「アスラン、苦しい?」

床に座るアスランの足の間に座ったステラが、青白い顔に手を伸ばして包み込むと、澱んだ緑の目にそっと口づけて、ぎゅうっとアスランの頭を抱きしめる。

「かわいそうじゃ、ない」

ぴくっと腕の中のアスランが反応する。

「アスランもステラも、かわいそうじゃない」

二人に向けられる視線。
二人に向けられる言葉。

かわいそうに。
かわいそうに。
かわいそうに。

同情も憐憫も二人を切りつけるナイフだと気づかずに周りは否定するのだ。守りたくて戦ったその心を。
なのに期待するのだ。次の活躍を。守ってくれと守ってくれると。それが当然と。

「ステラはへいき。いやだけど、へいき」

ステラはプラントと敵対していた。
けれど幼い頃から殺人術を仕込まれ、精神操作まで施された強化人間ということで、今はプラントに保護されている状態だ。
それはステラを助けたいと願うシンの努力の成果ともいえる。そのおかげでステラが病院へ通う時間は同情と好奇の視線に晒されることにもなったが。
これはシンは知らないことだが、ステラを保護するということは、ステラという犠牲者を生み出すことを許した大西洋連邦への強いカードでもあるということだ。そのためステラは保護という名の監視を受けている。

「でも、アスランはだめ。もう限界、ね?」

アスランはヤキン・ドゥーエの戦いで乱心した父親と袂を分かち、平和のために立ち上がった婚約者と共に戦った英雄だ。
メサイア攻防戦においても乱心したギルバートを止めるため、先の大戦と同じく立ち上がった婚約者と再びザフトと敵対し、平和を勝ち取った。
アスランは英雄だ。共に戦った婚約者も英雄。仲間も英雄。けれど。

「もう泣けない、アスラン」

悲劇の英雄の名を持つのはアスラン一人だ。

「だから、ステラとにげるの」

人はいつの時代も悲劇の英雄を好む。

悲劇の英雄の『悲劇』


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