「まいったな」

バルトフェルドがため息をつく。
まさかカガリがこちらの手を拒むとは思わなかった。だからAAを出航させることに同意したのだ。
このままではだめだ。カガリという一国の元首の後ろ盾なくば、AAはただのテロリスト。カガリの私兵という名目が立てられない。ラクスをテロリストなどと呼ばせるわけにはいかないし、テロを起こすつもりもない。
キラ達は純粋にカガリのためにとしたことだろうが、バルトフェルドらクライン派はラクスのためにカガリが必要だった。

「どうしたもんかね」

このまま連れて行っても、AAはカガリの私兵だとは証言してくれないだろう。
困った事態になった。
そう思いながら歩いていると、キラがいた。展望室で海を眺めている。寄り添うのはラクス。
キラはずっと何かを考えている。ラクスの言葉にも相槌は打っているものの、恐らくは聞こえてはいない。

「本当に、どうしたもんかねえ」

下手をすればキラさえも失うな、と眉をしかめる。最大の戦力たるキラ。
ラクスが困ったようにキラを見上げていたのに、ふいに視線が逸れてバルトフェルドを見た。
小さく笑って、小さく首を振ったラクスに、キラはラクスに任せようとバルトフェルドは頷いて踵を返した。


Promise


「キラ」
「…うん」
ラクスはキラの意識がこちらにないことに困ったように息を吐く。

カガリを説得しようと言葉を重ねていたキラは、カガリが折れないと分かって、そしてしっかりとした意志の元に 立っているのだと分かって口を閉ざした。
オーブに帰せ、そう言うカガリに頷きはしなかったけれど、キラが迷い始めたのが分かった。
このままではキラはカガリに呑まれ、流されてしまうだろう。だから考える時間が必要だと思った。キラにもカガリにも。
そのためにカガリを用意した部屋に案内させ、キラを連れてブリッジを出た。

「ねえ、ラクス」
「はい」
ようやく自分から口を開いたキラに返事を返せば、キラがあのさとラクスを見下ろした。
「僕らはデュランダル議長を信じられない。ラクスを狙ったザフトの人を動かせるのは、やっぱりデュランダル議長だよね」
「そうですわね。ですが、キラ。デュランダル議長だけが動かせるわけではありません。決めつけるのはまだ早いですわ」
うん、とキラが頷く。
でもさとまた海を見るキラが目を細めた。
「今、プラントにいるんだよね。ラクスの偽者の女の子」

クライン派からラクスの元へときた知らせ。
プラントが再び核に狙われたが回避された。その知らせは驚愕と安堵を運んだ。
また戦争が始まる。一度核の被害に遭っているプラントが、その行いを許すはずがない。彼らの中の憤りは並大抵のものではないだろう。
プラント国民の憤りも忘れてはならない。彼らは怒りと混乱の中、どんな行動をとるだろうか。
そう思ったラクス達にもたらされたもう一つの知らせ。

国内で暴動が起きる直前、ラクス・クラインが現れそれを鎮めた。

「わたくしはここにいます。プラントに声を届けてもいません」
「うん。届けようにも僕らは知らなかった」
だから暴動を鎮めたラクス・クラインはラクスではない。偽者だ。
そして偽者を作るのだということを、ラクスは知らなかった。

「デュランダル議長が知らないはずないよね。ラクスがプラントにいないこと。なのに偽者のラクスが現れたこと」
「おそらくはデュランダル議長もご存知のことなのでしょう。確かにプラントの民には有効な手ではありますわ」
ラクス・クラインほどプラント国民に慕われている存在はいない。その存在は国民を落ち着かせるのに十分な力を持っている。それはひいては、国民の支持を集めるにも有効な手だということだ。
ラクス・クラインを使って国民の支持を集め、己の権力を立場を絶対のものにする。

「だからラクスを殺そうとした。自分達のラクスが偽者だってバレないために」

そう考えるのは間違いではないだろう。正解かどうかはまだ分からないが、恐らく間違ってはいない。
それを指示したのがデュランダルではないにしろ、プラントの中枢に関わっている人物で間違いはない。
地球連合軍から宣戦布告をされたプラント。それに対して積極的自衛権の行使を宣言したプラント。
けれどラクスが襲撃を受けたあの一件があるため、ラクスを使って自分達の支持を集め、そうして彼らはその宣言すら含めて何かを企んではいないだろうかと思わせた。
だからプラントを警戒して、必要があればAAを出航させようと決めて。

そんな矢先に決まったカガリの結婚。カガリはどうして結婚を決めたのかを言わなかった。
忙しく、時間が取れないのだと通信で報告を受けた時、本当は助けを求めたかったのではないかと思った。
アスランが側にいない時に決まった結婚。そして大西洋連邦との意に添わぬ同盟。
カガリはどれほど辛いだろう、どれほど助けを欲しているだろうと、そう思った。
それにオーブは中立を保つことを宣言している国だ。その国が大西洋連邦と同盟を結ぶ。
それはその宣言を、オーブの理念を裏切る行為だ。
頼れる人がいない今、弱ってしまっているだろうカガリにつけ込んだとしか思えなかった。
オーブのためにも、世界のためにもそれは駄目だと。だからカガリを結婚式場から攫った。
目を覚ましてほしかった。昔の明るく強いカガリに戻ってほしかった。なのに。

