幸福なる世界のために




クルーゼはフリーダムに撃たれ、アスランはジェネシスを止めるために核動力のジャスティスを自爆させた。
かつての上司と部下であり密かに恋人でもあった二人が敵対し、互いの知らぬところで命を絶った。
二人の関係を知る者がいたとしたら一体何と言ったろう。悲恋と呼ぶ者もいるのかもしれない。
しかし二人にとってそれは悲恋などではなかった。敵対することもその死すらも、二人にとっては辛くも悲しくもないことだったのだから。
それらは全て必然。
二人が予定した通りの、起こるべくして起こった必然だったのだから。









ソファの上、押し倒され口づけられる女は、長く伸びた髪からリボンが落ちるのを見た。
拾わないと、と思うのだが、恋人たる男が男の膝の上に乗った足を撫でたのに体が跳ねる。
長いスカートをくぐり足に触れる男に、さすがに昼間からはいやだと抵抗するが、聞き入れられる様子はない。
逆にその抵抗を楽しんでいるようだ。

どうしてこの人はこんなに性格悪いんだ!!

その性格の悪い男と二人して、共に在るために己の死を偽装した女は心で叫ぶ。
それが聞こえていたわけでもあるまいに、男が深く口づけていた唇を離し笑った。

「君は全てを捨てて私を選んだのだろう?アスラン。性格の悪い男だと知りながらな」
「〜〜〜っ!仕方ないじゃないですか。あなたが好きなんです、ラウ」

ヤキン・ドゥーエで戦死したはずの名を呼び合う彼らは、死したはずのラウ・ル・クルーゼとアスラン・ザラだ。
アスランの特務隊転属。そうして離れるのならば、と彼らはこれを機に共に在るために策を練ろうと考えた。
元々大まかな策はあった。それに肉付けをし、そうして実行した。
別に敵対する必要はなかっただろうが、アスランほどの技量を持つ者を、目に見えて殺せる者はそういない。
尚且つ本当に殺してはいけないし、殺されてもいけないのだ。ならばいっそと。
始めは相打ちの予定だったが、情勢が変わるにつれアスランは自爆、クルーゼは不殺を貫くというキラにとなったのだ。
まあ、アスランには父パトリック、クルーゼにはキラにこだわりがあり、それ故の予定変更でもあったのだが。

「でも、うまくいってよかった」
ぽつりと呟いたアスランに、クルーゼがそうかと返す。
「私は失敗する気などなかったからな。予定通りだ」
「あなたという人は・・・」
ため息をつくアスランに、クルーゼが笑って再び口づけた。

二年。静かで平和な時だった。
アスランは本来の性別に戻り、クルーゼと地球で暮らしながら、その年月が長いような短いような心地にとらわれていた。
まだ二年。もう二年。
これから先もそう感じながら年を重ねていくのだろう。
そう思った時だ。突然警報が鳴り響いた。
二人は素早く起き上がり、警報と共に流される避難勧告に眉をひそめた。
「・・・ラウ」
「とりあえず避難だ」
「はい」
二人は騒がしくなった外へ向かって、平和な時の短さに悪態をついた。




「ああ、あなた!無事だったのね」
潜った先でかけられた声にアスランが振り向くと、隣の家の住人である女性が駆け寄ってきた。
「あなた一人?旦那様は?お仕事?」
「いえ、今日は休みで一緒に。今は外の様子を」
そう、と女性が息をつく。
二年前に移住してきた二人を気にかけてくれている女性だ。その女性の無事にアスランも安堵した。
「それにしても突然なにかしらね。避難、だなんて」
女性と女性の子供達の側まで歩くと、子供達は不安そうに両側から女性にしがみついた。
アスランは子供達を宥めながら腰を下ろした女性に促され、その隣に腰かけると頷く。
「そうですね。避難するようにとばかりで、肝心のことは分かりませんし」
そう言いながらも、本当は知っていた。
アスランもクルーゼも元々は優秀な軍人だ。混乱して逃げ惑う人々の中、二人は逆に冷静に情報を拾った。
しかしそれを言えば恐慌状態に導く恐れがある。ただでさえ不安なのだ。拾った情報は不安を煽るには十分だ。
けれど、とも思う。この後くるだろう衝撃の正体を知っているのと知らないのとはどちらがマシだろうかと。
知っている方がいいのかもしれない、でも。そう迷っていると、女性が一人駆け込んできた。
そして辺りを見回し、一人の男性に抱きついた。相手は恋人らしく、男性がよかったと抱きしめ女性が泣いている。
そして女性は叫んだ。


「ユニウス・セブンが落ちてくるって!!」


しんっとシェルター内が沈黙に包まれた。

「ニュースで、早く避難しろって。ザフトが、ザフトが今砕いてるけど、危ないから避難しろって。
ねえ、何で?落ちるって何で?あそこにはお父さんが・・・!なのに地球に落ちてくるって!」

シェルター内が一気に混乱状態に陥った。
何でどうして家がそんな、とバラバラに聞こえる声の中、ドンッと衝撃が走った。
再び訪れる沈黙。そして続けて衝撃が音と共にやってくるのに、人々は悲鳴を上げて座り込む。

落ちてきた。
砕ききれなかった欠片が。燃え尽きることのなかった破片が。

「大丈夫よ。がんばりましょう、大丈夫」
隣家の女性が子供達を腕に抱いてそう囁いた。子供達もつられたように大丈夫と繰り返した。
それを耳に、アスランはクルーゼの気配を感じて顔を向けた。
クルーゼは黙ってアスランを抱き寄せた。それにホッとして抱き返す。

ユニウス・セブン、母の眠る墓標が落ちている。そのことに暗い気持ちになる。
もう母の遺体は燃え尽きてしまったのだろうか。燃えて地球と一つになって。
地球はきれいなのだと、一度家族みんなで見に行きましょうと言った母は今頃は。

ドンドンドンッと音が響く。
ぎゅっとクルーゼの背に回した腕に力を入れる。

こうして通り過ぎるのを待つのは初めてだ。いつも自分は戦場に立ち、駆けていた。
全てが終わるまで何もせずにじっと待つのは初めてだ。それは戦場で感じる恐怖とはまた違った恐怖を与えてくる。
何も出来ない。ただこうして過ぎ去るのを待つしかない。だから呟いた。大丈夫大丈夫と。
それをただただ繰り返すと、クルーゼが当然だと自信に満ちた頷きを返してくれた。
それだけで恐怖が遠ざかるのを感じて、アスランははいと目を閉じた。

next

クルアスは夫婦ではありません。男女二人が一つ屋根の下で暮らしてる上、男は結婚してても可笑しくない年です。
そのせいで周りが勝手に夫婦だと思って、二人も二人でさして変わるまいと訂正してません。
ので、周りの認識では夫婦です。 そして実は偽名使ってるんですが、隊長の名前を考えるのが面倒だったので(おい)
途中までお隣さんにはアスランを奥さんと呼ばせてました(笑)。旦那様はその時の名残です。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送