愛しいひと、わたしはここに


どういうことなの、と怒鳴り声が部屋に響く。それに続いて、落ち着けと一喝する声。
行政府にあるオーブ代表の執務室にキラはいた。オーブ代表であるカガリに呼ばれたからだ。
他にはマリューとフラガがいて、一様に厳しい顔をしている。

「だって、だってカガリ!ラクスはプラントに頼まれてプラントに戻ったんだよ!?なのにどうしてラクスが戦犯なの!!」
「これから説明する。だから落ち着け、キラ」
「どうしてカガリはそんなに落ち着いてるの!ラクスが捕まったんだよ!?」
「私だって納得いかないさ!だがまず落ち着かなければ、ラクスを助けるにも助けられないだろうが!!」
バンッと机を両手で叩いて立ち上がったカガリに、キラはびくっと体を震わせて俯いた。
「…ごめん」
「いや…、私もすまなかった。ついカッとなった」
「ううん。落ち着いてちゃんと聞くよ、カガリ」
マリューさんとムウさんもすみませんでした、とキラが振り向いて謝れば、マリューは気にしないでと微笑んで、フラガは笑って手を振った。
「それにしても一体どういうことなの?カガリさん」
「ああ」
カガリが頷いて椅子に腰を下ろすと、机に肘を立てて両手を組んだ。

「まずオーブにラクスがザフトに捕らえられたという情報が入った。だが私はお前達からラクスはプラントに請われて戻ったと聞いていたから、何かの間違いじゃないかと思って調べてみたんだ」
マリューが頷いた。キラはぐっと拳を握ったまま、フラガは腕を組んでカガリを黙って見ている。
それを順々に見て、カガリは眉を寄せた。
「アスランとメイリンも拘束されていることが分かった」
「なっ、何で!!あの二人はプラントが迎えに…」
キラは止めたのだ。けれどアスランは行ってしまった。
ラクスは大丈夫だと笑ってくれた。アスランとメイリンのことはラクスが評議会に言っておくと言ってくれた。
なのにそのラクスは捕らえられ、アスランとメイリンまで。
三人に共通するものは、同じ陣営で同じものを敵として一緒に戦ったことだ。
けれどだから何なのだ。三人が捕まる理由にはならない。

「アスラン達はシン達と同じ艦でプラントへ向かった。そしてプラントで分けられたらしい」
アスランとメイリン、シンとルナマリアに。シン達はミネルバクルー達と合流、そのまま待機。アスラン達は評議会に拘束。理由は分からない。
「分からないってことは、ラクスのように戦犯として捕らわれたわけじゃないってことか?」
「ああ」
それにキラが目を見開きマリューが眉をしかめる。
「ねえ、プラントはどうしてアスランくんとメイリンさんを迎えにきたのかしら?」
「どうしてって…二人がザフトだったからじゃないんですか?」
冤罪をかけられたからとはいえ脱走兵。捕らえにきたのではないのか、そう思っていたから帰るというアスランを止めたのだ。アスランは裁かれるのが当然なんだと言って聞いてはくれなかったけれど。
「そうね。でもね、キラくん。ならどうして他のエターナルクルーはラクスさんと一緒だったのかしら」
「え?」
「プラントが迎えにきたのはザフトのシンくんとルナマリアさん。そして元ザフトのアスランくんとメイリンさん。ラクスさんやエターナルクルーに迎えはなかったわ」
エターナルクルーはラクスのために集った。けれどザフトに所属していることに変わりはない。
プラントにしてみれば括りはアスラン達と同じ脱走兵のはずだ。マリュー達の中のエターナルクルーはザフトではなく仲間という認識だったから気づかなかったけれど。
なのにプラントはエターナルクルーのことは一言も口にしなかった。プラントがラクスに言ったのは、人手が割けないのでエターナルできてほしい。それだけだ。
その言葉にその時は何も思わなかったけれど、ラクス達が捕らわれた今ならば可笑しいと思う。
シンとルナマリアはミネルバのパイロットだ。ミネルバはデュランダル派の力の象徴のように扱われていたため、彼らも一応デュランダル派ということになるだろう。だからラクスの艦に乗せるわけにはいかなかったのだろう、と宇宙でフラガが言っていた。
アスランとメイリンも似たような理由だろうと。二人は脱走兵だから、ラクスをプラントに迎えることと同列にはできなかった。
この様子では違ったのだろう。他に理由があった。二人をラクスと分けてプラントに戻す理由が。
そんなマリューの言葉にキラとカガリが顔を見合わせた。
理由、と呟いて顔を上げたのはフラガだ。

