トールが行く必要なんてなかった。
トールはナチュラルで、キラはコーディネーターで。
トールは戦えないけど、キラは戦えて。

なのにどうして助けにいくなんて言うの。
待ってればいい。いつだってキラは帰ってきたんだから、待ってればよかった。

トールは死んだ。
キラは帰ってきた。

ねえ、トールがMAに乗る必要なんてどこにもなかったじゃない。
キラは死ななかったんだから。帰ってきたんだから。

トールが死んだのに、キラは帰ってきた。
トールが助けにいったキラは帰ってきた。
トールは死んだのに、ねえ、帰ってきたんだよ?


隠された気持ち


「返して!トールを返して!返して!!」


ミリアリアがキラの胸を叩きながら泣き叫ぶ。
ちゃんとミリアリアと話したい。キラがそう言ってミリアリアの部屋のドア越しに話をして。すぐ後ろにラクスとカガリ。そしてマリューとムウが立っていた。

始めはキラだけが話していた。その内ミリアリアが違うのだと叫んで。違う違うそうじゃないそんなこと思ってない信じてキラ。
けれどだんだんとミリアリアの言葉にキラを責めるようなことばが混じりはじめた。

とーる。トールトール。どうして。だってキラは死なないのに。キラはコーディネーターなのに。トールが助けにいく必要なんてないのに。どうしてトール。私達だって戦ってたのに。キラだけじゃないのに。どうしてキラを助けにいくなんていうの帰ってきてトール。

可笑しいじゃない!どうしてキラは生きてるのにトールは死んだの!?キラがトールに心配なんてかけるからトールが死んだのよ!キラが大丈夫だってしっかりしてないからトールが自分もMAに乗るなんて言い出したのよ!幼馴染だからって本気で戦わないから!アスランは敵なの!アスラン以外は殺してきたじゃない!なのにどうしてアスランは殺さなかったの!殺せたじゃない!キラなら殺せたでしょう!?ずっとずっとそうしてきたのにアスランだけ殺さないからトールが死んだの!ああ!どうしてよキラ!キラが悪いんじゃない!キラのせいで私達はマリューさんに軍事機密を見たなんて言われて危ない目に遭ったんじゃない!トールが死んだんじゃない!返して、返して!トールを返して!!

真っ青になるキラ。けれど目を強く強く瞑ってその言葉を聞くキラ。
それ以上に真っ青になっているのはマリューだ。

「マリュー」

ムウが呼ぶ。
マリューはムウを縋るような目で見上げる。

「ムウ」
「軍人じゃないキラを戦わせたのは俺達なんだろう?」
「ムウ」
「あの嬢ちゃん達を人質にとって戦わせたのは俺達なんだろう?」
「ムウ」
「ザフトに追われてるのにあいつらを捕縛することにしたのはお前さんで」
「ムウ…っ」
「その理由にした軍事機密を見たってのは、お前さんがキラをストライクに押し込んだことで」
「ムウ!」
「あの嬢ちゃんが恋人が死んだのがキラのせいだってなら、キラのせいになった原因はお前さんにあるってことだ」
「…!!」
「それに今更気づくなんてのは、随分と無責任じゃないか?」

今まで考えなかったのか。
キラを戦うのは強制されたからだ。AAに乗る軍人達に。
キラがAAにいたのは乗せられたからだ。マリューに。
マリューがキラに軍事機密を触らせて、助けられて、そうして機密保持のためにザフトに追われる艦に乗せて、コーディネーターだからと戦わせた。
それを今更気づくのか。キラを戦わせることに心を痛めていても、その原因の始まりが自分だと思わずに。

「そもそもヘリオポリスを戦場にしたのは地球連合軍とオーブだろ?攻めてきたのはザフトでも、そうなる理由を作ったのは地球連合軍とオーブだろう?キラ達は巻き込まれた」
中立を謳うオーブ。
それを信じて戦争のない世界を生きていたキラ達を裏切った。
「ヘリオポリスを壊したのはAAだろ?巻き込んでおいて壊してそのまま逃げた」
AAを無事に持って帰らなければいけない。その一念で他を犠牲にした。他国の国民を危機に陥れて逃げた。
「なあ、俺達は最初っから加害者だろ?何を今更傷ついた顔をするんだ、マリュー?」
どうして泣くんだ、マリュー。
冷めた目でムウが言った。

そんな遣り取りを知らず、子供達はミリアリアの叫びをただ聞いている。どうすればいいのか分からずに。
頼りになるはずの大人は誰も介入しない。ムウは介入するつもりがないし、マリューはそれどころではない。

仲間で、友達で。今まで笑い合ってきた彼女の隠された気持ち。
話し合う?無理だ。話し合いにすらならない。彼女が隠していた気持ちは暴かれた。抑え込んでいたものは消え去って、ただただ彼女はキラを責める。お前のせいだと。お前さえいなければトールは死ななかった。自分達は戦艦になんて乗せられなかった。


「人殺し!!」


その『人殺し』のおかげで生き延びてきたことも忘れて。
その『人殺し』を頼って頼って敵を屠らせてきたことも忘れて。




『被害者』は『加害者』を責めたてた。







「オーブのお姫様、邪魔」

二人っきりで医務室でお留守番。
ステラはアスランの膝の上に座って首に両手を回す。腰にはアスランの手が添えられていて。
口を大きく開けて、首筋にがぶっと噛みつくステラに、アスランは顔を歪める。痛い。
ステラが歯を立てた部分から血が流れる。白い肌に赤が映える。それをペロッと舐めて。ステラはむう、と唸った。
カガリに見つかればまた隠されてしまうだろうか。そんなステラに苦笑して、アスランがステラの右手を攫った。そしてその指に口づけると、がりっと中指に噛みついた。

「邪魔なのはカガリだけか?」
「プラントのお姫様も邪魔」
「それで?」
「キラ・ヤマトも邪魔」

そうでしょう?とステラが顔を近づける。それを見返すアスランの唇に口づけて。
今頃、医務室に残してきた二人のことなど忘れているだろう邪魔者達をどうしよう、と考える。

ミリアリアはもうアスランを見ないだろう。キラも今はミリアリアのことで頭がいっぱいのはずだ。そのキラを慰めるためにラクスもカガリも忙しい。けれどカガリはそのうちアスランの前に現れる。恋人という立場に縋って、弱音を吐きに。甘えに。

「邪魔するのは、いらない」

アスランの歯がステラの喉元に噛みつく。
んっという声を洩らして、ステラがアスランと繋いだ手に爪を立てる。

邪魔。
邪魔。
邪魔。

それを、さあ、一体どう排除しよう。




end

リクエスト「ヤンデレアスステと黒ネオでアンチキララクカガ&マリュ&ミリ」でした。

私が書くヤンデレにもう誰も期待していらっしゃらないでしょうが、すみません。今回も謝ります(汗)
これでも勉強したんです、ヤンデレ。すみません、本当ヤンデレ難しい…。

今回はミリアリアに焦点を当ててみましたが、初めて種を見た時マリューさんを好きになれなかったので、それも一緒にいれてみました。
軍事機密保持は分からなくもありませんが、あの状況で一般人を拘束するのはどうなんだと思ったので。
その後も人質とってキラに戦わせ続けて、キラの精神面のフォローもなかったので印象は悪かった。そんなことを思い出しました。

リクエスト、ありがとうございました!

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