「クロヴィス兄様」
どうしよう、という顔で見上げてくるナナリーに、クロヴィスも困惑した顔を返す。
二人が見たのは戸惑いながらも引き上げていくジノと、抱き合うシュナイゼルとルルーシュだ。
抱き合う、というのは少し違うか。二人は見ていた。シュナイゼルがルルーシュを馬上から下ろすのを。そのままジノから隠すように抱きしめるのを。
いつものように微笑を浮かべてはいたが、纏うオーラが怖い。離れたところにいるクロヴィスでさえ感じるほどだ。だからようやくシュナイゼルがルルーシュと会ったというそのことに喜ぶよりも、大丈夫だろうかという不安が先立つ。

「…戻ろうか、ナナリー」
「ですが、兄様」
「これ以上悪いことにはならないよ」

ルルーシュが記憶を失くして。シュナイゼルの態度が可笑しくなって。ルルーシュがシュナイゼルを見なくなって。シュナイゼルがルルーシュを避けた。
そうなってみて初めて気づいた。あの二人は兄妹ではなかったのだと。兄妹ではあるけれど、互いが互いに抱える想いは兄妹では決してなかったのだと。
だからルルーシュが記憶を失う前のあの二人はあんなにも仲が良かった。だからルルーシュが記憶を失った後のあの二人はぎくしゃくした。

兄と妹だ。抱く恋心に理解を示せるかといえば……よく分からない。
あの二人が兄妹であろうと恋人であろうと、クロヴィスにとっては親しんだ兄妹で。いちゃいちゃと擬音がつきそうなほど仲がいいのが当たり前で。互いの視線が合わずに辛そうな顔をする姿は見たくなくて。
だから。

「大丈夫。ルルーシュは兄上が好きで、兄上はルルーシュが好きだからね」

だから僕らは信じて待とう。あの二人がまた仲良く寄り添う日がくるのを楽しみに。
また駄目なら動けばいい。前に二人で兄上に言ったように、また言いにいこう。ユフィがルルーシュにしているように、背を押しに行こう。
そう言って手を差し出せば、その上にナナリーが小さな手を乗せて、はい!と笑った。
花が零れるような笑顔に、クロヴィスも笑った。







おつかれさまです、とユーフェミアが小さく手を振った。それに馬から下りたジノがはあ、と首を傾ける。
一体何だったのだろう、そんな視線を受けたスザクは首を横に振る。分からないからだ。
「これで少しでも好転してくれればいいのだけれど」
分かっているのはそんなことを言っているユーフェミア一人だ。

ユーフェミアは片頬に手を当ててほう、と息を吐く。
上手くいけばいい。
記憶を失ってもルルーシュはルルーシュで。シュナイゼルを好きになって、シュナイゼルもまたルルーシュを好きなままだった。だから思う。上手くいけばいい。
この先ルルーシュの記憶が戻っても、記憶喪失であった時の記憶を失っていても大丈夫だとユーフェミアは思う。
ルルーシュに愛されていることを知って、ルルーシュを愛していることを知ったシュナイゼルなら大丈夫だと。きっと口説き落としてくれる。
だから。

「がんばって、ルルーシュ」

この期に及んでお兄様が逃げようとするのなら、押して押して押して。押し倒す勢いでがんばって。
そうしたらもう記憶を失うほど自分を追い詰めるようなことにはならないから。お兄様を愛して、愛されて。そうして幸せに笑っていけるから。

「がんばって」

ユーフェミアの両脇に立つラウンズ二人が、顔を見合わせて不思議そうに瞬きした。



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