オーブが一番大変な時期にオーブは見捨てられた。

誰に?




オーブの中枢を担う者達に。




要を失くした国


中立を掲げる国だから。対立も差別も戦争も嫌だから。
だからオーブに移り住んだのに、オーブは戦禍にまみれた。

家が壊れる。
国土が焼ける。

MSが飛び交う中を、逃げて逃げて逃げて。
どうしてこんなことになったのか。どうして自分達は逃げなければならないのか、何も分からないままに。
そうしてそれが治まって知ったのは、ウズミ・ナラ・アスハと五大氏族の長達が、マスドライバーと共に自爆したこと。

指導者を失ったという、そのことだ。

混乱した。
オーブはこれからどうすればいい。オーブの民はこれからどうすればいい。
家を失って、家族を失って。友を恋人を失って。そして家までも失って。
そうして指導者失くして、どうやって生きていけばいい!?

そんな混乱の中、誰かが呟いた。
カガリ様は?と。
カガリ様も亡くなられたのか?と。
オーブの獅子と呼ばれたウズミ様の一人娘。
ウズミ様の全てとまではいかなくとも受け継いだろう姫。
かの姫が生きているのならば、と。

それは軍人達によって証明された。
カガリ様は無事だ、と。生きていらっしゃる、と。

ようやくの安堵。
よかった、よかった。
抱き合って喜んで。
明日も知れぬ我が身が保障された、そんな希望を抱いて。

なのに。




「今は宇宙にいらっしゃる。この戦争を終わらせるために、クサナギと共に、AAと共に自らMSを駆ってまで我らを守るために戦っていらっしゃる」




時が止まった。
今、何を言われたのだろうと皆が皆顔を合わせた。

今は、宇宙に?

そういえば、とまた誰かが言った。
宇宙へと向けて何かが飛んでいくのを見た、と。
いつだ?と他の誰か。
逃げている時。
それは何?
今思えばあれは、




軍艦とMSではなかっただろうか。




それは。
それはそれはそれは!!
ウズミ様はカガリ様だけを、己の娘だけを逃がしたということではないのか!?
民が逃げ惑っている間に!
民が怯え、震えている間に!
民が失っている間に!

国が焼けている間に!!

ああ、何という、何という!!
分かる。分かっている。
己の娘は大切だろう。己の娘に生きて欲しいだろう。
けれどそれは我らとて同じこと。同じなのだ。

娘を失った父親が呆然とした。
夫を失った妻が泣いた。
兄が怪我をして動けない子供が驚いて、つられて泣いた。

信じていた。信じていた。信じていた。
ウズミ様は決してオーブを戦場になどなさらないだろうと。
避難勧告を疑いながらも従った者ばかりではなく、まさかそんな、と家を動かなかった者もいた。
それを愚かと言うのだろう。けれど、それもウズミ様を信じたゆえだ。その理念を信じたゆえだ。
オーブの民は信じていたのだ。高々と語られるウズミ様のその理念を。それを形作るオーブという国を。
それを信じろと言ったのは、信じさせたのはウズミ様だったではないか。

一人が失った者の名を呼び、一人が泣き出すと、連鎖の様にそれは広がった。
失った者の名を、はぐれた者の名が広がる中、怪我をしている少女が叫んだ。

戦争なんてキライ、戦争なんてキライ。でも、守ってくれない国なんて大キライ!!

カガリ様は国を守るために、民を守るために戦争を止めに行かれたのだ、なんて言葉は知らない。
今、ここにいる我らはどうすればいいのだ。
今、ここにいる我らは何を希望とすればいいのだ。
いつ終わるかも知れない戦争を止めにいったカガリ様をどう信じろというのだ。
明日があるかも分からない我らを置いていったカガリ様の何を信じろというのだ。






オーブには今、指導者がいない。
民を支え、守るその姿は一度に失われた。ウズミ様も、五大氏族の長達も、カガリ様もいない。
彼らに問う。









守るって何を?









