キラと再会して二週間が経った頃だった。アスランを通してキラから会いたいと連絡がきた。
アスランを見ればどうする?と感情の読めない笑みで首を傾げたから。


会うわ。


そう、答えた。




重ねた手




フレイはキラと二人、優しい風が吹く丘の上に立っていた。都市部からもフレイの家からも離れた丘。
連れてきてくれたアスランには先に帰ってもらったから、本当にキラと二人っきりだ。
そこで久しぶりと微笑みあって、そうして二人黙ったままどれほどたったろうか。
風になびく髪を押さえながら空を見上げるフレイを、キラがもの言いたげに見ている。
キラは拳を握っていた手を握りなおし、口を開く。
「フレイ」
その声を合図にしたように、フレイがキラを振り向くと、微笑んだ。

「私、キラが好きだったわ」

穏やかな声に乗せられた言葉に、キラが目を見開く。
「気づいたのはあんたから別れを突きつけられた後だったけど」
苦笑したようにつけ加えたフレイに、キラが泣き出しそうな顔で微笑む。
「過去形?」
「ええ、過去形」
そっか、とキラが目を伏せる。
何となく分かっていた。再会した時から。フレイが縋るように手を伸ばした相手を見た時から。

「アスラン?」
「アスランよ」

フレイが今好きなのはアスラン。分かっていても、フレイから聞かされるのは辛い。
ずっとずっと憧れていた少女。好きになった少女。いつまでも心に住み続けた少女。
その少女はキラの幼馴染を好きだと言う。アスランの人となりを知っているから、反対もできない。
今更に思う。キラと抱き合うラクスを、アスランはどんな気持ちで見ていたのだろう、と。

「君とアスランを繋ぐものは何?僕では繋げないもの?」

けれど諦めたくない。

純粋な想いから始まったわけじゃないフレイとの関係は、終わりを迎えるその時までずっと歪んでいた。
気づかないふりをして、愛する少女を抱いているのだと、フレイに愛されているのだと思い込ませて。
友達は皆離れていったけれど、フレイは側にいた。側にいてキラの名を呼んで、抱きしめてくれた。
それだけがあればいいと思った。
フレイに口づけて、その体を抱いて。その間は何も考えずにすんだ。苦しいことも辛いことも。そして先のことも。
それがキラにもフレイにもよくない状態なのだと気づいたのは、カガリに会ってからだ。
カガリと話していると閉じた自分の思考が開かれるのが分かった。
フレイとキラだけで構成された世界が、無理やりこじ開けられていく。それが嫌ではなかった。
徐々に差し込まれていく光。それを温かいと思って。
そうしたら暗闇の中、フレイと二人うずくまっている状態に癒しなど救いなど一片もないのだと気づいた。
このままではキラもフレイも苦しいだけだ。二人、拘束し合って、辛い苦しい助けてと叫んでいる。
だから、別れを口にした。

それを間違ったとは思っていない。
けれどキラはフレイの返事を聞かなかった。キラを責めて罵ったフレイが落ち着くのを待たなかった。
落ち着いて考える暇を与えずに、フレイの前から去った。
フレイが話があると呼び止めた時、出撃準備があったから聞くことができなかったけれど、本当は聞きたくなかった。
もう終わったのだと。もうフレイとの関係は終わったのだから、その話を再びしたくなかった。

最後まで独りよがりの自己満足だった。

どれだけ不安だったろう。あの時のフレイは独りだった。
サイの婚約者だったフレイは、キラと寝てからずっとキラの側にいた。一人孤立していくキラとずっと。
それはフレイも孤立していったということだ。なのにキラは一人抜け出した。
カガリという光に手を伸ばして、フレイを一人置いていった。そんなことにも気づかなかった。

フレイを目の前で失った時、受けた衝撃の深さに驚いた。こんなにも好きだったのかと。そして後悔した。
もっとちゃんと話せばよかった。ちゃんとフレイの話を聞けばよかった。あの時、フレイは何を言おうとしていたんだろう。
後悔してもどうにもならない事態になってから、そんなことを繰り返し繰り返し思って。
最後に見たフレイの頼りない顔が目に焼きついて離れなかった。

償いたいわけではない。ただ、今度こそ守りたい。
守れなかったフレイ。今度こそ守りたい。自分の手で。自分の意志で。
けれどフレイは首を横に振った。

「無理よ、キラ」

優しい口調に反して、その言葉はキラに突き刺さる。
「キラと私の間にあったのが、私とキラにしか意味がなかったのと同じよ。
私とアスランの間にあるものは、私とアスランにしか意味がないわ」
「それは、何?」
震える声で聞くと、フレイはどこか泣き出しそうな顔で微笑んだ。




