開幕




「あら、アスランくん。もう大丈夫なの?」
マリューが心配そうに言うと、アスランが小さく微笑んではい、と頷いた。
「ご迷惑をおかけしました」
首を振っていいのよ、と言うマリューと一緒にいたバルトフェルドが、じっとアスランを見ているのにアスランが首を傾げる。
「何か?」
「いや。さっきの取り乱しようとは別人のように穏やかな顔をしているな、と思っただけさ」
にっと笑うのに反してその目は厳しい。
それに気づいていないのか、それとも気づかない振りなのか、アスランがうつむいて、申し訳ありませんと謝ると、
マリューがバルトフェルドを睨みつけた。
「バルトフェルド隊長!もう、アスランくんは気にしなくていいのよ。あんなことがあったんですもの。 仕方ないわ」
ね?と微笑み、アスランの顔を覗き込むと笑みを返してくれたが、その様子にバルトフェルドが肩をすくめた。
「だがねえ、ラクスは気にしてただろ?」
「そうね。だからアスランくん、会いに行ってあげてくれるかしら」
アスランはそのつもりですと返して、失礼しますと二人に一礼して通り過ぎて行った。
そして角を曲がり、その姿が見えなくなったところでバルトフェルドが呟いた。

「要注意だな」

「え?」
何かおっしゃいました?とマリューがバルトフェルドを見上げると、バルトフェルドはマリューに視線を移す。
「アスラン・ザラだよ。彼は要注意だ」
マリューが目を見開く。
一体何を言っているのか、とバルトフェルドを睨みつけるが、バルトフェルドは真剣そのものだ。

「ラクスへの言葉を聞いただろう?彼はラクスを害なす者だよ」

マリューは何てことを言うんですか、と怒りながらも声に動揺が走っていた。
そんなはずはない。そう思いながらも、アスランの言葉でラクスが傷ついたのは確かだ。
ラクスを傷つける者はここにはいない。ここは希望に溢れ、笑顔に溢れ、そしてやり遂げねばという強さに溢れている。
その中でアスランだけがラクスを傷つけた。それは事実なのだ。

「あの時の彼が本当に混乱していたと思うかい?あれほどしっかりとラクスを見て、しっかりと話したんだ。
あれは正気だった。君はそう思わないかい?」
「そ、れは・・。ですが、アスランくんは・・・!」
「彼はザフトに戻り、AAに銃を向けたろう?キラ達との話し合いでさえ彼は納得しなかったというし。
キラにもラクスにも近い彼だ。我々の行動の意味が分からなかったはずがない。それでも彼はこちらに背を向けた」
けれどマリューは首を振る。
バルトフェルドの言っていることは間違っていない。けれどアスランという個人を知るからこそ、
そしてキラ達がどれだけアスランを大切に思っているかを知っているからこそ反論する。
「それでも!今ここにいるじゃないですか。彼は今、私達と志を同じくして・・」
「本当に同じだと思うかい?」
「え?」
「彼はおそらく我々と同じではない。下手をすれば再びこちらを離れる可能性すらある」
マリューが息を呑む。
「ラクスを守るためにも、彼には注意しておく必要がある。そう思うよ」


もういいんじゃないだろうか。
もう無理をしてここにいる必要はないんじゃないだろうか。
そう囁く声に耳を傾けてしまいそうだ。

ふらふらと通路を歩きながら自分の中に入り込んでいた時に会ったせいで、それを悟られないよう気を張った。
だからマリュー達と別れてすぐ壁に背を預け目を閉じ息を吐いて、そうして一心地ついたら移動しようと思っていた。

要注意。
害なす者。

そんな言葉が聞こえてきたのはそんな時だ。

本当に伝わらない。
ここまで伝わらないというのは、やはり自分の言葉のせいなのだろうか。
本当にどういえばよかったのだろう。

確かに責めたのだろうと言われれば、完全に否定することはできない。
そんな心が微塵もなかったわけではないのだろうとすら思う。
だが。

「それが害なすことになるのか」

彼女は自分の言動に責任をもつべき立場にいるのだ。
この陣営の旗印でもあり、プラントに影響力を持つ彼女の言動は、その一つ一つが彼女の責任となる。
心安いものばかりならば構わないのかもしれないが、そうではない。
不特定多数。
それを自覚するべきではないのか。良い方向に動くことばかりではないのだと知るべきではないのか。

それを知ってほしいと願って告げた言葉が、ラクスを傷つけたと。それゆえに注意が必要な人物だとレッテルを貼られた。
いいや、それより前か。
ザフトに戻ったから。AAに銃を向けたから。キラ達との話し合いが平行線で終わったから。

「守りたかった。分かってほしかった。キラ達と同じように、俺もそう思ってたんだ」

それが疑う種となったというのなら、本当に。

「どうしろっていうんだ」

キラ達の言葉に何でも肯定を返して、微笑んで。そうしていればいいというのだろうか。
本心を隠して、疑いも何もかも持ってはいませんと。

「・・・っ!」

もういいだろう?
もうこれ以上無理をする必要なんてないだろう?
それが彼らの望みなのだとしたら、お前はそれに添うように偽りをまとうのか?

声が聞こえる。先程よりよほど強く、強く。その分だけ心が傾く。

大切な人達の側にいて、なのにこれほど辛い思いをするのならいっそ。

そんな言葉に今はまだ頭を振った。


開幕3

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