「証人、じゃないか?」

「証人?」
カガリが眉を寄せて聞き返せば、ああ、とフラガが頷いた。
そして髪をがしがしと掻き乱すと、怒るなよ?と言ってから口を開く。
「エターナルクルーってのは皆ラクスのために集まった人間だろ?だがアスランとメイリンは違う。已むに已まれぬ理由があってAAにきただけで、元々はこっちと敵対してたミネルバに乗ってたんだ」
「でもアスランは僕達の敵じゃ」
「ああ、分かってるって。でも味方ってわけでもない」
「なっ」
「何を言い出すんだ、フラガ!!」
カガリが机を叩いて立ち上がる。
アスランが味方ではない?どうしてそんな考えになるのだ。アスランは仲間だ。大事な大事な仲間。ずっと一緒に戦ってきたというのに、まだ地球軍とザフトという立場を引きずっているのだろうか。
カガリの怒りとキラの不安な目にフラガは落ち着けって、と両手を前に出す。その隣のマリューは難しい顔だ。
「ねえ、ムウ。あなた、プラントはアスランくんとメイリンさんにラクスさんにとって不利になる発言をさせようとしてるって言いたいの?」
え、とカガリとキラがマリューを見た。
フラガはああ、と前に出した手を引っ込めると、真剣な顔でカガリとキラを見る。
「ラクスは結構厄介な存在なんだと俺は思う」
「厄介?」
キラが不可解そうに眉を寄せた。
「そうだ。ラクスは力がありすぎるんだ。国を出たってのにわざわざ偽者が作られるってことからも、ラクスのプラントに対する影響力の半端なさが分かるだろ?」
だからこそ思うのだ。
味方であればこれ以上ないくらいに心強い存在なのだが、ラクスは必ずしもプラントの味方であるとは言えない。
ラクスはたとえ故郷であろうと誤った道を歩んでいるのだと知れば、その多大な影響力を持ってプラントが歩む道を妨害する。そちらの道は誤りだと。引き返せと。聞き入れられない時は強制的にでも引き返させる。それは二度の大戦を振り返れば分かることだ。
プラントにとって、いいや、プラントを動かすものにとってラクスとは脅威だ。いつ何時自分の政治を阻むかしれないもの。施政者はラクスに怯えながら政治を行っていかなければならないのだ。

「ラクスはそんな…」
「ラクスがするしないじゃない。プラントがどう思うかだ」
「カガリ?」
自分と同意見だと疑っていなかったキラが驚いたようにカガリを見下ろすが、カガリは深刻そうな顔をしてつまり、とフラガに視線を送る。
「プラントはその恐怖の目を摘み取っておきたい、と言いたいんだな?」
「ああ」
「そのためにラクスを戦犯として裁く、と?アスランとメイリンはラクスを有罪にするための証言者として呼ばれたと?」
そう言うんだな?とカガリがフラガを睨みつけるように見る。
「アスランはそんなことしないよ!!」
「私もそう思う。だから今拘束されてるんじゃないのか?」
カガリが重い息を吐いた。
それに俺の考えた合ってるとしたらだけどな、とフラガが苦笑する。
合っていれば拘束中の二人は説得されている最中なのかもしれない。プラントが暴力や脅迫も説得と解釈していないことを願いたい。それは口には出さなかったが、マリューは気づいたのだろう。険しい顔をしてフラガを見ている。目は不安に揺れている。
それに対して大丈夫だという言葉が無責任すぎる現状に、かける言葉もなくフラガは小さく笑うだけにとどめた。

「とにかく、こちらからプラントに働きかけてみる。ラクスのこともそうだが、アスランとメイリンのこともだ」
「カガリ…」
カガリは険しい表情を緩めて三人を見渡す。
「ラクスもアスランもメイリンも大切な仲間だ。必ず助けてみせる」
だから力を貸してくれ、と小さく頭を下げるカガリに、もちろんだとオーブ軍籍に入った三人は強く頷いた。


ラクス達を助けるどころの話ではなくなる日が近いとも知らずに。


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