「フレイ!」

恐れていた時がきたのだと、ラクスは顔を歪めた。
同じ様に顔を歪めたアスランは、隣の少女が震えたのを見た。

「キ・・・ラ」

強く強く抱きしめられた少女は、喜びとも絶望ともいえる何とも不思議な顔で空を見上げた。




重ねた手




ラクスがうつむいたまま、膝に添えた両手を震わせている。
正面に座っているアスランは声をかけることもできず、窓の外を眺める。

キラがフレイを見つけた。偶然ではあるが同じオーブに住んでいるのだ。元々可能性はあった。
キラはフレイの生存を喜び、共にいたラクスのことも、フレイといたアスランのことも見えていなかった。
それほどにフレイの存在はキラの中で大きいのだと、分かっていたつもりで分かっていなかったのだと知った。

「わたくしは、キラを信じていますと・・・申し上げました」
「ええ」

店に入ってからずっと黙っていたラクスが、呟くように言うのに相槌を打つ。
ラクスがフレイの生存を知った時も、フレイの隣にはアスランがいた。
その時、何故フレイのことを黙っていたのかと憤るラクスに、キラに知らせるかと問うた。
キラに知らせて、そうしてキラがラクスの元へと帰ってくると思うのかと。
それに対するラクスの返事が、キラを信じているだった。

「ですがわたくしはフレイさんが生きていらっしゃることを、キラに伝えませんでした」
「ええ」

きっとそうするだろうと思っていた。ラクスは本当にキラが好きだと知っていたから。
そしてそんな多くを聞いていないアスラン以上に、ラクスはキラのフレイへの思いを聞いて知っていただろうから。
だからそう言えばラクスはキラに言えなくなるだろうと、分かっていて言った。
卑怯な手を使ったと分かっていたけれど。

「こわ、かったのです。選ばれないことが。キラがフレイさんを選ぶその時が。
キラを失いたくなかった。わたくしの想いは、フレイさんの存在には敵わないのだと、思い知らされたく、なかったのです」

ラクスが両手で顔を覆うのに、アスランが窓からラクスへと顔を向ける。
ラクスはそのまま言葉を紡ぐ。思うまま、流れるように。

キラに元気になってほしい。
フレイを守れなかったと嘆き、自分を責めるキラ。
それが痛くて、フレイが生きていると知った時、迷わず会わせてあげたいと思った。そこに嘘はなかった。
けれど、自分を見てくれなくなるかもしれないその恐怖はもっと強かった。

涙まじりにそう告げるラクスに、アスランは慰めの言葉を持たない。
どう言えばいいのか分からない。そして何を言っても慰めにはならない。そう分かっているからだ。
だから戸惑った気配のまま、ただラクスを見つめているとラクスが顔を上げ、微笑んだ。
目が赤く、拭いきれない涙が頬をつたう。

「申し訳ありません。あなたに聞かせる話ではありませんのに」
元婚約者に他の男への想いを聞かせる。
たとえ互いに想いがなくとも、恋人に捨てられるかもしれないと泣くことは無神経なのではないか。
ラクスはそう謝るが、アスランはいえ、と目を伏せ、次いで窓の外を見る。
そこから見えるのはキラとフレイ。
ラクスも目を伏せ、そしてぐっと拳を握って、アスランと同じように窓の外を見た。そして苦しそうに目を細める。

一度フレイを離したキラは、フレイと二人で話がしたいと、フレイから視線を外すことなく言った。
フレイに、ではなくアスランとラクスにだ。
ラクスは震え、キラと弱々しく呼んだが、キラは振り向かなかった。それにラクスが顔を歪めてうつむいた。
アスランはフレイを見て、どうするべきかと悩んだ。
フレイはキラに会わないと決めてはいたが、実際に会ってしまえば揺らぐものもあるのだろう。今の状態は不安定だ。
無理にでも連れて帰るべきかと思ったが、キラから視線を外せずにいたフレイの手がアスランに向けて伸ばされるのに気づいてその手を握った。
それに安堵したように小さく息をついたフレイに、キラは目を眇めた。そして繋がれた手を横目に、お願いと強く言った。
フレイはアスランの手をぎゅっと握って、わかったわと頷いた。
だからアスランは泣き出しそうなラクスを連れて、二人が見える喫茶店へ入った。

「何を、お話しされてるのでしょう」
「さあ。今までどうしてたのか、でしょうか」
そうですわね、と頷いて、アスランはと言って口ごもるラクスに、アスランは視線を移し、何です?と促す。
「アスランは・・・フレイさんとはどういうご関係なのですか?」
「そう、ですね。恋人ではありませんし、友人でもありません。けれど他人でもない」
指を顎にかけ、首を傾げながら言ったアスランに、ラクスが視線を移して、では?と首を傾げた。
アスランはしばし目を伏せ、考える。

自分にとってのフレイ。実ははっきりとは分からないのだ。自分でも。
好意は抱いている。大切だと思っている。側にいると安心するし、側にいて安心させてあげたいと思う。
フレイに抱きしめられるとほっとするし、フレイが笑っているとこっちも嬉しくなる。
そんな感情を抱いている相手を、自分は何と呼ぶのだろうと思う。
一番よく分かっているのはフレイとアスランを繋ぐものはクルーゼへの思いだということ。
ならば。

「同志、でしょうか」
「同志?」
「同じものを大切に思っていて、その思いを守り合っている」
「それは?」
ラクスの問いに、アスランは微笑む。
「秘密です」
「まあ」
くすくすとラクスが笑う。
久しぶりに見た笑顔に、アスランもくすくすと笑う。

クルーゼのことは教えられない。だから秘密だと言ったのだが、考えてみれば自分はラクスに対してそういう態度をとったことがなかった。
教えられないことを聞かれれば謝るばかりで。そんなアスランに、ラクスが仕方ありませんわ、と笑って引いてくれた。
こんな態度で接したことがなかったことに気づいた。婚約者であったというのに、ラクスに対して壁を作っていた。

「ラクス。せっかくですから何かケーキでも頼みませんか?」
今更な発見に内心呆れながら、奢りますよ、とメニューを開けば、ラクスがはいとメニューを覗き込む。
わくわくと嬉しそうなラクスに、アスランはほっとする。
先程の悲痛な表情がなくなった。完全に、ではないだろうが、少しでも意識を逸らせたのならよかった。
キラとフレイがどうするのかは分からない。その結果によってラクスもまた辛い思いをするのだろう。
ならば今だけでも。
これにしますわ、と顔を上げたラクスに、アスランは手を上げて店員を呼んだ。

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アスラクではありません(説得力ない)。
そして某神官を思い出しました(汗)。アスラクの台詞繋げればまんまだ・・・。

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