愛しいひと、わたしはここに


戦犯、パトリック・ザラ。

その一文に顔を歪めた。
分かっていることだった。ちゃんと分かっていた。けれど実際にこの目にしてしまえば辛かった、悲しかった、悔しかった。
確かに父がしたことはそう呼ばれても仕方のないことだ。父は狂っていた。それは否定しない。アスランもその目にして、その耳にしてそう思ったのだから。
一体いつから?母を失った時から?自分のことで精一杯だったアスランには分からない。
けれどプラントを思う気持ちは、コーディネーターを思う気持ちは嘘ではなかった。そう思っている。だから戦犯という肩書きはそれさえ否定されたに等しいと、そう思った。

「今度は、俺がそれを他の人に味わわせるのか」

ぽつりと呟く。
少し離れたところでお茶を入れていたメイリンが振り向いて首を傾げたので、何でもないよと首を横に振った。そうですか?とメイリンがまたお茶を入れる作業に戻るのを眺めながら、人質をとられたようなものではある、と心で呟く。
アスランとメイリンにかけられた冤罪は解ける。だが已むに已まれぬ事情があったとはいえ、脱走は脱走。それに連なって敵対行動まで行っている。これはうやむやにしていいものではない。だから、と評議会は言った。

だからラクス・クラインの罪を明らかにするために協力を、と。

アスランのことならばいい。罪は贖うつもりだ。けれどメイリンはアスランが巻き込んだのだ。メイリンが自分の意思でこの手を取ってくれたとはいえ、差し伸べたのは自分だ。差し伸べるに至った経緯も自分が原因だ。だからメイリンだけは無事に家族の元に返してあげたい。
巻き込んだから。その罪悪感。そしてメイリンに助けられたから。心身ともにメイリンに助けられた。だからせめてメイリンだけはとそう思う。
思う、のに。

「どうぞ、アスランさん」
「ああ、ありがとう」
アスランの前にカップを置いたメイリンが向かいに座って、熱いのだろう、入れたお茶に息を吹きかけている。それに微笑んで。そして目を伏せる。視線の先には湯気をあげるカップ。それを手にとって一口。

評議会に協力するのは自分だけにと申し出た時、メイリンは怒った。これは自分の問題でもあるのだからと怒った。
自分でアスランを助けると決めた。自分でアスランについていくと決めた。自分でAAで戦うと決めた。巻き込まれたわけではないのだと。そう思うくらいならば保安員を追い払ったりしなかったし、しても去っていくアスランを引き止めたりしなかった。
だから、とメイリンは言った。ラクス達を裏切る行為になるのだとしても、それを決めるのは自分なのだと。アスランが決めたように自分が決めるのだと。

「君は強いな」
「え?」

きょとん、としたメイリンに、何も言わず微笑んだ。







刻一刻と時が近づいてきている。アスランと二人、求められるままにした証言が公にされる時が。
アスランには自分で決めたのだと大きなことを言ったが、本当は怖かった。話すたびに心臓が鼓動を早めた。

歌姫であるラクスが大好きだった。どんな人の言葉よりも信じられた。それはプラントの国民であれば当然のことだ。
歌姫ではないラクスを知ったとき、驚いて戸惑ったけれど、遠い存在であるラクス・クラインを身近に感じた。自分と何も変わらない女の子なのだと嬉しかった。
AAのクルー達も皆いい人だった。優しかった。ルナマリアと離れて、ザフトから追われて、辛かったし寂しかったけれど、彼らのおかげで不安も和らいだ。一番不安を感じなかったのはアスランの側にいる時だったけれど。
だからこそ怖かった。彼らを裏切る自分が。

「でも、決めたんだもん」

思い出すのは一人で泣いていたアスランの姿だ。親しくしている人ばかりのはずの艦で、たった一人泣いていた姿だ。
そんなふうにまた一人で泣かせたくはない。泣くのならば側で抱きしめてあげたい。だからラクス達よりもアスランを選ぶ。もう選んだ。
きっとアスランは全てが終わった後、泣くのだ。自分を責めて泣くのだ。だから、と目を伏せる。

メイリンが話したことによってラクス達がどうなるのかは分からない。
アスランが言うようにラクスはラクス・クラインとしての全てを失うのだろう。けれどきっと、それ以上のものも彼女達は失うのだろう。分かっているけれど。




自分だけはアスランの側にいるのだと、強く強く誓ったのだ。




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