おいで。


その言葉は優しかった。
けれどその目は厳しい。


シュナイゼル殿下?とジノが。
声は戸惑っている。私も戸惑う。


腕を掴まれて、引かれた。
思わず悲鳴。ジノの腕が動くけれど、それより先に動くあなた。
しっかりと私を受け止めて、一歩下がった。
ジノを見上げて放つ言葉は、下がっていいよ。
声は優しくて、でもやっぱり目は厳しかった。


戸惑う。


腰に回された腕は力強く。
胸に顔を押しつけられた状態から逃れられない。


何故。
どうして。
何を考えて。


避けられていた。
会いたくても会えなかった。
ようやく会えて。なのにこの状況はなんだろう。


『なら引きずり出すしかないでしょう?』


そう言ったユーフェミアならば、この状況が理解できるだろうか。
戸惑う心。
けれど初めて触れた愛しい人に、胸が高鳴る。


ああ、記憶を失う前の私も、この人の胸の中、嬉しくて辛くて。
そんな気持ちを持て余したのだろうか。
そっと目を閉じた。



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