「ごめんなさい、キラ」




教えることを、拒んだ。









* * *


「アースーラーン」

本を読んでいたアスランは、後ろから首に腕を回して抱きついてきたフレイの頭を撫でる。
帰ってきたことに気づいていたけれど、思ったよりも早かったなと思う。
フレイはアスランに一通り懐くと、あのねと言った。

「ちょーーーーーっと揺れたわ」
「ああ」
「傾いてたら、祝福したでしょう」
「ああ」

アスランが本を閉じ、顔を上げてフレイを見る。

「幸せに、と願うよ」
「酷い男」
本心からの言葉にフレイがからかうような声で、けれど面白くなさそうな目をアスランに向ける。
「フレイはキラと幸せになって、俺は隊長の墓守をしながら、時々思い出す。ここにいた君を」
フレイはぎゅっとアスランを抱く腕に力を込め、離す。
そしてクルーゼの墓が見える裏口の窓の前に立ち、窓を開ける。
優しい風が部屋の中へと入ってくる。それを感じながら、フレイはくるっとアスランへと向き直る。

「友人じゃない、恋人じゃない。同志だって思ってるわ」
「ああ」
「でもね?アスラン」

フレイが笑う。




「そこからだって恋はできるのよ」




アスランが目を見開く。
フレイは微笑んだまま、いい風ねと墓を肩越しに振り返る。
そして流れる沈黙。

クルーゼの墓の前で考えた。頭がごちゃごちゃになるほど考えた。
自分で考えなければと思って、なのに結局クルーゼを頼って。
あの声で名を呼んでくれたらきっと決められる、なんて根拠のないことを思って。
聞こえるとは思っていなかった。クルーゼはもういないのだから。
けれど聞こえたのだ。
空耳かもしれない。それでもよかった。フレイに聞こえたというその事実が大切だった。

『フレイ』

そう呼ばれた気がした瞬間、顔を上げて。そうして見えた気がした、クルーゼの姿が。
それが指差した方向に顔を向けて、そこに見えたものに泣きたくなった。

見覚えのある車が一台、止まっている。

いつきたのだろう。気づかなかった。仕事があったはずなのに、無理してきてくれたのだろう。
そして家の中にフレイがいなければ、ここにいるだろうと分かってるのにこない。
フレイが戻ってくるまで待っているつもりなのだろう。その心遣いが嬉しかった。

心が軽くなった気がして立ち上がって、もう見えないクルーゼの姿に決めたわと笑った。
混乱するほど悩んだのが嘘のように、頭はすっきりしていた。

その時、それが何故なのか分かってはいなかったけれど、答えは出た。
家に戻ってアスランが振り向いてフレイ、と微笑んだ時に気づいた。




これからもずっと一緒にいたい、と。




優しい風を受けながら、フレイは目を伏せる。
いまだ沈黙は流れている。それが本当は長いのか短いのかは分からない。
その時間を計るものなどいないが、フレイの感覚でいえば長い。
そんなことを思えば、ふっと影が差したのに気づく。
振り返ると、いつの間にか目の前にアスランが立っていた。

「俺は君とキラを祝福するよ。キラとラクスを祝福したように」
「ええ」
「共にいた頃も思い出す」
「ええ」
「だが、辛いな。きっと」

え、とフレイは目を見開いてアスランを見上げた。
アスランは小さく笑った。

「ラクスの幸せは祈れた。時が経てばそれだけ強く」

アスランの手が伸び、フレイの髪を一房すくった。

「幸せにと願い、幸せにと祈った」

でも、と腰をかがめ、すくった髪に口づけ上目遣いでフレイを見る。

「君には、幸せにしたかったと呟くよ」

幸せに幸せに幸せに。どうか幸せになってほしいと願う。
どうか幸せになりますようにと祈る。けれど、叶うならば俺が幸せにしたかったと続けるのだ。


フレイが瞬きをし、そしてくすりと笑う。

「その心は?」

アスランが覗き込むように顔を近づけ微笑むと、吐息のみで囁く。







「愛してる、フレイ」







「好きよ。愛してるわ、アスラン」

囁きを返したその唇が、互いの息を呑み込む。
そして唇が離れ、緑と灰の目が開かれると、どちらともなくくすっと笑みを洩らす。

「意外と手、早いわね」

その言葉がまた、唇を塞ぐ合図となった。

end

「キラはフレイを選ぶけどフレイはアスランを選んで結局アスフレ」でした。
実はアスランって手、早いと思ってます(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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