憎い。
憎い憎い憎い。

アスラン・ザラが憎い。
トールを殺したアスラン・ザラが。
アスラン・ザラが。アスラン・ザラが憎い。憎い。

憎い。
憎い憎い憎い。

アスラン・ザラ。
彼以外憎むものなんて…!!


――本当はキラ・ヤマトを殺したかった?


違う…!!

違う。違うの、キラ。違う。

キラと叫んでブリッジを飛び出していったトール。
キラを助けようとMAで戦場を駆ったトール。

キラのために。キラを助けるために。キラの、せいで。

「そんなこと思ってない!!」

キラのせいで、トールは死んだのに?


隠された気持ち


「話してただけ」
ステラがミリアリアに切りつけられた時、一体に何があったのか。それに対する答えをステラがアスランの腕の中で言う。
ただ話していただけ。だからどうしてミリアリアがいきなり切りかかってきたのか、ステラには分からないのだと。
「何のお話をされてらっしゃったのですか?」
ラクスが怯えさせないようにと優しく問いかける。
「怪我はどうって」
「他には何を話したんだ?」
カガリを見て、ステラが首を傾けた。
ほか。
そう繰り返して、憎いと思わないのって、言われた。そう返す。
「憎い?」
「アスランと戦ってたのに、同じ部屋にいて憎くないのって」
ラクスとカガリ、そしてキラが顔を見合わせた。
憎くはないのだと返したステラに、ミリアリアは眉間に皴を寄せた。
「じゃあキラはって」
「僕?」
こくん、とステラが頷いた。
「キラはあなた達の仲間を堕としたでしょう?って」
キラが息を呑んだ。
ミリアリアがそんなことを聞いていたなんて思わなかったからだ。ラクスもカガリも眉を寄せた。
「それは確かなのですか?」
幾分険しい表情で聞くラクスに、ステラはどうしてそんなことを聞くんだろうとばかりにきょとんとして頷いた。
「どうしてって聞いたら、怒られた」
「怒られた?」

「可笑しいって。アスランもキラもステラの仲間を殺したのに、どうして憎くないの。手を伸ばせばすぐに殺せるのに、どうして殺さないのって言われた」

そうして医務室に置いてあったステラのナイフを持ってステラに渡そうとしたのだとステラが言う。
ステラに何をさせようとしているのか。流石にステラにも分かった。けれどステラにはアスランを殺すつもりもキラを殺すつもりもなかった。だから首を横に振って。けれどミリアリアは引かなくて。そうして気がついたら腕を切りつけられていた。

「う、そ」
キラが呆然として、カガリが目を見開いて、ラクスは考えるふうに目を伏せた。
「彼女が俺を憎む理由はある。だがキラも、か?」
アスランが眉を寄せる。どうしてだ。キラはミリアリアの友人だろう。なのにどうして。
思わずといった感じで呟けば、カガリがあ、と声を上げた。それに視線が集中するが、いや、なんでもない、とカガリが首を横に振った。
「言って、カガリ」
「いや、キラ」
「お願い。何か心当たりがあるの?」
聞きたくない。でも。そんな葛藤の見えるキラの目に、カガリが一瞬迷って、けれど分かったと頷いた。
「いいか?これは当時の私の感想であって、確かなものかどうかは分からない」
それにキラが頷く。
カガリが息を吸って、キラを真っ直ぐに見て言う。


「あの当時、お前がコーディネーターだから戦うことを強要された。それをお前の友人達は止めたか?戦うなと言ったか?」


キラが息を呑んだ。
その様子にやっぱりな、とカガリが息をついた。そしてキラに今まで言わなかったことを告白する。

「私はAAに乗ったばかりの頃、ミリアリアにあまりいい感情を持てなかった」
「…え?」

キラが目を見開いた。
「ミリアリアにというか、お前の友人達になんだが」
「な、んで?」
「何でって…。お前、孤立してただろう?」
キラが目を見開いて、それは、そうだけど、と小さく返した。
あの頃のキラはフレイとの関係があった。フレイはサイの婚約者だったというのに、キラはそのぬくもりに縋って、サイから奪った。サイの当然の主張すら理不尽に跳ね除けて。
だから孤立したそのことは仕方のないことだ。キラは自分の非を知っている。
けれどカガリはそのことには触れない。

「お前がコーディネーターだから戦って当然って態度が気に入らなかったんだ」

「…え?」
思ってもみないことを言われた。
そんなキラに、お前も感じてたんじゃないのか、とカガリが言うのに、心臓が跳ねた。見ようとしなかったものをカガリが言おうとしているのだと思った。見ようとしなかったもの。見たくなかったもの。

「お前は毎日毎日ギリギリだった。辛そうだった。でも誰もお前の負担を軽くしようと接する奴がいなかった」

カガリと話しているうちに年相応の笑顔を見せたり怒ったりする姿に、カガリは思っていた。
あの友人達は何をしてるんだと。カガリが声をかけるだけで笑うのに。苦しそうな顔を綻ばせるのに。
なのにミリアリア達は戦闘を終えて帰ってきたキラに、休憩時間ですら声をかけなかった。なのに戦闘中はキラキラとキラを頼った。

「だから私はあいつらが好きじゃなかった」
「カ、ガリ…」

違う。そうじゃないんだ。そうキラは言いたかった。友人達との間に溝を作ったのはキラだと。けれど言えなかった。
ミリアリア達との間に不和が生じる前。キラは一度彼らを疑ったことがあるからだ。
ラクスをアスランに返す時、帰ってくるよなとしつこいくらいに言われた時、彼らは誰を引き止めているんだろうと思った。友達のキラを?彼らの命を守るために戦うキラを?どっちを?
そう思って振り切った考え。それが再び浮上したのは、アスランがキラの幼馴染だと知っていると言われた時。幼馴染と会って、それでもこっちに帰ってきたんだと喜んだ姿を見た時。彼らはキラの心などどうでもいいのかと。彼らを守るために戦いさえすればそれでいいのかと。そう疑ってしまったことがあったからだ。

「今はミリアリアのことを私も友人だと思っている。だがあいつの心の中にあの頃のあいつがまだいるんだとしたら、お前を憎む理由を持ってるんじゃないかと思う」
「ど、いうこと?」
キラを友人だと言うミリアリア。キラを気遣うミリアリア。けれどもしもキラから距離を取っていた頃のミリアリアがまだいるのだとしたら。




「コーディネーターであるお前をナチュラルである恋人が助けに行って死んだ。そう思うあいつがいたとしたら?」




『あんた、自分もコーディネーターだからって本気で戦ってないんでしょう!!』

父親をザフトに殺されたフレイがキラにそう言ったことを思い出す。
あの時のフレイはキラが戦っている相手が幼馴染だとは知らなかった。それでも同じコーディネーターだから。そうフレイは言った。
けれどミリアリアは知っている。トールを殺した相手が、キラがその時戦っていた相手が幼馴染だと。ならばフレイと同じように思ったのではないだろうか。


幼馴染が相手だから本気で戦ってないんじゃないか。


そう思ったのだとしたら。
あの後、キラもストライクに巻きついてきたイージスの自爆のせいでAAに戻れなかったから。だからミリアリアの中でそんな感情が浮かばなかっただけで。再会した時はキラの生存を喜んだ心に隠れて見えなかっただけで。ずっとずっと心の中ではキラへの憎しみが育っていたのだとした、ら。

真っ青になったキラに、ラクスとカガリがキラ、と肩に手をかけた。そのぬくもりに泣きそうな顔で笑って、けれどすぐに崩れた。
それをアスランとステラは無表情で見ていた。

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