「アスランが姿を消したそうだね」
ギルバートが苦笑する。
レイはそのようです、と頷いてギルバートを見ると、ギルバートは手の中でポーンを転がす。
「彼はただ自分の心のままに動いたに過ぎない。守りたいものを守るために動いた結果、英雄と称えられるようになった。それを彼はよくよく知っている。自分が英雄と称えられるに値しないことを彼は知っている」
誰もが誰かを守りたいと戦った。その対象は人であったり故郷であったり。ラクス達のように世界をと願って戦ったものはそれほどもいない。
アスランもラクス達と共に戦いはしたが、彼が守りたいと願ったものは人で、そして故郷で。世界ではなかった。
なのに戦った陣営のおかげで彼は英雄と称えられる。それにふさわしい願いなど抱いていなかったというのに。
「否定など無意味だろう?誰もが彼が英雄だと信じている。崇高な目的を成し遂げてくれたのだと信じている。それを否定してどうなるのだろうね」
「だから姿を消した、と?」
英雄と呼ばれることに対する無言の抵抗だというのだろうか。
眉を寄せたレイに、ギルバートはいいや、と首を横に振る。
「彼は逃げたのだよ。英雄と呼ばれる現実から逃げた。それだけだろうね」

アスランは実に扱いやすく、そして扱いにくい男だった。ギルバートはそう思う。
付け入る隙は多く存在し、そこを突けば脆くも崩れ落ちる。そうして手の中へと転がり込んでくる。なのにそこで安心してはいけないのだ。彼は突然変化する。強い意志を持って手の中から飛び出していく。そうして二度とこの手には戻らない。
今回アスランが姿を消したこととそれとは違う。アスランは己の意思で逃げたのではなく、促した誰かがいた。ステラという少女が、いた。
アスランはステラに促され、連れ出された。けれど結果は同じだろう。

「アスランはもう戻らないだろう」

英雄と呼ばれるアスラン。
悲劇の英雄と呼ばれ、多くの同情を受け、多くの期待を受けるアスラン。
それが辛かった。それが苦しかった。それが重かった。けれど、と思う。何よりも彼を打ちのめしたのは。

「誰も気づいていないからね。アスランが父親を愛している、そのことに」

そこに付け込んだことのあるギルバートは、言葉の意味を推し量ろうとしているレイに、小さく笑ってみせた。

悲劇の英雄の『悲劇』


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