「カガリにはカガリの考えが、あったんだよね。カガリがあんなふうに考えてるなんて知らなかった」

ウズミの語るオーブの理念を守ることがオーブを守ることだと思っていた。それが最終的には世界を守ることにもなるのだと思っていた。
オーブのその理念。ウズミの意志を受け継ぐカガリ。それらは今のように争わなくてもいい世界を作るために必要なことだと思っていた。
だからオーブという国を失くしてはいけないのだと。カガリという後継者を失ってはいけないのだと。
カガリも同じことを思っているのだと、当然のように思っていた。

「自分にできることがある、か」

カガリは自分の立場から自分の国を国民を守ろうとしている。
自国さえよければ他国はどうなってもいい。そうじゃない。訴え続けていくのだとカガリは言った。
争いを止めることはできなくても、訴えていくことで考えてくれる人が増えていくかもしれない。 オーブに倣えという国が出てくるかもしれない。大西洋連邦といっても、全ての国が戦争を望んでいるとは限らないのだから。

「僕がやろうとしてることは」

ラクスが命を狙われているため、姿を隠す必要があった。けれどAAを出航させたのはそれだけが理由ではない。
プラントと大西洋連邦の動きによって動こうと思っていた。もしも戦闘が行われるというのならAAで介入し、止めようと。この戦闘は意味がないのだと。こうして争っていても何も変わらないのだと。ナチュラルもコーディネーターもない。同じ人間として手を取り合って生きていこうと。それができるはずなのだから。
そう思って。

カガリがしようとしていることと、自分達がしようとしていることに違いはないだろう。けれど違う。
カガリはオーブ代表としての肩書きがある。立場がある。けれど自分達は?何もない。そんな何もない自分達の言うことを聞いてくれるだろうか。カガリでさえ難しいことだというのに。

「キラ」
「僕は戦争になんてなってほしくない」
「わたくしもですわ」
うん、とキラが頷いて、ラクスを見る。
「でももう世界は動いてしまった」
「ですからわたくし達がいるのです、キラ」
ラクスがキラの腕にそっと手を置く。真剣な目でキラを見上げ、そうではありませんか?と微笑む。

「国の間にも、人の間にも制約というものが存在します。それは各々の平和を維持する上で必要なことです。 ですが本当ならば止められることが、制約があるが故に止められない。そんなことも起こりえます。 ですからどこにも属さぬわたくし達が必要となってくるのです、キラ。 わたくし達ならば世界が間違った方向に進もうとすることを止めることができます」

キラはじっとラクスを見る。ラクスは大丈夫です、とキラの腕を撫でた。
それが自分達がやるべきこと。そう理解すれば、キラの心がふっと軽くなった。
立場があるからできることもあれば、立場がないからこそできることもあるのだ。

そして、ふと思う。
何の制約にも縛られない自分達と一緒にくることが、カガリのためでもあるのだと。
カガリがしたいことをするには、自分達と一緒にいることが一番なのだと。
反コーディネーターが多くを占める大西洋連邦の中、たった一人戦い続けるのは危険だ。
けれどここは違う。ここから世界に呼びかければいい。オーブの代表として。その方が多くの人に話を聞いてもらえる。

「そう、だね」

より安全で、カガリの思いを受け取ってくれる人が多い方法があれば、カガリもきっと考え直してくれる。
そう思えば、もやもやとしていた黒いものがすうっと晴れた気がして、キラはようやく微笑んだ。

「ごめん、ラクス」
「いいえ」

いつもいつもラクスに助けられる。
キラとラクスは寄り添って海中を眺めた。







与えられた部屋で、カガリはウエディングドレスのままベッドに腰かける。膝の上にはベールと軍服。
着替えるつもりはない。今ここで軍服を身に纏うのは違う。そう思うからだ。
それにカガリは結婚式の最中に攫われたのだ。帰る時もこのまま帰る。だから着替えない。
そうしてその格好のまま、カガリはぼふっと背からベッドに落ちると、じっと天井を見る。

言いたいことは言った。カガリが何を考え、どうしたいと思っているのか。キラ達には分かってもらえたと思う。
それを納得するしないは個人の勝手だけれど、納得して欲しいと思う。大切な弟、大切な友人、大切な仲間だから。
万が一、分かってもらえなかったとしたら、カガリはオーブに戻るためにキラ達と戦わねばならない。
これから大西洋連邦と戦うのだ。ここでくじけてなどいられないし、一緒に戦うと誓った伴侶もカガリが帰ってくるのを 待っていてくれているのだから。

「…ユウナ」

臆病で弱虫で泣き虫で、カガリの後ろに隠れてばかりいた幼馴染。今でもそれは変わらない。
なのに、フリーダムに連れ去られようとしていたカガリを追いかけてきた。手を伸ばしてきた。怖かったくせに。
今はカガリが攫われたことで混乱しているオーブを抑えるために頑張っているだろう。泣きたいだろうに。

「必ず帰るから。だから、待っていてくれ」

早く帰って、一緒にオーブを安心させて。そしてユウナを力一杯抱きしめてやらなければ。
きっとユウナが泣いて泣いてどうしようもなくなるのだろうけれど。

end

リクエスト「Promise」の続きでした。
カガリがおまけ扱いです(汗)。そしてラクスがキラ洗脳してるっぽいですが、してません。本心です。
虎は他のAAクルーとと違って、これぐらい思っててくれないかなあと思ってます。

リクエスト、ありがとうございました!

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