ルルーシュが記憶を失ってから、シュナイゼルの様子が可笑しい。
いつも通りの穏やかで優しい兄だけれど、いつでもしっかりと立っていたシュナイゼルが帰り道を見失った子供のように揺らいで見える。
気のせいかと思ったが、ユーフェミアもナナリーもそう見えるのだというから気のせいではないのだろう。

「やっぱりシュナイゼル兄上もショックだったのかな」

ルルーシュに忘れられたことはクロヴィスもショックだった。けれどクロヴィス達との思い出を持っていなくても、多少の違いはあれどルルーシュはルルーシュだった。だからクロヴィスはもう一度、ルルーシュと思い出を作っていこうと思った。記憶が戻ろうと戻るまいと、ルルーシュは生意気で、けれど大切な妹なのだからと。
シュナイゼルはクロヴィスより早くそうしていたように思う。クロヴィスがルルーシュに以前通りに接した頃にはもう、ルルーシュはシュナイゼルを信頼していた。だからさすが兄上、と思ったのだが。

「…兄上は深い方だからなあ」
内面を容易く読み取らせてはくれない。そんなことに今更気づく。
穏やかに微笑んで、困ったように笑って、悲しそうに目を伏せて。そういった表面でシュナイゼルの感情を知っていた今までを疑ったことなどなかった。けれどもしかしたらシュナイゼルの内面は表面に現れないのではないだろうか。
アリエスの離宮に広がる庭を前にスケッチブックに筆を走らせながらクロヴィスは息を吐く。
「兄上のことは私では分からないし」
どうしたらいいのかな、とスケッチブックと筆を手にしたまま後ろに寝転んでみる。こんなことはアリエスの離宮でしかできない。草の匂いが心地いい。
青い空、優しい風。暖かい光。その気持ちよさに目を閉じようとした時、声が聞こえて瞬きする。もう一度聞こえた。何だろうと起き上がると、視線の先にシュナイゼルとルルーシュ。ああ、散歩かな。
仲がよさそうに微笑みあいながら歩く二人。以前と何ら変わらない様子だけれど、そう見えるだけなのだろうか。
じっと見ても分からない。またため息をつこうとした時、強く風が吹いた。とっさに大切なスケッチブックを守るように抱いてから髪を押さえると、開けた視界から髪を押さえるルルーシュが日傘から手を放すのが見えた。とっさに掴んだのがシュナイゼル。けれど違和感。

「こういう時の兄上は…まずルルーシュを抱き寄せてたような…」

無意識に呟いて気づく。
そう、そうだ。クロヴィスがスケッチブックを優先させたように、シュナイゼルはルルーシュを守るように抱き寄せる。いつだってそうだった。なのにさっきのシュナイゼルの手はルルーシュに向かうのを無理に戻したように見えた。戻る途中でタイミングよく飛んだ日傘に向かった。
日傘をルルーシュに渡すシュナイゼルと受け取るルルーシュ。そしてまた歩き出す二人。それを追いながら、クロヴィスはもう一つ気づいた。

「ああ、兄上はいつからルルーシュに触れていらっしゃらなかったかな」

歩く時にルルーシュの手を引かないシュナイゼルに、兄の内面はやはり表面どおりではないのだと悟った。



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