* * *


それから二年。
連合と同盟を結んだオーブで行なわれた結婚式から攫われた国家元首カガリ・ユラ・アスハ。
それが姿を現わしたのは、オーブではなくクレタ島沖。

「私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!オーブ軍、直ちに戦闘を停止せよ!軍を退け!」

MSに乗って、他のMSや軍艦を従えて現われたその場所は戦場。

ああ、またオーブは捨てられたのか。

そう、思った。

「現在、訳があって国許を離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハがオーブ連合首長国の代表であることに変わりない!」

あっけにとられていた師がシャッターを切るのに、他の同行者がその声を録音している。

「その名において命ずる!オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!」

また理念。
冷めた心で思う。
理念、理念、理念。そう言って国を焼いたのは誰だ。国民から犠牲を出したのは誰だ。
とうにオーブから離れた身だが、それでもカガリ・ユラ・アスハがオーブの代表となり、復興が進んでいると聞いて嬉しく思ったのを覚えている。
戻る気はなかったが、それでも指導者が国にいて、そうしてオーブがかつての姿を取り戻せるというのなら、これ以上嬉しいことはなかった。

タケチミカヅキがカガリ・ユラ・アスハが乗ったMSを攻撃する。
あ〜あ、と他のカメラマンが言った。
カガリ・ユラ・アスハの戸惑った声が響く。
そして動きが止まっていた地球連合軍とザフトが再び動き出す。

「オーブ軍、MS各隊は地球軍と共にミネルバへの攻撃を再開せよ。あれはカガリ様ではない。あれはカガリ様ではない」

当然だな、と師が呟いた。
視線を師に戻すと、師がシャッターを切りながら続けた。
「声だけならどうとでもなる。姿の確認がとれなければ、本人がどうかなんて分からん。姿が見えても本人かどうか」
そうですね、と頷く。
師が手を差し出すのに、新しいフィルムを渡す。
「まあ、本当に本人だったとしてもだ。ここで退くほど今のオーブの指導者は馬鹿ではないようだしな」
「え?」
どういう意味ですか?と首を傾げれば、同行者の他のカメラマンがははっと笑った。
「お前、ここで退いたら地球軍が黙っちゃいねえぞ?退いた途端にズドンだ」
「あ」
「あの姫さんはそれが分かってんのかね。それともあのMSが守ってくれるってことかね」

泣き叫ぶカガリ・ユラ・アスハを守るように戦うMS。
結婚式の最中、カガリ・ユラ・アスハを攫っていったMSだ。
オーブから指導者を奪っておきながら、オーブ軍を守ると言うのだろうか。矛盾してないだろうか。
けれど確かに、あのMSはオーブ軍を撃たないのだ。ザフトや地球連合は撃つのに、オーブは撃たないのだ。
それを見ていて、そういえば今カガリ・ユラ・アスハが従えている軍艦とMSは、オーブが焼かれた時も一緒だったな、と思い出す。
その頃の自分達、オーブの民の嘆きを連鎖して思い出し、ぽつりと呟く。

「何でですかね」
「うん?」
「何でオーブに帰らないんですかね。また、戦争を止めるまで帰らないのかな」

二年前の様に。
思い出す。あの絶望を、あの恐怖を。
いくら軍人達や政治家達が動いていても、国の指導者がいないという事実は民に不安を与える。
今、オーブの民はまたそんな気持ちを抱いているのだろうか。それともセイランがいる分、まだマシなんだろうか。

いつの間にかカメラをしまった師がぽん、と肩を叩いてくる。
「そろそろここもヤバイ。巻き込まれる前に行くぞ」
「…はい」
頷いて荷物を持ち上げる。そして今一度空を仰ぎ、カガリ・ユラ・アスハが乗るMSを目に映す。
カガリ・ユラ・アスハの嘆きが空を駆ける。白いMSがカガリ・ユラ・アスハを守る。

「あんたはいいな。泣いても叫んでも守ってくれる奴がいるもんな。俺達はいなかったよ。
泣いても叫んでも、守ってくれる指導者は一人もいなかったよ」

そのまま背を向けたから知らなかった。それを辛そうに見ていた女性カメラマンがいたことに。
だから知らなかった。

「キラ、カガリさん、皆。本当にそれでいいの?」

そうMSに問いかけていたことも。

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オーブ側というよりオーブに優しくありませんが、あんまりオーブ好きじゃないんで(え)。
オーブというより、ウズミとか一緒に自爆した氏族の人達とか。本編で言われるほど凄い人なのかといつも思ってたりします。
自爆したらウズミは終わるかもしれないけど、残された人は終わんないんだよとか色々。ええ、色々…。

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