アスラン・ザラ。C.E.55.10.29生まれ、O型、ディセンベル市出身。元最高評議会議長パトリック・ザラと農学者レノア・ザラを両親に持つ。
C.E.61、父、パトリック・ザラが反コーディネーターの組織によるテロに遭ったことから月面都市コペルニクスへ移住。母、レノア・ザラと身分を隠しての生活がこの後七年続く。
C.E.70.2.14、血のバレンタインにより、母、レノア・ザラを失い、同年2.21ZAFTに入隊。同年9.20、士官学校を主席で卒業。赤を拝領し、クルーゼ隊に配属される。



C.E.71.4.17、連合の白い悪魔と恐れられ、多くの同胞を葬ってきたストライクを撃破。その功績を称えられ、ネビュラ勲章を受賞。同年5.17、ジャスティス受領。



C.E.71.7.1、ZAFTを離反。婚約者ラクス・クラインと合流。これより第三の陣営として戦争終結に向けて活動する。



C.E.71.9.27、父、パトリック・ザラ戦死。ジャスティスを自爆させることにより、起動途中のジェネシスを止める。




停戦後、英雄と呼ばれたラクス、キラ、カガリ、アスランは二度目とあってマスコミに大きく取り上げられた。テレビに雑誌。一日に一度彼らを見ないことの方が珍しいくらいに。
けれどそれも時が経てば静まってくるものだ。その中でアスランだけは可笑しなくらい騒がれ続けた。

ラクスは言う。アスランには材料が揃いすぎたのだと。
人が好む材料。容姿、家柄、能力がどれも極上と揃っているだけではなく、ついて回る悲劇性。
幼少時に父親がテロに遭ったために、父親と離れて暮らすことを余儀なくされ、数年後には母親を核という残虐な兵器で奪われる。それをきっかけにザフトに入隊。後、父親の乱心。父親との敵対。そして死別。自らが英雄と呼ばれる傍ら父親は戦犯と呼ばれる。
再び戻ったザフトにてかつての仲間と敵対。後信じたギルバートの乱心を知ったがために追われ、ザフトを離反。結果再び英雄となる。

それが世間の常識。
だから彼らはアスランを悲劇の英雄と呼ぶ。

それを聞いてシンは顔を歪める。
悲劇。確かに悲劇だ。けれどそれを世間に晒されることもまた悲劇ではないのかと。
苦しいのは本人だ。辛いのは本人だ。傷を抱えているのは本人だ。なのにその傷を世間に晒して、可哀想に、と不特定多数の人間に同情される。それは傷口に塩を塗りつける行為ではないのか。

ラクスは頷く。きっと彼は傷ついているだろうと。けれどそれを他人に見せようとしない。それがアスランなのだと。だからこそ皆で支えてあげなければと。その結果がこれだ。
部屋の中でシンは呆然と立ちつくす。目の前でラクスとキラが厳しい顔で話し合っている。

「もうずいぶん使われておりませんわね」
「一体いつから…だって通信には出てたよね?」
「ええ」

二週間だ。連絡がつかなくなって二週間。心配してきてみれば部屋の主、アスラン・ザラが姿を消した跡。
アスランはプラントが用意した部屋に住んでいた。未だマスコミに追いかけられるアスランのためにセキュリティがしっかりしているマンションだ。そこから姿を消した。
シンは呆然としたまま部屋を見回す。
家具はそのままだけれど、うっすらと埃を被っている。二週間分というには多い。
ふらふらっと歩いてキラ達が開け放したドアから中を覗く。そこはアスランの寝室だ。机に置いてあったノートパソコンが消えている。後は、何だろう。これもキラ達が確認のために開け放ったクローゼット。そこから何着か服が消えている。
シンが最後にアスランに会ったのはいつだっただろう。仕事で休みをもらった日、一月は前になるだろうか。その時アスランはどういう様子だっただろうか。戦後ずっと浮かべていた笑み、儚そうな笑みが頭に浮かぶ。戦時中のように怒ることはない。静かに静かに笑うだけだ。
ぐっと拳を握る。
言わなければ分からない。言わなければ分からないのにあの人は何も言わない。言わずに姿を消した。
いつもいつもいつだって勝手な人だ。残される人間の気持ちも知らずに!!
怒りの裏に泣きたい自分がいるけれど、誰が泣いてやるものかと歯を食いしばる。

「ステラ?」

そこによく知る少女の名前が聞こえて、はっと振り返った。どうして今ここでステラの名前が出てくるのだろう。
「はい。どうやらアスランに最後に会いにきた方がステラさんらしいのです」
「え…でも、どうして?アスランと仲良かったっけ?」
「病院で何度か会っていらしたようですわ」
病院。
ステラはともかくアスランが病院?見舞いにでも行っていたということだろうか。
訝しげなシンと同様キラも眉を寄せて、どういうこと?と首を傾げた。
「アスランは精神科に通っていらしたようです」
「なっ」
「どういうことですか、それ!!」
思わずシンが口を挟む。
精神科?アスランが精神科にかかっていた?
「初めはイザーク様に連れてこられたのだそうです。それから時々お一人で通われるようになったと」
時にはディアッカに付き添われて通ってきたこともあったのだ。そんな言葉に衝撃を受ける。
つまり治療が必要と判断されたということだからだ。
「でも、そんな報告…」
「アスランに硬く口止めされていたと。アスランだけではありません。イザーク様、ディアッカ様からも同様に」
「どうして!!」
「分かりません。それを確かめにまいります。もしかしたらアスランの行方もご存知かもしれません」
そうだね、と頷くキラに、けれどシンは何も言えなかった。
だってそれって、と再び呆然としたようにアスランの寝室を振り返る。

イザークがアスランを精神科に連れて行ったということは、アスランの異常をイザークは感じ取ったということ。ここにいる誰も気づかなかったそれに気づいたということ。
そして口止め。アスランは心配をかけないように口止めしたのかもしれないけれど、イザークとディアッカは知っているということ。連れて行ったのがイザークだからかもしれないけれど、アスランは診療結果を誤魔化すことなくイザークに話したということではないのか?心配するだろうと分かっていたのに。
それは、それらが意味するところは何だ。自分達には隠して、イザーク達には伝えた。その意味は。
すっと心臓が冷えた心地がした。

悲劇の英雄の『悲劇』


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