重ねた手




フレイはクルーゼの墓の前にしゃがみこんで、キラと再会した時のことを考える。
あまりに突然の再会。
もう会わないと決めていたけれど、会ってしまうと心が揺れた。

会いたかったわ。
会いたくなかった。
嬉しい。
怖い。
好きよ。
いや。

そんな思いが胸の内を渦巻いて、アスランが手を握ってくれなければ崩れ落ちていただろう。
泣いたかもしれない。何かを喚いたかもしれない。

何も捨てたくはなかったから会わないと決めたのに。
キラのこともクルーゼのことも、何も捨てたくなかった。
キラに会えばどちらかを捨てなければならないのだと、知っていたから。

「キラは、知らないもの。私の中にあなたがいること。あなたのお墓、作ったこと」

知ったらどうするだろうか。怒るだろうか、泣くだろうか。きっと何でと聞くだろう。
フレイにとってクルーゼが大切な存在であると、理解できないだろう。
キラにとってのクルーゼは、決していい感情を抱ける相手ではないから。

「言えばいいのかしら。・・・だめね。それじゃ自分で決めたことにならないわ。
キラの態度で決めようなんて、逃げてるだけだわ」

自分で決めて、自分で言わなくてはいけない。キラとクルーゼ。どちらを選ぶのか。

『僕のこと、恨んでるんだって分かってたのに、見ない振りしてたんだ。
君が僕のことを好きになる理由なんてなかったのに、僕は君に縋ったんだ』

アスランとラクスが席を外して、キラと二人になって、そうして聞いた言葉に頭を振った。

『キラのこと、嫌いじゃないわ。もう憎んでない。色々知ったもの。色々考えたもの。
私、もう誰も・・・憎んでないのよ、キラ』

そう、なんだ、とキラが目を丸くして、嬉しそうに微笑んだ。
ごめんね、ありがとう。そう言って。
それを思い出したフレイは、目を閉じて胸の上で手を握る。

あの時、どくんと心臓が鳴った。
ああ、私はキラが好きなんだと思った。
けれど同時に浮かんだのはクルーゼの口元を上げた笑みと、アスランの穏やかな笑み。
その誰もが大切で、その誰もが好きだ。もう何も失いたくない。
けれど選択は一つだ。

キラを選んでクルーゼを捨てる。
フレイの名を呼んで大丈夫だと囁いた声。側にいると抱きしめてくれた腕。ぬくもり。
それを全部捨てなければいけない。

そしてアスランと共有していたクルーゼとの思いも絶たれる。
次に会う時はキラの恋人。アスランと築いた絆は消えないだろうが、関係はより遠くなる。
わがままを聞いてもらうことも、抱きしめてもらうこともなくなる。
微笑む姿も呆れる姿も怒る姿も、全部全部キラの恋人というフィルターの上からしか与えられなくなる。
そして、フレイからアスランへと与えることもできなくなる。
ずっと、そうしてきたのに。

クルーゼを選んでキラを捨てる。
悩んで苦しんで泣いて。そうやって必死で生きていたキラ。
誰より近くでそれを見ていた。誰も気づかないキラの苦しみに、フレイだけが気づいた。
それを慰めているうちに、それにつけ込んで利用しようと抱きしめているうちに、好きになった。
あれほど強い想いを抱いたことはなかった。それを捨てる。

クルーゼを選んでも、キラへの想いを捨てる必要はないだろう。
けれど、キラがフレイに向けた目は熱い想いだった。

もう一度、今度は違う形からやり直せないかな、とキラは言った。
今度こそ守るから。今度こそ君を好きだって気持ちだけで、君を抱きしめたいんだ。そう言った。

それに応えられないのなら、キラへの想いを捨てるべきだ。想いを抱いたままではキラに知れる。
キラに知れればキラはどうしてだと思うだろう。諦められないだろう。
だから。

「ああ、もう!」

フレイは両手を墓の上に置くと、キッと墓を睨みつけた。

「そうよ。大切なのよ、全部全部大切なのよ!悪い!?キラもあなたもアスランもぜ〜んぶ!」

でも分かっている。ちゃんと分かっている。

「選ぶわよ、ちゃんと!決めるわよ、自分で!」

だから。




「もう一度、名前呼んでよ」




そうしたら、決められるから。

泣き出しそうな顔を墓へと預けた。









目を閉じたその時、風に紛れて声が聞こえた気がした。

聞こえるはずもないと、分かっていたのに。


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フレイにとってクルーゼは保護者です。
フレイと一言呼んでもらったら背を押してもらった気分になれるのです。
そして書いてて私までフレイと一緒にごちゃごちゃになりかけました(笑)。

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