私は、とコーネリアは言う。
私はどう受け止めていいのか、未だ分かりかねていますと。
何の話だ、と首を傾ける画面越しの兄に小さく笑う。

「あの子が記憶を失って戸惑いました。記憶を失ってもあの子は私達の妹。だから何も変わらないのだと、そう思っていてもやはり戸惑いました。寂しかった、というのもあるのでしょう」
そうだね、と返る。
それはコーネリアに限らずクロヴィスもユーフェミアもナナリーも一緒だ。今まで一緒に過ごした時間を、一緒に作った思い出を今のルルーシュは何一つとして持っていないのだから。
「兄上は私達の中で一番早くに立ち直られました。そのお姿を見て私もあの子はあの子なのだと。失われた思い出はまた作ればいいのだとそう思い直しました」
けれど違ったのだ。
「クロヴィスが言っていました。兄上がルルーシュに触れようとしないのだと。ナナリーが言っていました。兄上がルルーシュに会いにこなくなったのだと」
黙って聞いていたシュナイゼルの肩が小さく震えた。どこか顔が険しく見えるのは錯覚だろうか。

「兄上は恐れていらっしゃるのですね」

シュナイゼルの目が軽く見開かれた。
恐れる?と唇が動く。

コーネリアがシュナイゼルに感じた違和感。記憶を失う以前のルルーシュのシュナイゼルへの想い。そうしてユーフェミアからシュナイゼルがルルーシュへの想い故に苛立っているのだと聞いて。そうして見えてきたもの。それがシュナイゼルの恐れだ。

「兄上。ユフィが言っていました。ルルーシュは逃げたのだと」
「逃げた?」
ルルーシュは逃げた。兄への想いから逃げた。けれど逃げ切れずにまた苦しんでいる。
本当に、と思う。半分しか血が繋がっていないのによく似ている兄妹だと。きっと多くいる兄弟の仲でこの二人が一番よく似ている。
「兄上も逃げていらっしゃるのですね。ですが兄上。兄上が逃げていらっしゃるものは、逃げても追いかけてくるものです。ルルーシュはまた捕まりました。逃げ切れませんでした」
「コーネリア。一体何の話だい?」
眉を寄せるシュナイゼルは本当に分かっていないのだろう。逸らしている視線を戻せば分かるというのに。
欠点などないのだと思っていた兄のそんな姿に、コーネリアは少し安堵する。
同じ兄妹でありながら遠い人だった。たった一日しか年の差がないというのに、手の届かないところにいる人だった。だから少し安堵した。
シュナイゼルもまた、自分と同じように迷い、逃げて、そうして苦しむことがあるのだと。
「本当は背中を押していいものかと、今でも思っています」
コーネリアにとってシュナイゼルは兄で、ルルーシュは妹だ。だからこそユフィのように全面的に応援することができない。
「ですが大切な二人が苦しんでいる姿を見るくらいならば笑っていてほしい。そう思います」
画面越しとはいえ兄の顔を見て、強くそう思う。
ですから、と一度目を伏せる。
まだ心は揺れるけれど。
兄が妹に。妹が兄に恋情を抱いているなどと、認め難いのだけれど。
未だ何の話だと訝しげな兄をもう一度その目に映して、コーネリアはしっかりとした口調で言った。




「あの子は兄上のものです。兄上があの子のものであるのと同様に」




もう逃げられないのだと気づいてほしい。



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