いない。いない。いない。
カガリは唇を噛む。
プラントにいるラクスとキラから連絡があった。アスランが姿を眩ましたと。もしかしたらオーブに行ったのかもしれないと。今のプラントが辛いのだと姿を消した可能性が高いため、オーブへ降りたのかもしれないと。
けれど待てど暮らせど姿を現わさない。探しても見つからない。
結果、アスランはオーブにはきていないと、そう判断するしかなかった。
ラクスもアスランの足取りを追っているというが、全く掴めないのが実情だという。

何故見つからないのか。
精鋭と謳われたクルーゼ隊の赤であるアスランが本気でプラントから逃げようとしているからではないか、とラクスは言う。
そして特別な訓練を受けた軍人であるステラが一緒に逃げている可能性があり、二人が手を組んだなら早々に見つけることはできないだろうと。

ステラ。ステラ・ルーシェ。
ステラが監視の目を潜り抜けて向かった先が、どうやらアスランの部屋だったらしいということ。その後、ステラは姿を消し、アスランも又姿を消した。そのことから二人が一緒に逃げているのではないか。
そうラクスから説明されたが、湧き出る疑問がある。
どうしてステラが監視の目を潜り抜けてまでアスランに会いに行くのか。元は敵同士であった二人に面識があったとは思えない。もしも面識があったとして、それでどうして危険を冒してまでアスランに会いに行くのだ。それだけの理由があるのだとすれば、それは一体何だ。

最後の疑問が一番重要だとカガリは思う。
一緒に逃げたのだとすれば、ステラがそうした理由、アスランがそれを許す理由。それが一番。
けれどプラントから遠くはなれたオーブにいるカガリには分からない。ラクスは知っているのだろうか。

「どうしてアスランがプラントから逃げようとするんだ」

視界の端には何冊か重ねられている雑誌。どれにもアスランの特集が組まれている。
プラントほどではないが、オーブでもアスランの名は有名だ。特にその悲劇性が、だが。
アスランの辿った道には物語性がある。人々が好む材料が揃っている。オーブにおいてはザフトに所属しながらも、オーブを守って戦ったことのある人物。悪感情を抱かれることもなく、その名はオーブにも浸透していった。
それを嬉しいと思った。アスランがしたことが好意的に受け止められているのだと。
少し気になるのは悲劇の英雄という点だ。確かにアスランの過去はそう呼ばれるだけのものがある。だがアスラン本人がそう呼ばれることを嫌がるだろう。英雄と呼ばれていた頃も眉をしかめていたのだから、悲劇の、などとつけられれば余計だ。
カガリがそう呼ばれていたら、と考えるとすぐに嫌だと思うのだから、実際に呼ばれているアスランは更にだろう。

だからプラントから逃げたのだろうか。
そう思って、けれどそれだけであのアスランが逃げたりするだろうか、と思い直す。
眉をしかめながらもアスランのことだ。仕方がない、とため息をつくことはあっても逃げ出すことはない。そう思う。
ならどうして。

積まれた雑誌を一冊拾い上げる。そしてページを開いて軍服を着たアスランの写真を見下ろして、アスラン、と呼んだ。
そういえば最後に会った時、どんな顔をしていただろうか。
少し疲れているようだったから、ちゃんと休めよ、と言った自分の言葉しか思い出せない。

悲劇の英雄の『悲劇』


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