盟は無事締結された」
「そうですか」
ホッとしたアスランに、クルーゼが手を伸ばし結い上げられた髪をほどく。バサッと背に落ちたそれを指で梳くと、満足そうに頷く。
「そうだな、どうせばらすのだ。その方が手っ取り早い」
「は?」
ラウ?と首を傾げたアスランと答えないクルーゼ。
その二人を見るともなしに見ていたイザークとディアッカは、どこか居心地が悪い。

「慣れねえ・・・」
「今ばかりは同感だ」

元上司と元同僚だ。その二人が恋人であると分かってはいるが、慣れないものは慣れない。
そんなことは知らないとばかりに寄り添う二人から、イザークとディアッカは目を逸らした。

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実は密かにイザディアにちょっと雇ってくれないかとお願いして、裏で暗躍してました。
そこらへん入れたら終わりそうになかったので略(え)。

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