心臓が凍ったかと思ったの。
もう生きていけないとまで思ったの。
ねえ、あたしあなたが好きだったのね。
とってもとっても大好きだったのね。
だからあなたが目を覚ましたら言ってもいいかしら。
大好きよって。
泣いていた。
泣いて泣いて泣いて、言葉も発せないほどに泣いていた。
驚いて、戸惑って、どうしたらとうろたえた。
そんな俺に、彼女は泣きながら顔を上げて、
笑った。
すぐに顔を歪めて泣き続けたけれど、それがどうしようもなく嬉しくて嬉しくて。
泣き続ける彼女を抱きしめて、泣いた。
要を失くした国
プラントはAAをエネミー認定した。それに異論はない。
まだ心には彼らを弁護した気持ちはあるが、ミネルバはAAによって多くの犠牲を出した。もしかしたら失わなかったかもしれない命が散った。そうである以上、AAがエネミー認定されたのは当然のことだと分かっていた。
「ずいぶんあっさり頷いたわね、アスラン」
タリアが微笑んで言うのは、アスランがオーブにいたからだろう。AAと縁深いからだろう。
少しなりと反論が返ってくると、そう思われていたのかと、苦笑する。
「彼らはそんなつもりはありませんと言いたいのは確かなんです」
シンがぴくっと反応し、声を荒らげようとするのを、タリアが睨んで止めた。
悔しそうにうつむいたシンの肩をルナマリアが軽く叩いた。
「ですが彼らにそんなつもりがなくとも、彼らによって生み出された犠牲を無視することはできません」
そうね、と同意して、タリアはアスランをじっと見る。
「やれるのね?」
「はい」
即答したアスランにタリアは頷き、並ぶ赤三人が目を見開いた。
「あんた、本気なのかよ」
シンが尖った声でアスランを呼び止めた。
振り向いたアスランをシンは睨みつけるように、ルナマリアは心配そうに、レイは訝しげに見ている。
「何の話だ?」
「さっきのだよ!本気でAAやるつもりかよ!あんな何にもしなかったくせに!!」
「ちょっと、シン!!」
ルナマリアがシンの肩に手を置いてを止めるが、シンはそれを振り払う。
「できるのかよ。またあっさりやられるんじゃないのかよ!」
アスランは小さく笑うと、まさかと言った。
それにムッとしてさらに噛みつこうとしたシンは、アスランの目を見て息を呑む。
笑っているのに冷たい冷たい目がそこにはあった。
「もう決めた。俺は忠告したし、こちらの意志も伝えた。にも関わらずあいつらは変わらなかった。あいつらも決めてるんだ。あの道を行くと。あいつらのしていることを俺は納得できない。止めることもできなかった。なら俺は、もう袂を別つしかない」
シンとルナマリアが口を開けた状態で固まる。その中でレイが初めて口を開いた。
「本当にそんなことができるんですか」
「できるよ」
「あなたは彼らを大切に思っているのでは?」
「否定しない」
「それを撃てるのですか」
「撃てる」
レイが戸惑ったように目を揺らす。そして何故、と問うた。
あんなにも不安定だったアスランは、今は揺さぶることを許さないほどに安定している。
どうしてだと思う。アスランの性格を考えれば、堕とされたからといってAAを見捨てるとは思えない。なのにアスランは心を決めている。
アスランは今度は優しい光を宿した目で、ふわりと笑った。
「俺はあいつらのためなら死ねた。死んでも構わないと思ってた。
あいつらに俺は必要ないと知ってたからかもしれない。だからそんな形で必要として欲しかったのかもしれない」
突然の告白に、何てことを言っているのだろうと思ったのはシンとルナマリアで、レイは自分と同じで違う思いに目を見開いた。
レイはギルバートのために命を使うと決めている。そのために短い生を必死に生きている。アスランのように必要とされたくてではない。けれど、どこか共感できる自分に戸惑った。
「なのに、撃てるのですか」
アスランが頷いた。
「泣いてくれたんだ、レイ。キラ達に受け入れてもらえなかった俺に、切り捨てられた俺に。
生きていてよかったと泣いて、笑ってくれたんだ」
その時、嬉しくて嬉しくて泣けてきて。
生きていてほしいと言ってくれた。彼女個人として俺が必要なんだと言ってくれた。
そこに偽りなど欠片も見えず、ただ本当の想いだけが流れてきて。
「元々彼女のことは嫌いじゃなかった。でも、見てるのは辛かった。彼女は俺と同じだったから。
でもその瞬間、自分の中の彼女が変わった気がしたんだ。彼女が俺の心を守ってくれたように俺も彼女を守りたいと。
彼女の道は茨道でしかない。それを俺は守って一緒に歩んで行けないだろうかと」
本当はまだ情は残っているのだ。けれど彼らの道に納得できずにいる自分は、彼らにとって切り捨てても構わない存在で。
紡いだ言葉も思いも彼らに届かなかった。形を成して存在を否定された絶望から、ミーアが掬い上げてくれた。
「俺はプラントが大切だよ。オーブも大切だしキラ達も大切だ。でも、レイ。
キラ達は彼女を救えない。俺を救えない。そして、プラントも救えない。彼らが救おうとしているのは世界だから」
大きなものを救うために零れ落ちる小さなもの達を救えない。そのことにきっと気づいていない。
だから。
「俺はそれを救いたい。がんばっている彼女の隣で、俺はそれを救いたいんだ」
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ミリアリアが色々考えてる時のアスミア編でした。
そしてレイに語ることで議長に伝わることを何故か知ってるアスランです。
…本当は前回で終わりです(え)。
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